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思わぬ突然の決闘 開始前

 ここはマイアさんが聖竜様から間借りしている昔の宝物庫。そこにあったお宝は私が貰えるはずだったのに、400年前のルッカさんが既に略奪した後だった所です。


 聖竜様の神聖なる大広間を不浄なアデリーナの血で汚すわけにはいかず、皆で相談した結果の選択でした。


 マイアさん、師匠も使用を快諾してくれました。観客も一杯います。

 本来なら、ここにはマイアさん家族3人とミーナちゃん母子の5人しか住んでいないのですが、それでは寂しいとマイアさんが転移魔法と転送魔法を駆使して集めてくれたのです。



 宝物庫の真ん中には膝くらいの厚さがある石の一枚板が用意されています。これもマイアさんが魔法で作りました。

 私の足で20歩くらいの一辺を持つ正方形でして、この上で闘うのです。


 思ったより狭い。

 それが第一印象でしたが、構いません。


 一刻も早く終わらせましょう。

 シュタッと私は跳び、その上に舞い降りる。


 同時に上がる歓声。


「メーリーナっ! メーリーナっ! はい!」


「「メーリーナっ! メーリーナっ!」」


 ビーチャのバカの音頭で、メリナコールが巻き起こります。



「うふふ、メリナさんにお似合いな粗雑な応援で御座いますね」


 アデリーナも登壇し、当然のように私を貶してきます。



「オッオーー、ゴーゴー、アデリーナっ! オッオー」


「「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ!! アディ! アディ! アディ! ブラ! ブラ! ブラ! オッオー!」」


 大して変わらない掛け声がアデリーナ様サイドの後ろから聞こえます。先導しているのは、あー、あれだ、コッテン村にいたカッヘルさんです。

 王都の軍隊で、先遣隊の隊長をするくらいには偉い人だったのに、今は上半身裸で腕をグルグル回しながらアデリーナ様を応援しています。

 クールでニヒルな印象だったのに、もう破れかぶれですね。生まれてくる彼の赤子が不憫です。


 あと、何人かはブラ!の所をブリュ!って叫んでました。



「さぁ、両者、バトルフィールドに上がりました! ワクワクしますね。アナウンスは私、デュランのパトリキウス・デナンが、解説にはなんと、伝説の大魔法使いマイア様が担当されますです!」


 マジで、この騒ぎは何なんでしょう……。


「はい。私が主催者兼解説のマイアです。アデリーナさんもメリナさんも全力で頑張ってくださいね。あと、応援の皆様、ここから戻ったら記憶を消しますが、何人かはレジストするでしょう。余り広言しないようにお願い致します」


 マイアさんがはっちゃけたのかぁ。

 楽しそうですが、私は完膚無きまでに敵を潰す予定ですよ。笑いが悲鳴に変わるかもしれません。



「マイア様、この闘いをどう見ますか?」


「普通に考えたらメリナさんの圧勝です。パットもご存じのように、彼女は最強生物と見て良いです。しかし、相手はアデリーナさん。秘策があるに違いありません」


「おお、その秘策とは?」


「秘密だから秘策なんですよ。昔の私なら彼女の意識を読んでいたでしょうが、今は読まずに楽しみにしています」


「マイア様の叡知の一端を見せて頂けました。そのお言葉に、皆さんも興奮されていますね」


「はい。精神高揚の術も掛けています。盛り上がりますよ」


 ところどころ、人としてどうかと思う発言が大魔法使いから飛び出していますね。



 目の前のアデリーナが口を開きました。


「準備は整っていますか、メリナさん?」


 余裕のある顔です。

 勝つ気なのか? この私に。


「まだです」


 体を温めて初っ端から全力で行く所存です。私はジャンプしたり屈伸をしたりで、軽く汗が出るまで全身を動かし続けたいのです。



「観客の方もマイア様が集められたみたいですね。私も呼ばれて大変に光栄です」


「はい。それに、メリナさんサイド、アデリーナさんサイドに分けました。現時点で二人を互いに頭領にして戦争となった時、どちらに付くのか深層心理に問い掛けました」


「おぉ、流石です。では、両者の背後にいる方々が分けられた結果なのですね」


「はい。人の想いって面白いですよね」



 つまり、私の後ろにいる人達が私の味方か。パン工房とデュランの関係者は全員ですね。

 クリスラさん、イルゼさん、コリーさん、それから聖女候補だった人達に、ボーボーの人、あと、アントン。

 アントンは不快なので、あっちに、アデリーナサイドに行きなさい。


 あいつは開始前に態々私のところにやって来て言ったのです。とても嫌ですが、思い返します。



「よぉ、クソ巫女。貴様、新しい王にも楯突くとは豪気だな」


「黙りなさい。私が倒れたら、お前は聖女代理として祭り上げられるのですよ」


「くくく、クソ巫女よ。全てに優る美しさを持つ俺が聖女の恰好をしては、世の女が霞んで絶望してしまうだろう。そんな罪な事を決してしてはならないと、コリーとへルマンに忠告されている。だから、無様に負けるな」


 相変わらず、頭が腐っていました。

 もう治癒は不可能でしょう。


「アントン様、こちらへ。巫女殿の精神統一を邪魔してはいけないと思います」


 コリーさんが割って入って助けてくれました。本当にアントンには勿体無い良い人です。


「ふん。クソ巫女よ、俺に感謝するが良い。新たなる境地に俺を至らせた功績に、俺がラッセンの街で官吏として働いてやる」


 そんな事をほざいたのです。


 カチンと来ますし、未だ知らぬ私の領地であるラッセンを穢す気ですか。と思ったのですが、よくよく考えたら好都合。

 私はそこに行きたくないですし、デュランからアントンが去れば、パン工房の方々と会う際に鉢合わせして、不快な思いをしなくてよくなるのです。


「私の栄光がくすむ事の無いように尽力なさい」


 そう私は返答しました。ヤツは遠い何処かに去る運命なのです。コリーさんを解放するチャンスでも有ります。



 他に私の側にいる方の中で目立つのは、巫女長です。


 今、巫女長は立って微笑んでいますが、先ほどまでは、立派な服が汚れることを気にすることなく、四つん這いになって床に口を付けていました。皆が怪訝な顔付きで見ていました。パン工房のハンナさんとか、完全にひいてましたもん。


 お狂いになったのかと声を掛けた私。


「巫女長、どうされたのですか?」


「マイアさんに聞いたのよ、私。昔、聖竜様がここにいらっしゃったって。だから、私は聖竜様の味が残っていないか、舐めているの」


 うん、「だから」の接続詞がどこに繋がっているのか分からないですね。

 理解不能なので、会釈して去ります。


 やっばいです。

 「でもね、ゴブリンの味しかしない」とか呟いていましたが、それは聞かなかった事にします。師匠は裸足ですから、そのお味なんだと思いますよ。でも、正直に告げるのは躊躇われました。目の前に、原因である醜い生物が歩いているにも関わらずです。


 巫女長以外にも竜の巫女の関係者は多いですね。マリール、シェラはもちろん、ルッカさん、エルバ部長、ケイトさんやマリールの先輩とかもいます。シェラの礼拝部の先輩方はこちらには来られていませんでした。アデリーナ側に何人かいるのかもしれません。


 ニラさんもいまして、その横にはブルノかカルノのどちらかが立っています。でも、ブルカノの片方しかいないのです。

 


 もう一方はアデリーナ側。

 私に対する酷い裏切りです。

 しかし、どちらが裏切っているのか私には分からないため、お得ですね。あとで脅しにくいです。


 オロ部長がアデリーナに付くのは何となく分かります。仲が良いと聞いていましたから。

 しかし、アシュリン、お前がそっちか。可愛い後輩よりも王に味方するなど権力欲の塊でしたか?

 幻滅で御座いますね。隣にいる旦那さんのパウス共々、あとで鉄拳制裁で目を覚まさせてやります。


 私を驚かすのは他にもいました。グレッグは仕方ないにしろ、ガインじいさん。あなたも権力側でしたか。

 飄々としているのに抜け目がないとは……。私は騙されてました!



 えっ、あの人も!?


「あれ、副神殿長もアデリーナ様側ですか?」


「余り触れられたくなかったけど、そうみたいですね」


 眼鏡友達として、私と副神殿長は熱い絆で結ばれていたのだと信じていたのに。ついに、私が一切眼鏡に興味ないと判明してしまったか!?



「アデリーナさん、絶対に勝ってー! 私達の願いを再び世に出してー!」


 細身の副神殿長が必死に叫びます。


「どんな関係なんですか? 興味が少しだけ有ります」


「……メリナさん、あなたの捏造映像のせいですよ。どさくさに紛れて、最後の場面で私に言わせた単語が彼女に刺さったらしいので御座います。彼女曰く、男根だけにね」


 あっ、ちょっとお怒りですね。


「ぐふふ、お似合いですね」


「もう良いでしょ。始めましょう」


 アデリーナは両手剣を正面に構えるように手を動かします。

 すると、どうでしょう。魔力が集り固まって、分厚い両刃の大剣が現れます。斬るよりも叩き割る為の武具に見えます。長さも彼女の身長ほどあるのです。


 ヘルマンさんでも難しいのではと思えるそれを、アデリーナが優に支える事が出来ているのは、彼女の魔力的な膂力が私の想像以上なのか、魔力的に剣の重さが緩和されているのかは判断できませんでした。



「両者、アップを終え、遂に始まりそうですね!」


「そうですね。あの闘技場の上では攻撃魔法を禁止させて貰いました。観客の方に被害が出ない様にとの配慮です」


「さすがマイア様です! このパット、心服致します」


 突然に知らされた魔法禁止令ですが、私は怯みません。むしろ、肉弾戦こそが私の得意とするところ。

 光の矢を封じられたアデリーナの方が手痛いと思いますし。


 私も拳を軽く握って前に出し、そこで、戦闘開始のゴングが鳴らされました。

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― 新着の感想 ―
[一言] マイアプロデュースの無理矢理盛り上がった決闘で変な雰囲気、なんだこりゃ。。面白かった。
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