ブラナンの追憶

○２０００年前

　俺達は湖の辺(ほと)りに設置した前線基地の一室で円卓に着いていた。窓から見える古名シャールドレバンテニス、清らかなる生命の湖を意味するそれの水面は、戦況とは違って、青い空に浮かぶ雲さえも綺麗に映すくらいに穏やかだった。

　

「何だと！？　お前はカレンとワットだけで、あの化け物と対峙するって言うのかっ！？」

「まぁ、そういうこった」

「しかも、俺はここに留まれだとっ！？　俺が信頼できないのか、貴様っ！？」

「そんな事はねーよ。信頼しているからこそ残すんだわ」

「そうそう。カレンは死にに行くの。マイアが封印魔法を完成させるまでの囮だよ」

「ふざけるなっ！　もっと良い方法があるだろ！！」

「ねーよ。時間が経つほどに魔王は強くなってやがる。今、あいつを倒さなきゃ、どうしようもなくなるぜ。１０日もすれば、ここも放棄だって分かるだろ。そうなったら、もう、あいつの拠点には辿り着けなくなる」

　くそ！　忌ま忌ましい！！

　魔王はあらゆる魔力を吸収している。その範囲が尋常でなくて、今は馬車３日分の移動距離内が完全に魔力の存在しない死の大地となってしまった。

　希代の魔法使いマイアが対応する魔法を開発しなければ、この地にいる俺達の魔力も徐々に奪われていったであろう。

　テーブルを挟んで向こうにいるフォビは俺に頭を下げて、言葉を続ける。

「ブラナン、済まない。カレンはそう言ったが、もちろん死ぬつもりはない。俺は死んだことがない。今回もきっとそうだ」

「フォビ！！　死んだら、どうするつもりだっ！？」

「ん？　そうだな。もしも負けたら、お前は周囲の村の人間を連れて逃げてくれ。どこかで遠くで街でも作って俺達を待ってくれたら有り難い。なに、心配するな。お前なら良い指導者になれるさ」

「堅苦しい街にしないでよ、ブラナン。私に相応しい魔法研究所をこさえて待ってなさいよ」

　……俺は一緒に戦わせてくれないのか。

「ヤナンカもブラナンを補佐してくれ」

「りょーかい」

「いや、ヤナンカはマイアを助けてやれよ！　街作りなんざ、俺だけで十分だ！　今は戦力だろ！」

「はぁ？　私に助けは要らないわよ。私は天才なんだから。魔王の側近だった、人間好きの魔族さんは王になるブラナンの補佐に最適よ。ほら、魔王や魔族が嫌がる街設計をしてくれると思うわ」

「だ、誰が王だっ！？」

「お前だよ、ブラナン。任せたぞ」

「ああ！？　ふざけ――」

「頼む。任せた」

「――くっ！　ワット！　魔王を倒せるのか！？」

「うーん、出来るかなぁ。魔力をグイグイ吸い取られるから辛いんだよ」

「出来るさ、ワット。俺たちなら、きっと出来る」

「ワットちゃん、より一層、竜らしくなくなったよね」

「カレン、言っちゃダメよ。この会議に出たいからって、折角、人化してくれているのに」

「ワットちゃんは竜の姿が一番だと思うよ。だって、美味しそうだもん」

「ハハハ、仲間を食おうと思うなよ、カレン。さて、ブラナン、じゃあ、行くわ」

「止めても聞かんよな、お前は！！　……絶対に皆を連れて戻って来いよ」

「あぁ、約束だ」

　約束は半分だけ守られた。帰ってきたのは、ボロボロになったフォビとワットだけだった。

　カレンは姿もなく魔王に吸収され、マイアは石になった。

　フォビとワットは、その後、旅を続けると言って去っていった。俺は聞かなかったが、カレンとマイアを何とか復活させられないか、世界を旅して調べるのだろう。

　残された俺はシャールから遠く離れた地に村を作った。魔王が封印されても、その地は人が住むには不適になったから。

　場所は魔物が寄って来ても、すぐに分かる高台にした。水取り場に困りそうだったが、魔法に長けたヤナンカが何とかしてくれた。

　

　数年後、フォビと竜の姿のワットに再会する。俺の街の出来具合いを確認して、奴等は再び旅立つと言う。

　お互いに魔王との一戦はもう終わったことになっていて、将来の夢を語り合った。だから、俺は快く送り出した。

　俺が寿命で倒れる間際、魔物の群れに街が囲まれた。狙っていたかの様なタイミングの悪さ。ヤナンカの魔法だけでは凌ぎれそうにない。それに、魔族である彼女の指示には人々が従わないのも明らかだった。

　老いて死を待つだけの床に着いていた俺だが、息子とヤナンカの希望により、俺は息子の体の中へと入った。

　ヤナンカの秘術。これでヤツはマイアに次ぐ威力であった戦闘用魔法を失った。その魔法を行使する精霊と俺を同化させたらしい。

　俺は直接に会っていないが、エルバ・レギアンスとかいう旅の者にも術を完成させる協力を求めたとヤナンカは言った。

　息子も老いて死に、次に俺は孫娘に入る。魔王と戦った英雄の精神と合一すると言うことで、彼女は喜んでいた。

　俺としても、まだ街の安全が確保されていない現状が不安で体を借りることにしたのだ。

○１８００年前

　魔王を封印してから２００年経った。俺の街は大きくなったが、魔物や魔族はまだ現れる。

　一族の中には、俺が体に入ることを拒む奴等も出て来て、何とか交渉して許して貰っていた。しかし、それでも最後まで抵抗する強情なヤツもいて、そいつらは処分した。

　ヤナンカが補佐してくれているから、何とか街の統制は取れている。

　いつの間にかシャールドレバンテニスの近くに街が出来ていた。シャールと略されて、ワットの神殿も造られていた。あいつが神格化されているのをヤナンカに聞かされた時は笑いを堪えるのが大変だったが、街の金庫からお布施をしてやった。

　俺は遠くに行けない。ヤナンカの秘術はこの土地タブラナルの魔力に俺の魂みたいな物を固定する仕組みだったからだ。

　しかし、タブラナル。古語で偉大なるブラナンの地。誰が言い出したんだ。こっぱずかしい。

　魔力の固定と言うと、もう一つ制約があった。俺が他人の体に入るには、体内の魔力の質が似たヤツにしか入れない。いや、もっと厳密に言うと、俺の血脈に限定される。

　息子に入る時は素直に済んだ。その数十年後の孫に入る時も問題なかった。だが、そこから数代後の王に入っていた際、王子が早死にしていた為に、更にその子、つまり、当時の王から見ると孫に入ろうとすると、俺は移動できなかった。

　ヤナンカ曰く、その孫の魔力に馴れていないというのが理由だった。俺が意識体として入るには、１０年以上掛けて俺の魔力の質を変えないといけないらしい。

　それまで王家と言うか、俺の子孫達はただ単に多数の庇護すべき者の一部でしかなかった。しかし、そいつらがいなくなると俺が消えてしまうという現実に気付いた時、王家は最優先で守らないといけないものに変化した。

　また、数々の子孫に入り、その記憶や意識を読んでいく内に俺は知った。聖人や英傑など虚栄に過ぎないと。そんな奴等は言葉の中にしか存在しない。

　全ての者は煩悩を持つし、下らない幻想を抱いている。若造の根拠のない自信など反吐が出るくらいだった。

　この俺が王都を率いないと、ちょっとした選択ミスで民を路頭に迷わせてしまう。そんな想いが何故か強くなった。

　だから、俺の血統は絶やせない。いや、正確には、俺は消えられない。

　

○１０００年前

　状況は変わらない。魔物は人々を襲うし、魔族は退治してもまた涌き出る。人の活動範囲が大きく広がった黄金時代もあれば、魔物が活発に動いて廃村が広がった暗黒時代も有った。その上で長い目で眺めると、何も変わっていない。

　魔王が誕生して封印された、俺が人間だった時から何も変えれなかった。カレンやマイアの犠牲は何だったのだろうか。

　信じられない事にフォビは生きていた。

　ふらっと俺の前に現れやがったのだ。少し老けていたが、初めて会った時と同じキザな笑顔をしてやがった。

　ヤツからマイアが生きている可能性があると聞かされた。

　マイアを神として崇めるデュランと言う都市が出来ていたのは知っていたが、そんな奇跡があるのだろうか。

　いや、俺と同じく人間だったフォビがその時点でも生きていたのだから、奇跡は有るのだろう。何より、あいつはタブラナルの王が俺であることを見抜いていやがった。

　色んな国の姫さんを色んな方法でフォビは誑かしていたが、その糸口を探す手段になっていた観察眼を俺には向けるなよ。妙に恥ずかしいだろ。

「やり過ぎは良くないと思うぜ、ブラナン」

「いやしかし、地の魔力を安定させたいんだ。何とかならんのだろうか、フォビよ。死んでも死にきれん」

「お前な、自然な死が一番幸せなんだぞ。しかし、地の魔力か……あれを触ると、それはそれで問題が発生するんだよな」

「何か知っているのか！？」

「……スードワットに聞いてくれ。あいつが管理している」

　スードワットか。聖なるを意味するスーに女性冠詞のド、直訳すると、ワットたる聖女いや、ワットたる聖竜か。

　偉くなったものだ。

「あんまり無理すんなよ。ちょっと俺も辛くなる。それが甘いって、シルフォさんに言われるんだよな」

「……シルフォ？」

「あ、俺の女上司だ。忘れてくれ」

　相変わらず、女の下で働いているのか。フォビは変わらんな。

　俺は嬉しかった。

　しかし、その年、俺は激怒することになる。

　ワットが地の魔力を調整することを拒んだのだ。ワットと知己のヤナンカが巣穴に出向いたというのに、それをヤツは無下にした。

「どういうことだ！？」

「この世界は人間だけのものではないんだってー。ワットちゃん、わざわざママに聞いてたよー」

　あいつ、母親いたのかよ。

　ちょっと笑い掛けたが、それよりも怒りが勝つ。

「王である俺の言うことを聞けないのか！」

「ブラナンさー、ワットちゃんは友達だよー」

「だからこそ、何故、俺の想いが分からんのだ！」

「ブラナンさー、変わったんじゃないー？　そんなに冷酷だったかなー？　ずっと傍にいたからヤナンカ、気付かなかったー」

「貴様っ！？　魔王を裏切ったように、またもや主を裏切る気か？　それなら、こちらもお前の排除を考えるぞ」

「……もうあれから１０００年経ったのー。１０００年の間にしたことを考えたらねー、今更の損切りはできないかなー」

　損……。確かに。

　俺とヤナンカは不要と判断した人間を多数殺した。魔物の群れを誘(おび)き出す為に、犠牲にした村や小都市もある。

　しかし、それでより多くの人間を救ったのも事実。

「得の方が多かっただろ？」

「そうだと信じたいなー。あっ、シャールに住んでいた魔族がいたよー。死ななかったから、封印しておいたー」

　ヤナンカの懸念は分かる。街の発展が思った方向に進まない。住民の数が多すぎて、俺の考えが末端にまで届かなくなったのた。

　切欠は忘れたが、その年に俺は何かに激昂し、やがて空を飛ぶ巨鳥が現れ、街は死んだ。

　俺の飛翔を止めたのはヤナンカで、俺は元の子孫の体に戻っていた。

「街のリセットが出来たな、ヤナンカ！」

「した方が良かったと思っておくよー。あと、ワットちゃんを殺そうとしたー？」

「そうなのか？　……地の魔力の調整を欲しているのだろうな、俺は。あれがあれば、俺は夢を叶えて、もう後進に託せる事が出来るからな！」

「……りょーかい。ワットちゃんには申し訳ないけど、それで私も終われるのかなー」

　その返事からヤナンカの迷いを知った俺は、覚えたての意識操作の術を彼女に掛けた。魔王の側近であった程の強者に効くのか不安であったが、俺に反抗することは無くなった。

○５００年前

　俺とヤナンカは魔力を集めていた。城の地下に祭殿を作り、そこを貯蔵庫とした。あの巨鳥をもう一度作り出し、精霊であるワットを消滅させる。そんな目的だった。

　ワットの居所が変わっていないかも探った。

　その過程でロヴルッカヤーナというほぼ不死に近い存在を知る。幸運なことに、俺が中に入る前から王家の一人がその魔族と親交を深め、二人の間に子まで為していた。

　俺は考えた。不滅の体さえ有れば、老いを理由に王家の人間の体を乗っ取ることをしなくて済むのではと。

　正直、体に入る毎に劣った人間どもの思考が俺を侵食していくのが許せなかった。

　彼らは無為に過ごし、俺の血筋に生まれただけで自らが優れているように思い違いしている。最早、俺の血なぞ薄まりまくっていると言うのに。浅薄さに呆れ返る。

　もう他人の体を奪いたくない。

　俺が入っていない時に当時の王が俺を裏切った為、ロヴルッカヤーナは俺の存在に気付き、シャールに戻った。ヤナンカに追わせたが、ロヴルッカヤーナは転移魔法でデュランに逃げ、聖女になった。デュランとタブラナルで戦争をして確保する選択肢もあったが、その時の俺の計算では失う人間の方が多くなるということで、止めた。

　代わりにロヴルッカヤーナの子供をダシにしてその魔族を誘い、意識操作に掛けて自ら牢獄に入る事を選択させた。

　しかし、最後の抵抗だったのか、シャールの牢獄をヤツが選んだのは誤算だった。しかも、ヤナンカが入れない様に強力な魔族避けの魔法陣まで準備しやがって。

　しかも、ロヴルッカヤーナはシャールの重鎮達を自分の手下にして、彼らに自分の体を守らせ、俺が兵を使って回収させる事を完全に阻止する体制を構築していた。

　

　そうこうしていると、祭殿に魔力が溜まり、俺は巨鳥を出す事にした。それ以上に魔力を溜めると暴走して、王都が吹き飛ぶとヤナンカが進言してきた為だ。

　二回目もワットは死なず、俺のタブラナルの街だけが死んだ。

　鳥は立体魔法陣で、祭殿の魔力は魔法起動だけで使いきり、維持と行使のために周りの魔力を吸い取っていたようである。

　ヤナンカは悲しい顔をした。

　しかし、次は巨鳥に俺を宿らせる計画を思い立ったらしい。そうすることで、俺は永遠の命を得るとの説明だ。俺の魔法だから魔力の質を調整する必要もない。

　ロヴルッカヤーナを経ずとも、俺が不朽の体を得る。なんと素晴らしい計画ではないか。俺は承認した。

　しかし、それが失敗した時のために、俺はロヴルッカヤーナの子供に入り続ける事も選んだ。

○４００年前

　ヤナンカは情報局という物を作った。

　ロヴルッカヤーナが聖女になって以来、歴代のデュランの聖女は俺の存在を知るようになっていた。それを以て俺を脅したり、周囲に漏らそうとしたりする聖女もいて、ヤナンカに処分させていた。

　しかし、ヤナンカも忙しく、デュランの警備を掻い潜って殺すのは手間が掛かる。

　だから、都合の悪い聖女を殺させる暗部という組織をヤナンカを通してデュランに作らせたのだ。しかし、いつの間にか聖女に与するものに変質してしまった。リンシャルとかいうデュランを守護する精霊の仕業らしい。

　そのデュランの暗部を作った経験を利用して、王国内の反乱分子の摘発と、魔力の収集を目的とする組織が情報局である。

　ヤナンカは俺が鳥を出す事で街の住民が死に絶えることを悩んでいた。それを避ける為に、祭殿とは別に、時間を長く掛けて魔力を溜め、鳥が出た後の住民からの魔力吸収を和らげることにしたのだ。

○３００年前

　竜を使用した料理が王都で流行した。愚かしいが、そういった時代もあろうかと当初は見向きもしなかった。しばらく経って、ヤナンカの仕事だと知った。ヤナンカは竜の半陰茎を集め、それを素材にして魔力を溜める容器を作っていた。情報局で集めた魔力をそこに入れるらしい。

　肉を求めて竜狩りが頻繁に行われ、残った不要な部分を安く手にしていると聞いた。

　古竜の膨大な魔力さえも中に閉じ込められるとヤツは笑顔で言っていたが、俺の意識体も封印されそうだったので、その計画は却下した。

　また、俺の予想通り、ヤナンカは俺を裏切っていた。だから、意識操作を再度掛けた。

　殺しはしなかった。まだ利用できるからだ。あと、少なからず恩義もある。

○６０年前

　寝入る俺の枕元にフォビが立っていた。ワットの所へ寄った序でだと簡単にヤツは言ったが、あの距離をそんな風に言えるフォビはやはり危険な存在である。

「我に何か用か、フォビ？　昔の縁(よすが)に免じて、無礼は赦してやろう」

「おいおい、『我』って何だよ。俺達、仲間だったろ？　歳を喰ったから、俺も雰囲気作りで、知らんヤツに『我』とか使う事も出て来たけど、俺達同士では要らんだろ」

　俺は無言で通す。

「まぁ、その話はどうでもいいんだ。俺が言いたいのは別だ。聞いてくれ、ブラナン。お前の望みの先にお前の希望はないぜ。笑って過ごせたら、それで良いとは思わないか？　ヤナンカも泣いているぜ」

「……魔物に家族を食われて笑える人間がいるか？　我は、いや、俺は魔物を全て殲滅したいだけだ」

　

「無意味だって気付くさ、お前も。その時に俺はお前を救いたい」

　民衆を救う努力をし続けている俺が、才能だけのお前に救われる？

「……神にでも成ったつもりか！？」

「神様だって迷わないはずないさ。誰かを救えば、別の誰かを殺す事になる。正解は選ばないことだと感じている。それが難しいんだけどな」

「全てを救えば良い！」

「それは見たんだ。全ての住民の望みを叶え続け、結果、死んだように動かなくなり、欲望だけを垂れ流す世界を。それを試した神は笑ったらしい。『全てを救うと全てが死ぬのね。知れて嬉しい。ありがとう、皆』ってな。このセリフは又聞きだから正しいかは知らないが」

　神？　フォビが言う神はデュランのリンシャルみたいな精霊を意味しているのか。

　それとも、俺達を救う様な存在が本当にいるのか……？　しかし、対等に長くを生きるフォビに俺の無知を悟れたくない。

　だから、強がりの方が口を出た。

「やり直せば良いだけだ！！」

「死んだ人間は戻らないんだ、ブラナン。久しぶりに会えて良かった。お前もお前なりに上手く政治を行えてるぜ。俺からのアドバイスとしては、たまには心から笑えよって事くらいだな」

「余計なお世話だ！」

「空を見ろよ。俺達が守ったとはっきり言えるのは、いつの時代も変わらない空だけだぜ。でも、それが俺達の勲章だ。その空さえ奪った神もいるらしいからな」

　また神だ。誰も救わない神……。

　魔王の時でさえ現れなかったものな。役に立たないなら、苦しんでいる俺達を救わないなら、悪魔みたいなものだ。

　

　そして、今。

　最後に俺は守ったはずの空を見たかった。しかし、太陽も青い空も雲で隠されていた。

　心残りだが仕方あるまい。

　聖衣の巫女に託す。

　古竜を創造するという奇跡を見せられた。

　人間が魔力を直接操作するのは不可能だ。俺も試した。

　事情は知らんが、俺には渡さなかったワットの古竜としての権限を与えられたのだろう。

　

　剣を進めて、俺は終わった。

　俺は最期に剣で死んだ。

　懺悔はしない。ただ、俺を憎んでくれたら良い。たぶん、それが俺にとっては救いだと思う。