殲滅対象
振り返ったら、大柄な男が立っていた。アシュリンさん並みに背が高い。服と呼ぶべきなのか、皮鎧と呼ぶべきなのか、肩の所に着いたフサフサの毛皮は何の為だろう。余計に獣っぽさというか粗野な感じが強調されているわね。
グレッグが対応する。
「どうした? 騎士見習いのグレッグ・スプーク・バンディールと知って声を掛けたのか?」
自己紹介? 何故に今。
「いや、知らんな。お前ら二人か?」
「そ、それがどうし――」
「えぇ、二人です。今からシャールに戻るところです」
グレッグの声が震え気味で、よく聞こえないかもしれないと思って、私が代わりに答える。早く帰って夕食を食べたいのよ、私。
「お前、黙ってろよ!」
なっ、グレッグにお叱りを受けた。
えぇ、分かりました。もう黙っていますよ。
「何を採ってきたんだ? お前ら、冒険者だろ」
グレッグは騎士見習いって言ったばかりなのに、冒険者って断言された。私も彼も格好がそれっぽいというか、村人そのものみたいな服装だもんね。
ぐいっと一歩前に出てきて、それにグレッグは怯んだ様子。
「か、関係ないだろ、お、お前らには」
二人が話している間に、毛皮の人の仲間たちがぞろぞろと集まって来る。みんな、背が高いし、筋肉もそれなりにあるなぁ。
「いや、それが関係あるんだ。悪いな」
私には全く関係ないよね。角兎の角も私は要らないし。
私たちを引き留めた人じゃない人がこちらに歩きながら言う。
「こんな時間まで森で遊んでいるなんて、親の躾がなってないな。俺達が教えてやるぜ」
ん?
あぁ、うちの親が何ですって!?
殴って、その失言を後悔させてやりたいけど、グレッグの手前、大人しくしてあげるわよ。良かったわね!
「そう言うことだ。坊主、お前は服を脱いで、荷物も置いてさっさっと失せろ」
グレッグが歯を強く噛む音が聞こえた。
「嬢ちゃんは、裸にならなくていいぞ」
そら、そうよ。私は関係ないわよ。
「俺達が脱がせてやるからな、ギャハハハ」
下卑た笑いね。口臭がこっちまで漂って来そうよ。黙れよ。いえ、お黙り下さいませませ? ませが多いな。
「上玉じゃねーか。今晩は寝れないなっ」
「あぁ、俺の上に乗せてやるぜ。馬みたいに尻尾を付けてやってもいいぜ」
「ギャッハハハ、お前、前そんな事言って、女のケツに木の棒を刺してたよな!」
「痛がってるのを黙らせるのがメンドーだったな! 挿したお前が殴り殺すとか、どうなんだよ。ギャハハハ」
「だから、俺は穂付きの草にしておけって言ったんだぜ。勿体ない事をしやがってさ」
「こいつは殺すなよ。3日は楽しめるからな。本人が死にたいって言うかもしれんが」
とても最悪な気分です。
真実でなくて脅迫のためかもしれないけど、お前らが死ねとか思っちゃいます。
「見ろよ、こいつの靴。上等な奴を履いてるぜ。こりゃ、俺が貰うからな」
私のブーツの事か。お前に履けるサイズとは思えないんだけど。
うん、許さない。誰か知らないけど哀れな女の子の分と、私のブーツを狙った罪の分、お前は他の奴よりも余分に特に痛め付けるから。
「……メリナっ! 逃げろ!」
えっ、私が逃げるの?
ちょっと意外なグレッグの命令に、私は彼の顔を確認する。
「いいから逃げろ!」
「いやいや、もう無理だろ」
男の一人が私の腕を掴まえようとする。
それをさらりと避ける私。
更にグレッグが短剣を抜いて、私の前に立つ。肩にしていた皮袋は投げ捨てた。
「おい、坊主っ! 死にたいのかっ!!」
最初に声を掛けて来た男が威圧する。
さぁ、グレッグ、やりなさい。今は隙だらけよ。その短剣で刺してやりなさい。
なのに、彼は動かない。むしろ、足が震えているように見える。それでも、私を守るためか、もう一歩進む。
騎士としては震えたらダメよ。対人戦なんて慣れたものでしょうに。
でも、それでも、その前に出た心意気は大事ね。私も女の子扱いされていて、悪い気にはならないわ。
それに、前に出たことで囲まれることを避けられたわ。二人だけでも、前衛と後衛になれた。これは戦術的に大きいわ。私からの奇襲が嵌まりやすい。
「仕方ねーな。おい、やるぞ」
男たちが一斉に抜刀した。
「最初から、そうしておけよ。他の冒険者が来たらヤバかったぞ。女は余り傷付けるなよ」
剣まで汚い。大事な商売道具なんだから洗うくらいしなさいな。
「メリナ、逃げてくれ。頼むっ」
グレッグは勘違いしてるわね。私が逃げるんじゃなくて、余計な殺生を避けたいって言うなら、こいつらを逃がすべきよ。
「男は殺せ」
脅しじゃなくて本気でしょうね。
「先に動きますよ」
私は短く、小さくグレッグに言う。
反応が無かったので、聞こえなかったのかもしれない。
いいわ、痛め付けましょう。
聖竜スードワット様もお許し下さいますよ、何せ魔物みたいなものですから。
女の子のお尻に棒を突き刺して殺すなんて人間じゃないわよ。私の部署的には駆除殲滅対象よ、きっと。だから、遠慮なく行きますよ。




