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二匹の咆哮

 巨鳥ブラナン、近くで見るとその大きさに驚かされます。空を舞うガランガドーさんは私達四人がギリギリ乗る事が出来る程度には大きいのですが、それでも、ブラナンと比較すると、ヤツの目と同じくらいのサイズなのではないでしょうか。


 以前は輝いて見えた全身はもう光を出しておらず、大きさ以外は普通の赤い羽毛を持つ鳥に見えます。首は長くて鶴のよう、でも、嘴や爪とかは少し曲がって先は尖り、全体的に荒々しさを感じます。鳥と肉食蜥蜴を足して割ったイメージです。または、壁画に描かれていた様に、竜の出来そこないみたい。


 ブラナンの体から発する光がないので、厚い雲に覆われた空によって、周りはより一層暗くなっていました。太陽がないと、時刻が分かりません。朝から戦って来ましたが、感覚的にはもう夕暮れ時なのかもしれません。


 街中からの魔力の吸収は止まっておりました。それをする必要がないくらいに、ブラナンは魔力を集めたのだと思います。



 ブラナンは何回も体の復活に拘っていました。ルッカさんを乗っとる事以上に、恐らくは、それが一番の目的だったのでしょう。


 マイアさんは輝いていたブラナンを立体魔法陣と呼んでいました。魔法陣と言えば、強い魔法を唱えたときに出てきて、光る文字っぽいものがグルグル回るヤツです。

 そこから類推するに、今のブラナンは光ってないから立体魔法陣ではなく、物質化しているのでしょうか。

 これをガランガドーさんは望んで、行動していた。きっと、そうです。だって、物だったら破壊できるから。


 ……うふふ、今の私、冴えてるかも。



 ガランガドーさんは、ブラナンの周りを確かめるように飛びます。その間、ブラナンは羽や尾から出す空気の刃みたいな物でガランガドーさんを払おうとするのですが、そこは意外に機敏なガランガドーさん、縦横無尽にお避けになられます。

 縦横無尽が過ぎて裏返って一回転した際に、頭に立っていたアシュリンさんが落ちた事は不問に致しましょう。

 痛ましい事故です。あのアシュリンさんですので、死んではないでしょうが、後で鉄拳を喰らいますね、ガランガドーさん。

 


「化け物! この竜に優しくしろって早く言いなさいよ!」


 こいつも落下しないかな。

 私はちょっと試してみます。


「ちょ! ダメ! くすぐったい! わっ、ダメ! やめ!」


 横腹を指で突いてみました。バタバタしています。


「お願い、ダメ! ほんと、やめて! 死ぬ! きっと死ぬ! 足に力入んない!」


 お前、転移できただろ。戯言を言うんじゃありません。



「凄いわ。私、竜に乗ってお空を飛んでるのね。夢の一つが叶ったわ。ありがとう、メリナさん」


 巫女長の声は落ち着いています。ずっと、地上を見ていて、存在力が有り余るはずのブラナンは無視でして、そこに異常性を感じてしまいました。


「ねぇ、エルバさんは記憶石で私の姿をちゃんと収めてくれているかしら。後で何回も見たいのよ」


 ほら、明らかな敵がすぐ傍で羽ばたいているのに、おかしな言動です。



『その熱き想い、我は理解しようぞ』


 ちょっと!? ガランガドーさん、分かり合えてるんじゃありません! 大変に失礼ながら、その人は危険な人ですよ。


「何言ってんの!? さっさっと化け物に退治させなさい!」


 まさか、魔族フロンと意見が合うとは思わなかったです。



 ガランガドーさんはブラナンから距離を取って、その周囲をぐるりと旋回しました。彼の尖った尾っぽや羽の先から光る魔力を無駄に流し出して、派手に航跡をキラキラさせています。



 何回も回ります。たまに、大きくブラナンから外れて、高度も下げて、街の人達にもアピールします。 



『フッ。弱き者共が我に痺れておるな』


 ……お前、その自己顕示欲の深い発言、どうかと思いますよ。エルバ部長、可能であれば今の呟きを拾ってくれないかな。後から恥ずかしさに悶え死ぬべきです。



「いやん、もう、私も痺れるわよ。ビリビリよ。メリナさん、この竜さん、私、欲しいなぁ」


『それは罷り成らぬ。我と主は一心同体の関係。精々、今の刻を楽しむが良い、老いたる者よ』


「もう、本当に意地悪ね。私、妬けちゃうわ」


『フッ。我に触れると地獄の業火の如く、火傷を負うぞ。それでも良いと申すのか』


 やべぇ会話です。参加したくないどころか同席したくないです。


 それに、巫女長はがっつり首に抱き付いていますよ? ずっとですよね。

 

 ガランガドーさんは雰囲気で喋り過ぎです!

 何が地獄の業火ですか!

 ふざけている場合では無いのです!!



「ガランガドーさん、そろそろ、ブラナンを殺したいのですが、宜しいですか!?」


 私は強めに言いました。しかし、ガランガドーさんは気にしません。


『ガハハ、主よ、まだであるぞ。我の威光を周知せねばならぬ』


 本当にご機嫌です。

 地上すれすれを飛行して土煙をわざと出したりしています。道にいる人達は少ないのですが、家の中から怯えて見ていた人達が徐々に窓を開けて歓声を上げつつ有ります。その中には、デュランから派遣されていたコリーさんやイルゼさんもいました。

 大通りで一人立っているヘルマンさんは警戒任務に入っていたのでしょうか。そんな彼とも目が合いまして、親指をグッとこちらに立ててきました。

 ガランガドーさんはアシュリンさんの落下地点だけは避けているのですが、それは彼なりの危機管理でしょうかね。



 王都全体を巡った後、ガランガドーさんはブラナンの正面へと位置しました。



 ブラナンの喉の奥付近で魔力が増大し始めているのを感知します。


「ちょっ! 何遊んでいたのよ!? 強烈なヤツが来るじゃない!」


 フロンが叫びます。魔族のクセに動揺しまくりです。ラナイ村で会った時は、もっと妙な落ち着きというか余裕を感じさせたのですが。


 ブラナンの魔力の練りに対して、我らがガランガドーさんも負けていません。体のサイズは全く違うのに、魔力の密度的にはブラナンを超越する感じで、同じく体内で魔力を練り上げていきます。



 攻撃の準備が出来たのでしょう。ブラナンが口を開きます。同時に、魔法によると思われる声が聞こえてきました。


『我の悲願は為った! 未来永劫の秩序のため、我はこの世に君臨しようぞ!』


 これだけ王都をグチャグチャにしておいて、よくも言えたものだと感じました。本気でそう考えているのなら、勘違いも甚だしいです。


『ガハハハ、愚かなる弱き者よ! 死を運ぶ者たる我、闇のシューティングスター、ガランガドーに平伏すが良い!』


 ガランガドーさんも負けておりません。勘違いが甚だしいです。

 闇のシューティングスターって、よく考えなくても意味を為していないんです。暗いのか明るいのか、それさえも分かりません。強いて誉めるなら、語感のみです。



 二匹の獣は、互いに咆哮し、口から光輝く魔力の塊を相手へ向けて放ちます。


 ブラナンの赤とガランガドーさんの白。それが丁度互いの真ん中でぶつかり合い、打ち破ろうと拮抗します。小さな雷みたいな物が、その衝撃で立て続けに発生しています。


『愚劣な竜よ、果てるが良い! この2000年の想いに勝てるとでも思うな!?』


『たかが2000年の小童(こわっぱ)が生意気を言うっ!!』


 ちょっとブラナンの魔力が(まさ)ったかと思いきや、ガランガドーさんの気迫も十分で、押し返します。



「し、信じられない。これが化け物の従者の実力……。じゃあ、ば、化け物はどれだけ強いのよ……」


 うふふ、フロンが声を震わせながら、私を恐れています。ガランガドーさん自身の力なのですが、私の精霊だから私の実力と看做なせますからね。大変に気分が良い。


「やっておしまいなさい、ガランガドーさん!」


『おうよ!』


 乗りに乗っているガランガドーさん、更に魔力を増します。ブラナンの出した塊を徐々に後退させて行くのです。


『ぐっ、まだまだだ!』


 苦しそうなブラナン。でも、時間の問題ですね。恐らく、ガランガドーさんはまだ本気じゃない。

 とは言え、私は警戒を解かずに魔力の塊の動きに注意していました。



 あっ、これ、見たことあるなぁ。魔力が(ひし)めいて、悲鳴みたいにギシギシしてる感じです。

 浄火の間で気持ち悪い狐リンシャルが現れた時と同じです。でも、うん、何だろ。押し合う魔力の塊ですが、衝撃に負けて周りに飛び散ってるのが勿体無いんですよね。


 ん?

 そうだ。


 私は溢れる魔力を用いて練っていきます。浄火の間では聖竜様を作り上げることにチャレンジしていました。それを応用してルッカさんを作ってみましょう。


 簡単です。先程マジマジと裸も見ましたし、中身は雑多な真っ黒な魔力です。


 私はチョイチョイと練って、形を作り、最後の仕上げにあそこをボーボーに。ちょっとだけサービスしてボーボーボーにしてあげましょう。

 うふふ、お尻の穴からお臍までの広範囲です。私的には大満足です。


「化け物! あ、あんた、そんな奇跡みたいな秘術まで持っていたのっ!? アディちゃんが気に入るはずよ!」


 フロンの叫びと共に、ガランガドーさんが放った魔力の塊はブラナンを直撃したようで、眩しい光が王都の街並みを照らしました。


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― 新着の感想 ―
[一言] ブラナンと決戦の最中にボーボーボーな裸女が現れました 記憶石がルッカさんのボーボーボーな裸を後世まで語り継ぐ めでたしめでたし
[一言] ツッコミ所多すぎて困惑してるのですが おへそから尻までボーボーだと 既に毛糸のパンツなのでは?
[良い点] 「もう、本当に意地悪ね。私、妬けちゃうわ」 『フッ。我に触れると地獄の業火の如く、火傷を負うぞ。それでも良いと申すのか』  やべぇ会話です。参加したくないどころか同席したくないです。 『…
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