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私は巫女でした

 私と男たちは対峙したままだ。

 男の一人が凄んでくる。


「てめぇ、よくも仲間をヤってくれたな」


 今更ね。そんな脅しで私が怯むとでも?


「まだ殺ってないですよ。確認してないです。全員倒れてから首を切断します。それまで待ってください」


「おいっ! こいつ、本当にヤバいって……」


 本当に素人ね。魔物でも獣でも首を切らないと仮死状態から復帰することがあるじゃない。私がそんなに甘く見えたの?

 って、まぁ、今回はただの威圧のためのセリフだけど。


 一人、引っ掛かったかな。



「分かった、分かったから、もう許してくれ」


 さっきから弱気な奴が剣を投げ捨てて、両手を上げる。隙を突かれるかもしれないので無視だ。



 私は構えを解かない。

 魔法で焼いてしまいたいけど、グレッグまで巻き込むと、彼に止めを刺したみたいで嫌な気分になるわね。どうして、そんな所で倒れているのよ。



「助けてくれないのかよっ!」


 あなた、女の子のお尻に棒を突き刺した人でしょ。何を言ってるのよ。どう助ければいいのよ、逆に教えてほしいわ。



 あっ、逃げ出した!

 でも、無駄よ。


 『私は願う。

  あの逃げる男の腹に尖った氷が突き刺され』


 地面から氷の槍が突き出して、逃げた男を刺す。オロ部長の時とは違って、ちゃんと貫通した。

 氷が長すぎたようね。土から男の足を持ち上げて、正しく串刺しになっているじゃない。もがいているから、まだ死んでないわね。



「む、無詠唱……?」


 唯一残った人も仲間が居なくなって、だいぶ気落ちしているようね。そう、それでいいの。

 私の勝率がより上がったわ。



「さぁ、続けましょう」


 私はにっこり笑う。


 あら、嫌だ。さっきまでの威勢はどうなったのかしら。ガタガタ剣先が震えているわよ。


「死んでたまるかっ!」


「いえ、あなたは死にます。それが私の意志です」


 逃がさない。戦意を無くしても生かさない。たぶん、ここで許しても繰り返す。土に還りなさい。



 ここでグレッグの体が少し動く。気絶から回復しそうね。一人残った男は剣をそっちに戻そうと先がピクリとしたけど、結局、私の方で留まる。

 残念。そっちに注意が行ったら殴って差し上げたのに。



 でも、男が座り込んでくれた。剣も離している。諦めたのかな。生きることを。


 私は周囲を見渡す。うん、呻いている人はいるけど、最初に倒した一人だけね。

 落ちている剣を拾って、今座った人を斬りましょう。(なまくら)っぽいから痛むかもね、ごめんなさい。鈍器的に頭を叩いた方が楽かな。




 私はまだ斬れていない。立ち上がったグレッグが止めるから。


「早く始末しませんか? こんなの生かしても何の役に立ちませんよ」


「いや、そうかもしれないが、お前が手を下さなくてもいいだろ」


 でも、誰かが手を汚すのよ。ここは手っ取り早く、私でも良いのでは。とは思いつつ、私はグレッグさんに従う。敢えて逆らう理由がないから。


 グレッグは袋から取り出した縄で盗賊を縛る。もう抵抗しないから簡単ね。私が手にしている剣はどうしましょう。もうグレッグの言う通りにするしかないわね。捨てましょう。



「大体な、お前、竜の巫女だろ? もっと可憐な人間だと思っていたぞ」


 おぉ……おぉ!!! 忘れていました。

 私は、そう、竜の巫女でした。村での魔物退治の感覚でやってしまいましたよ。えぇ、色々とやってしまいました。

 これは良くない。私の今後のために。



「グレッグさん、いえ、騎士見習いグレッグ様」


 私は真剣な眼差しで彼に呼び掛ける。


「この度はお助け頂き、ありがとうございました。この感謝の気持ちは後日、あなたの愛の成就への協力としてお返しさせて頂きとう御座います」


「急に気持ち悪いぞ! お前、見ろよ、この惨状を!」


 言われて周囲を見返す、私。


 金的で二人倒れている。内、一人は背中に剣が刺さっている。向こうで転がっている人は首が不自然に伸びている。たぶん、首の骨が外れてるわね……。

 あっちのは強烈。氷の杭に体が突き刺さっている。百舌(もず)速贄(はやにえ)みたいだと思えなくもないかな。ちょっと季節感があって乙な感じとか。……無いなぁ。

 一人だけでも無事に生きていて良かったというか、最早、誤差範囲。



「……流石、グレッグ様です」


「ここまでやって、どういうつもりだよ」


「黙っとけって意味で御座います。あなたもね」


 縛られた男と目を合わす。逸らさないでよ、全く。

 


「人間相手にここまでよくやるよ」


 まだグレッグは呟いている。その人間に殺され掛けてたのは、どこのどいつよ。


「これ、相手方が熊だとかオークなら良かったですか?」


「……知らないよ。俺は今のこの状況を言っているんだ」


「熊が4体瀕死で、1体を生捕りにしたのと大して変わりませんよ」


 私の言葉にグレッグはしばらく無言だ。


「人とは違うんじゃないか? それに瀕死っていうかほぼ死んでるだろ」


 漸く返した答えも分からないまでもないけど、村の幼児レベルの返答だ。それじゃ、甘いわよ。



「騎士のクセに気が弱いですね」


 私の挑発にグレッグは一瞬、睨んだ。でも、それまで。直ぐに目の力が弱くなる。


「……確かにな。戦いで震えていたら世話ないよな」


 えぇ、その通りです。精進有るのみです。


「場数が足りないんですよ」


「……俺でもメリナ程に成れるのか?」


 どうだろ。でも、何かの切っ掛けで急に強くなる人はいた。


「成れると思います。さしあたっては、そいつを斬ってはどうでしょうか?」


 私は縛られた男を指差す。あなたには、まず度胸が足りないのよ、グレッグさん。

 グレッグは男を一瞥してから答える。その動作に男は震える。



「いや、止めておこう」


 仕方ないわね。私も他人に人殺しを強要させるほど、ひどい人間じゃない。自分で殺るスタイルよ。


 ただ、そんな心持ちだと戦場で死んでしまうんじゃないかしら、グレッグ。職業を変えた方が良いと思うよ。


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