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先手必勝

 こういうのは先手必勝。

 私はグレッグの脇を駆け抜けて、一番近い奴の横に向かう。


 よし! 両手で握った剣は構えたままで、私には反応してないわね。

 グレッグに注意が行き過ぎてたのかしら。



 このアシュリンさんから頂いた靴、凄い!

 地面をしっかり掴んでくれるから、踏み込みから次への動作が速くなってる。



 いつもより速く目標位置に到達した私は男の手を拳で砕く。二度と剣が握れないように。

 柔いし、脆い。アシュリンの肘とは違うわね。私の拳は潰れていない。

 なら、続けて、もう一発。私は剣が動かないように手で固定しながら近付いて、膝蹴りを繰り出す。

 狙いは勿論、突き上げての股間。

 ただの布製のズボンみたいだから遠慮なく全力で破壊させて貰うわよ。


「グッ!!!」


 痛みを堪えきれずに息を吐き出した男が前屈みに倒れる。それを素早く避けて、次の獲物へ目を遣る。



 左右から斬りかかってくる二人を確認。

 振りかぶっている? 素人ね。

 後ろに控えていた残りの二人は、まだ反応なし。


 私はより近い側の左の男に向かう。右の方はグレッグに任せた。


「グレッグさんは、そっち!」


 これで分かってくれるわよね。


 言いながら体を横にして、私へ目掛けて一気に落とされた剣を躱す。もちろん、足捌きは止めない。前に出続ける。軌道が簡単に読める程度の腕だったから、余裕よ。

 私は剣の重さに負けて体ごと下がった男の顔面を右腕で撃ち抜く。拳に面の油が付いて気持ち悪い。仰向けに倒れた男の側頭部を更に爪先で蹴って、意識を奪う。

 首の骨がどうにかなった音がした。野犬ならこれで死んでるけど、どうかな。


 あと、三人。



 グレッグさんの方は二対一になっていた。もちろん、グレッグさんが一の方。防戦一方だけど、まだ持ち堪えそうね。

 なので、私はまだ参戦していない残りの一匹を。



 まだ棒立ちか。その剣はお飾りなのかしらね。


 私は一気に間合いを縮める。この靴、本当にいいな。瞬発力が相当良くなってるよ。


「あぁ!!」


 悲鳴なのか、気合いなのか分からない声を出して、男が私に振りかぶる。

 でも、この距離では剣を上げちゃダメじゃない。剣の振り下ろしが遅いと一目で判断して、私は下からの蹴りで男の無防備な股間を蹴り上げる。よし、潰れた!

 太股が閉じて、私の足が固定される形になったけど、力が弱いわね。そのまま後ろへ突き倒そうとも思ったけど、変更。足を引き抜く。もう気絶しているのかしら。

 慣性で落ちてくる剣の根本を支え、捻って男から奪い取る。力が入っていないから簡単だわ。


 うわっ、柄の部分がベトベトじゃない。こんなの、よく持っていられたわね。

 私はそれを今倒れた男の背中に突き刺す。皮服が意外に固くて途中で止まった。切れ味が悪いからかもしれない。

 ただ、これでも少しくらいは残った男たちへの心理的な圧迫に役立つでしょう。



 グレッグさんを見る。

 もう無理かな。肩から血が出ていて、剣も片手持ちになってるし、剣先が下がっている。何より顔に血の気が無くなってきているわ。いつ気を失ってもおかしくないわね。何にしろ、お疲れ様。


 私は心の中で魔法を唱える。

 『私は願う。

  そこのグレッグさんの肩のケガを塞いで』


 これで大丈夫でしょ。傷は治ったはず。


 さて、後二人ね。

 グレッグさんと目が合う。微笑む余裕があるなら、早くどっちかを斬りなさい。



 って、グレッグ、何故そこで倒れるのよっ!

 


 グレッグの首に男の剣が向かう。仕方がない。そのまま刺した瞬間にあいつを殺ろう。今から殴っても間に合わないもの。


 仇は任せて、グレッグさん。短い付き合いだけど、ありがとうございました。シェラを想って逝きなさい。あなたの騎士道に則って、シェラには伝えずに、私があなたという存在を覚えておくわ。本当にご愁傷さまでした。ご冥福を心より申し上げます。



 男は剣先を止める。


「これで形勢逆転だな?」


 にやりと笑いながら男が言う。


 えっ。何がですか?


 こっちは三人倒して、そっちは一人だけよね。5対2が2対1になったんだから、私の方が形勢良くなってない? 計算違う?

 混乱させないで。そういう作戦かしら。



「いえ、まだです」


 まだ数字上は逆転してない。でも、そもそも最初から形勢は私の方に寄ってたわよね。あなた達、私より遥かに弱いもの。


「お前が降伏したら、こいつの命を助けてやるぜ」


 ほんと、何を言ってるの? 戦闘中に倒れた時は放置よ。

 それが対魔物戦の常識じゃない。村でもそうだったわよ。終わってから生き残った人達を起こした方が効率的よ。お母さんもそう言ってた。



「仕方ありません。……分かりました。どうぞ」


「そうか、なら、大人しくし……、ん? 早く両手を挙げるなり、座るなりしろよ。拳をこちらに向けるな」


 ん?


「その、グレッグさんに早く止めを刺さないのですか?」


「……おい、この女、イカれてやがるぞ……」


 失礼な。



 男は慌てた様子で剣先をグレッグから戻す。そして、私に向けた。

 グレッグは助かったようね。それはそれで良かったわ。


 でも、どうしようかしら。あれだけ待ち構えられたら奇襲はここで終わりよね。

 

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