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おっさん

 騎兵長さんが私の手を握る。


「いやはや、巫女様。私、聖竜様を篤く信仰しておるのです。そうそう他人には負けないくらいですぞ」


 信仰の強さに勝ち負けとかあるのかしら。


「私ども、信者を代表して聖竜様に日々尽くされている事、大変感謝しております」


 えぇ、でも、私はまだ聖竜様に何かをした事はないのよ。神殿に来てからやった事って、思い返せば喧嘩か体力作りなのよ。何よ、この肉体系労働は。


「すぐに街へお戻り頂きましょう」



 騎兵長さんが部下に手早く指示していく。私たちを襲った男たちを生死に関わらず一ヵ所に集め、見張りとして部下の内、二名を指名。氷に刺さった男はピクリとも動かなくなったけど、まだ刺さったままで下ろせなかったみたいだから、その氷の槍の元に全員を集めていたわ。

 それから、街と近隣にいる別の見廻り部隊への伝令を別の二名に命じた。更に見張り役の乗っていた馬を使って街に戻るようにグレッグに伝える。

 この人、有能。仕事が早いわ。顔の皺からすると、お父さんよりお歳みたいだから経験値が凄いのかもね。



 その騎兵長さんが近付いて、部下に聞こえないように私に言う。


「巫女様、あの氷は巫女様の御所業でしょう?」


 私は笑みで誤魔化す。


「あのレベルの魔法を使える方が見習いで有るはずがないのです。今思えば、あの火球もお美しい形でした。流石、巫女様で御座います」


 そっか。あの火球は見習いのものではないとこの人は感じた。で、グレッグはたぶんペンダントで騎士見習いで有ることが確定しているから、私が巫女見習いっていうのを虚偽と判断したのかな。


「宜しければお教え頂けないでしょうか。聖竜様のお声はどの様な感じなのでしょうか。残念ながら、私はお聞きできないものですから」


 正式な巫女ではないのだけど、質問にはちゃんと答えよう。ただ、聖竜様に夢の中でお会いしたのはもう5年も前の事になるのよね。


「とても力強く、心の奥底に染み込む様なお声です。耳から聞こえると言うより頭に直接入ってくる、そんな感じがします」


 私の言葉に騎兵長さんは目を開けて喜ぶ。


「おぉ! 別の巫女様に聞いたのと同じですね! 声はやはり男性の声なのですか?」


「はい、男性の声でした。深く重い響きを持たれていました」


「どんなことを言われておりましたか? シャールの街について、何か仰っておられませんでしたか!?」


 シャールについては特に触れておられなかったかな。でも、人間については考えておられたような。


「人々が安らぎ繁栄するために、この地をお守りされているようです。何でも地下深くにお住まいとか」


 そう。最初にお会いした時に、ここがどこなのかをお訊きしたのよ。


「なんと! 地中にいらっしゃるのですか!? この地に!!」


 騎兵長さんは地に膝と手を地に付ける。そして、そのまま唇も土に付けた。


「シャールに生まれ、50年! シャールの守護聖竜スードワット様が地中にいるとは存じておりませんでした。敬畏とともに日々、聖竜様の頭上を失礼していた事、私に代わってお伝え頂けませんか」


 もうスードワット様のお声を聞けなくなって久しいのよ。でも、この人の熱い目を見ていると、そんな無下に言えない。他のちゃんとした正式な巫女様に私からお願いすることにしよう。


「はい。かしこまりました」


「おぉ! 私、マンデルと申します。是非、お伝えください! 第三街区に住んでいる東部騎兵第十六分隊長マンデルですぞ」


 ここまで熱心に言われると、だいぶ胸が痛くなる。私に頼んでくれているのに、それに応えるのは別の巫女さんなんだから。

 あと、分隊長さんね。でも、私の中では今更だから、変わらず騎兵長さんとお呼びしよう。




「よし、ジェイド! すまん、俺がシャールまで巫女様を送る。お前は俺の代わりにここを見張れ!」


「ハッ!」


 ジェイドと呼ばれた若い騎兵は直ぐに反応して馬を降りた。そして、命じられたまま、倒れた男たちが並んでいる場所へ馬を牽いて向かう。




「ならば行きましょう」


 マンデルさんはそう言うが、一つ困った事がある。私は馬に乗ったことない。ロバならあるけど、そんな程度で毎日乗っているプロ達に付いて行けるわけがない。



 マンデルさんに相談したら、グレッグと二人乗りすることになった。


「このマンデル、巫女様と密着したい気持ちも強いのですが、ここは貴族様にお譲り致します。このようなチャンスを逃してしまい、大変、大変に男として雄として悔しいです」


 おい、おっさん、何を言ってるのよ! 一気にあんたの評価がガタ落ちよ。私に近寄るなっ。おっさんの腕のリーチ内には絶対に入らないから。


 それに、言われた私も意識するじゃない。グレッグに対してさえ、照れ臭い気分になってしまうじゃない。


 結局、私が前で後ろからグレッグが手綱を持つ形になったんだけど、向こうも私に気を使ってか、私の体に触れないように馬を操作していた。

 街までの先導は騎兵長のおっさん。ずっと同じ距離を保っているグレッグは剣の腕はアレだけど、さすがに騎士見習いだけあって馬の扱いは上手なのね。

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