巫女っぽい
街の灯りが見えてくる。もう着くのね。良かった。私のお尻がだいぶ痛くなってきていたのよ。馬に追い付く自信はないけど、もう自分で走ろうかと思っていました。
背中から声を掛けられる。グレッグだ。
「お前、あんな魔法が使えるなら、えげつない金的なんかしなくて良かっただろ?」
でも、戦力を無効化するには手っ取り早かったのよ。それに、
「魔法って続けて唱えられないんですよ」
そう。大きな効果を狙うほど、体が重くなる。これはお母さんも一緒だって言っていた。体内の魔力が減るんだそうだ。さっきの氷程度なら、もう慣れて何ともないけど。
「だったら、威力を弱めて無力化程度でいいだろ。命を奪うな」
拘るね、グレッグ。そんな行動を取った聖人様系の昔話も知っているけど、憧れはないのよ。
「聖竜スードワット様は『敵を知り、それを殲滅しなさい。傲り昂る魔物には鉄槌を、忍び寄る魔物には鉄拳を、圧し寄せてくる魔物には紅蓮の炎を』と仰っています」
とアシュリンさんが言ってた。完全引用よ。本当かどうかは知らない。
「ほんとかよ。聞いたことないぞ」
えぇ、私も。
「しかし、鉄拳か。お前の殴打は強烈だったものな。その細腕でよく出来たものだ」
でも、お母さんほどではないわよ。
お母さん、薪が足りないとか言って森の巨木を一撃で折っていた。それを何かの魔法で乾燥させた上で、手刀でお手頃サイズにしてたもの。お陰で村全体の十数年分の薪が出来たわ。
あんなの見せられたら、私の攻撃なんて下の下よ。お母さんが殴ったなら、たぶん男たちの頭が粉々になってるわよ。スプラッタよ。
「私はまだ未熟です」
「……なら、俺はもっと未熟だな」
そうですね。思考的にも騎士には向いてないかもね。
「何故、騎士を目指されているのですか?」
「代々、騎士の家系だからだ。シェラ様を守る盾にもなりたいしな」
お熱い片思いね。でも、シェラは結婚とかしないのかな。前に、他の街に嫁ぐか、巫女のままかの人生とか言っていたか。ちょっとだけ寂しそうだったのを覚えているわ。
恋愛とかないんだろうな。って、私にもそんな感覚、今までにないけどさ。
「お父様も騎士で?」
私の問いにグレッグは沈黙する。あら、聞かなかった方が良かったのかしら。
しばらく、馬が土を蹴る音だけが耳に入る。
「死んだんだ。三年前の戦争で」
そっか。それは辛いわね。
「失礼致しました」
「軍人なんて死と隣合せだからな。仕方ないさ。……メリナなら、弱いから死んだと思うか?」
それは無い。強くても負けるし、殺される。だから、全力を出さないと後悔するのよ。特に戦いの初っ端は。
「グレッグさんが尊敬されているのですから、お強かったと思いますよ。武運に不運は付き物です」
私は更にグレッグの気持ちを慮り、言葉を紡ぐ。
「グレッグさんが強くなりたいと願うなら、鍛練するしか御座いません。その先に何もないのかもしれませんが、お父様も通られた道です。信じるべきです」
「初めてお前が巫女っぽく感じたな」
グレッグは笑いながら、そう言った。
「メリナの才能は羨ましい」
「いいえ、私も聖竜スードワット様の下で鍛練をしたのです。聖竜様のお力の賜物です」
毎日、スードワット様が遊んでくれた。今思えば、あれは修行みたいな意味もあったのかも。『手を使わずに石を割れば、昔話をしてやろう』とか。
「冗談を言うな。神話のスードワット様にお会いしたなど口にするだけで笑われるぞ」
そういう反応になるのか。神殿の巫女さん連中なら分かってくれるかな。
「スードワット様はいらっしゃいますよ?」
「どうだろな。竜の神殿も、その伝説も、シャール伯爵の後ろ楯があってこその権威かもしれないぞ」
カチンと来るわね。あなたの今の発言、スードワット様を貶める言い方になっているのだけど。
グレッグはまだ続ける。
「……もし本当なら、俺もスードワット様のお力で強くして頂きたい」
分かりました。いつか、あなたに聖竜様のお力を存分にお見せしましょう。
まずは、聖竜様にお会いしなくては。
どうやって会えばいいのかしら。精霊さんにお願いすれば会える?




