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宴の終わり

「メリナ様、リングの端に追いやられた! 大丈夫でしょうか!?」


 パットさんのアナウンスは若干、私贔屓ですね。


 さてと、どうしたものか。

 奇声を放ちながら高速回転する女王様。これ、衝撃映像に成り得るんじゃないかな。

 意味、分かんないもん。



 刃が迫って来ます。


「ギャハハー、死ねー、ギャハハー!」


 んー、アデリーナ様はご機嫌ですね。

 私は風圧を感じるまでに近付いた刃を見つめます。


「近付く、人間ノコギリっ! もう逃げ場はないっ! メリナ様はどうするっ!?」


 今、蹴り倒しても良いんだけど、不気味なんだよね。


 私はひょいっと舞台から降りる。結果、刃は私の頭上で回転しているだけです。

 何故、アデリーナは一定の高さで回しているのだろう。


「あー!! メリナ様、リングを降りましたよ!? 試合放棄でしょうか!?」


「降りたら負けとか決めるのを忘れていましたね。うっかりです」


「えぇ!? では、このまま続行ですか?」


「そうなるでしょうね」


 そうならない可能性があったのか、恐ろしい話ですよ。


「メリナ様の柔軟な発想力、このパット、敬服致しますっ!」



 はいはい。

 では、終わらせましょう。


 私は渾身の蹴りをヤツの膝へ。いえ、回転していて見えないので、膝っぽい所へ繰り出します。



 ゴキッと小気味良い音を立てて、コマの軸が曲がり、回転が不規則になって倒れました。



 策士、策に溺れるですね。

 何がしたかったのか、本当に意味不明でしたが、何らかの意図があったはずなのに、全く読み取れずでした。

 奇声を上げていただけで御座います。



 呆気なく床に転がるアデリーナを見る。

 仰向けでして、よく見ると目を開けていますね。意識はあるのか。



「メリナさん、全身が痛いで御座います」


「えぇ、あれだけ全力回転すれば負荷が凄いでしょう」


「追撃で殴らないのですか?」


「もう決着は着きましたよ。モジャ映像を封印してくれれば、私は結構です」


 うっそーでーす!


 今日の勝利を一生の思い出にした上で、アデリーナが何か言う度に「この敗北者めっ!!」と怒鳴り付けてやるのです。

 そして、「ハハー、メリナ公爵様、私の甘いパンを全部差し上げます」と言わせるのです。



 楽しみです。とっても。



「もしも私がメリナさんの立場なら、私を殺して、もう少し穏和な方を王に祭り上げますけどね」


「はいはい、もう降参して下さい。私達、友達じゃないですか」


「友達ねぇ……。まぁ、こんなものですかね。敗けを認めます」



 アデリーナ様の言葉を受けて、聖女決定戦の時と同じように鐘が鳴り響く。


「試合終了ですっ! 事前の大方の予想でメリナ様が有利というものでしたが、やはり強い! 彼女が聖女としてデュランに君臨すれば魔物など、恐れるに足りずとなりますね」


「アデリーナさんも中々の強さでした。人としては十分な能力だと思います。人徳が足りないのは否めませんが、そこは架空の王国の敵を作りだして、体制を引き締めていく手筈だと思います」


「その敵と言うのが、メリナ様ですね。敵対していると見せ掛けて、実は裏で手を握っている。そんな状況だと、ここにいる皆さんは知ることができました。これも、マイア様の叡知のお陰で御座いますね」



 私は両手両足を豪快に広げたままのアデリーナ様の手を持って起き上がらせる。


「痛い、つーてるでしょ?」


「大丈夫ですよ。私が青っ鼻映像を見たときの胸の苦しさと比べたら些細なものです」


「友人とは言っても、王様と底辺の娘なのですから、その辺りを弁えて頂きたいのですが。つまり、舐めた口を叩くなと、こういった方が粗野な貴女には通じるでしょうか」


「あれですね、私、ずっと思っていましたが、アデリーナ様は本当に友人がいないですよね。ビックリしますよ」


「あなた、減らず口が本当に減りませんね」


 お元気そうです。

 この調子でお願いしますね。そして、私に口封じと今回の褒美の為の何かを差し出しなさい。



「さて、宴です! 皆さん、お二人の勝負が決まったことを祝って宴会です」


 えー、本当にこんな地下でやるの?

 食べ物とかはマイアさんが出すのかな。

 でも、嬉しいです。楽しみです!



 私は石造りの舞台から下りたところで、アシュリンに声を掛けられました。


「おい! メリナっ! 貴様、勝ったつもりか? ブリュナンうんち派はまだ負けを認めていないっ」


 いや、組織の名前がそれの時点で負けてますよ。

 アデリーナ様を激しく身内が貶しておりますね。


「あら? メリナモジャ派はあるゆる挑戦を受けて立ちますわよ。それに、あなた。次代の聖女メリナ様に馴れ馴れしく、話し過ぎです」


 イルゼさんが後ろからやって来て、援護してくれたようで有り難くない感じの返しをしました。

 メリナモジャは頂けませんよ。本当に。

 本当に殺そうかと思うくらいにダメですよ。



 問題児二人は舞台に上がりました。イルゼさん、転移の腕輪があろうとその人は、今日の集まりの中で最強の一人ですから、負けても仕方がないのですよ。


 って、この思考をしている短い時間でさえ持たず、イルゼさんは床に沈んでしまいました。


 上から手でチョイチョイと私を呼ぶアシュリン。傲慢です。

 相手する必要は御座いません。しかし、ヤツはしつこい。断るにしろ、完璧な選択をしなくては面倒です。



 そこで、私は巫女長を呼んで、対峙してもらいました。


「おいっ! メリナ、これはやり辛いなっ!」


「そうでしょうよ。アシュリンさん、頑張ってください」


 全く血の気の多い人です。巫女長の微笑みに毒気を抜かれて、それから、予想外の攻撃でも喰らっていなさい。何が起こるか分からない恐怖との戦いになることでしょう。



 マイアさんが出す料理を皆で並べていくのを、私は端っこに寄って見ていました。私のための宴なのですから、私が準備をするのはおかしいかなと思ったのです。決してサボっている訳では御座いません。


 ミーナちゃんがアデリーナ様とお話ししています。ミーナちゃん的には、あの回転する大技が気に入ったのでしょうか。

 アデリーナ様から大剣を譲ってもらって、ご満悦ですね。


 アデリーナ様も気付いているかなぁ。ミーナちゃん、この中で私の次に強いと思うんです。あんなにまだ幼いのにね。

 その大剣、近い将来に彼女は使いこなして達人と呼ばれる領域に到達すると思いますよ。



 あっ、ヤギ頭っ!?

 お前、ここに呼ばれていたのかよっ!?

 えー、アデリーナ様をこそこそ見るんでない!

 複雑なご家庭の事情と顛末を知りたくないので、私は視線を他に遣る。



 さて、色々有りましたが、私は遂に巫女となったのです。

 やっと一人前のレディーなのですね。

 思えば、いろんな方々と触合い、血を流し、そして、笑ってここに立っているのです。



 マイアさんが私に近付いてきました。

 ペコリと頭を下げます。


「メリナさん、巫女の就任おめでとうございます」


「はい。ありがとうございます」


「ところで、メリナさん、世界を旅して見識を広めるのも良かろうかと思いますよ。それだけの才能が一国で埋もれるのも残念な事だと感じますし」


「聖竜様に身を捧げたのですから、有り得ないです。私はシャールから離れませんよ」


「数ヵ月で、私を含めて新しい秩序を世に作り出したのです。勿体無いと思うんですよ。ただ、本人にその気がないなら無理強いはよく有りません。今宵は呑みましょう」


「イエスっ! 呑むぞ! んじゃ、メリナさんよぉ、後でな」


 パン工房のフェリクスが寄ってきていました。初対面の大魔法使いに対しても遠慮なしで御座いますね。

 両脇にお酒の瓶を抱えて、そのまま去っていきました。




「メリナ、何の騒ぎよ、これ?」


 マリール……。私が一人になるのを待っていたのでしょうか。

 改めて指摘されると恥ずかしいです。


「確かアデリーナ様に握られた私の弱味を取引する為だったような気がします」

 

「はあ? おかしいでしょう?」


 えぇ、そうですね。


「ふう、まぁ、良いわ。メリナは色々と特別みたいだから。おめでとう、メリナ。私よりも一足早く巫女になった事、祝福してあげるわ」


「ありがとう。マリールももう半年くらいかな」


 確か一年掛かるって言ってたもんな。


「そうね。で、メリナ、何かお願い事とか欲しい物とかない? 私、あなたにプレゼントしたいのよ」


 お願い事がありますっ!

 そして、マリールなら訊きやすいかも!


 私は耳のそばで小さくお伝えしました。


「あっ、ダメだわ。は? 毛剃り?」


 ちょ、黙って下さいよ。


「私はまだ生えてないし、ムカつくわ。あー、ムカつく」


 あぁ、その可能性は考えていなかった! まさか、マリールはまだ生えていない天使様だったのですか!?

 あぁ、羨ましい!



「ほら、もう始まるみたいよ、宴が」


 そうですね。大体、準備が整ったみたいです。


「前に行って来な、メリナ。あなたが喋らなきゃ始まらないわよ」


「スピーチはシェラにお任せしたい所なのですが」


「なら、ご一緒しますよ」


 あっ、いつの間に来てましたか、シェラ。


「何を言ってんの。ほら、皆が見てるわよ。行きなさい、メリナ」



 マリールに背中を押され、前に出て、乾杯をして、お酒を飲んで、気付いたら、皆が倒れていました。不思議です。


 ミーナちゃんも倒れていましたから、まだ私には及ばなかったのですね。巫女長だとか、オロ部長なんかも伸しています。

 やり過ぎかも。だから、見なかったことに。



 あっ、聖竜様、見ていますか?

 私、ビビって感じました!


『えっ、怖い。あと、見たくはなかった惨状であるな』


 これからも宜しくお願いします。


『えっ、うーん。相変わらずの調子だね』


 頑張りましょうね、これからも、お互いに、色々と。


『そうであるな。ほどほどにな』


 はい! 明日からはお仕事もします!


『言葉は素直で良い娘っぽいのになぁ……』


 誉められて嬉しいです! 毎日、頑張りますっ!

多少の強引さは否めませんが、ここで一旦終わりです。

今までありがとうございましたm(__)m


次は6年後のレオン君で十万字くらい書いてみて、それが終わったら本作一年後のメリナさんを書こうかなと考えてます。→完結半年後くらいからのスタートとしました


俺の冒険生活 ~剣となった幼馴染みを携えて(完結済み)

https://book1.adouzi.eu.org/n8213ge/


本編の続きも始めました。


私、竜の巫女にして拳王! 今日こそ通学頑張りますっ!

https://book1.adouzi.eu.org/n5346gh/

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おめでとうございます!! [一言] めっちゃ楽しませてもらいました こんなにはっちゃけてる作品は他に類を見ないほどです レオンくん・・・誰だっけ? というのが最後のオチですか?
[一言] 完結お疲れ様です  なんかかんやと楽しませて頂きました! 願わくばメリナさん世界を旅する話もいつか見みたいです 次回作あれば待ってます
[一言] 完結おめでとうございます。 余韻が「ぶりゅりゅ...」関連に引っ張られてしまいましたが、この物語の締めとしてはこれもありかな、と思っています。 テンポの良い、楽しい物語をありがとうございまし…
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