活躍するガランガドーさん
「それじゃ、私はアシュリンさんの所へ向かうね。シェラはどうする?」
シェラはにっこりです。でも、彼女の唐突な独白を聞いた今では、その裏の趣味が脳裏に浮かんで、すみません、正直怖いです。
そんな時です。突如、衝撃音が響き足元がぐらつきました。併せて、書棚が幾つも倒れます。埃が舞う中、私は姿勢を低くしつつ、立ったままのシェラが転倒しないように腰を支えました。
ガランガドーさん? いますか?
『……あぁ、かなり回復してきたぞ』
そうですか、良かったです。時間が経過したからでしょう。私も魔力が戻ってきています。魔族とも闘えそうです。
これかな? アシュリンさんが私の同行を断った理由は。時間が経ってから参戦しろって言われたら、私は逆らって付いて行ったでしょう。
ガランガドーさん、今の揺れは何でしたか?
『まだ魔力が万全ではない故に、分からぬ。おおよそは戦闘による物だと思われるが。……どれ、主の中に移るとするか』
その言葉と共に私の魔力が一段と回復しました。ガランカドーさんを構築していた魔力も私の中に入って来たのでしょう。ブラナンの魔力吸収の影響は受けなかったみたいで良かったです。
もう一度、激しく部屋が振動します。
暴れすぎじゃないでしょうかね、アシュリンさん。
ガランガドーさん、方向は分かりますか? 魔法で部屋をぶち抜いて私も共に戦います。
「シェラ、ごめん。少し離れて貰っていいかな。魔法を使います」
友人が背中側に移動したことを確認して、私は魔法を発動。
床も土も砕き貫く炎をお願い。
アシュリンさんの所に届きますように。
はい、ガランカドーさんお願いしますね。私は体を委ねます。
自然と手が動き、斜め下へ。
『我は夢幻の瓊筵を守りし英武と成り得た者。芽甲の如き羞花を苦艱すること勿れ。其を芳馥にして芳景を理める冢君に寿ぐ。汞を産みたる磴道も、赭を磨く坤元も、磺の如し胡言に奔る。然れども、迥遠なる暘谷を眺める燧とは思いきや。潰えよ、封閉。統べよ、盈虧。恤孤を希う妖姫は琳琅にして、即ち、儼然たる死竜の哮り』
目が焼けてしまうのではと思うくらい眩しい光が溢れ、私が再び体の制御を戻した後には、真っ直ぐに地下へと斜めに伸びる大穴が出来ていました。
背を伸ばして入っても頭が付かないくらいに大きくて、覗くと先に明かりが見えます。
うん、ちゃんと貫通しています。注文通りです。
「シェラ、行ってきます!」
「メリナ、お気を付けて下さいね。私達の主である金貨様へ無事をお祈り致します。……でも、調査書には竜神殿ってあったのですよね、不思議で御座いますわね」
その話は長くなるので、ごめんなさい。
私は穴に飛び入る。階段ではない、ただの斜面を私は全速で駆けます。
炎で溶かし作った場所では有るのですが、熱さは御座いません。ガランガドーさんはその辺りの配慮を欠かさない、優れた精霊ですからね。
さぁ、待っていて下さいね、アシュリンさん!
出来た後輩である、この私がお助けに参りますよ!!
穴の出口はでっかい部屋の天井でした。かなりの高さが有りますが、私は躊躇せずに部屋へと舞います。
そして、落下しながら戦況確認。
アシュリンさんが見えました。まあ、口の端から血を垂らして、なんて様なのでしょう。
覇気を纏って輝くアシュリンさんは、それなのに、壁に凭れて座っていました。眼光は鋭くて気を失ってはいませんが、深いダメージを受けている様子です。
離れた斜め後方の壁が崩れています。
さっきの音はそこにぶつけられた衝撃だったのかもしれません。……頑丈ですね。よく死にませんでした。誉めてあげましょう。
敵は……。
獣か!? 眼下に灰色のでっかい獣です。ずんぐりしている巨体が見えました。
先程のガランカドーさんの魔法が当たったのか、首近くが爛れていて、肉が焦げた臭いが鼻を突きました。
私は氷の槍を数本、その背に刺す。それから、転移。
あれ……? あっ、転移出来ない!
そのまま私は獣の頭にぶつかり、そこでバウンドして、アシュリンさんの隣に落ちました。
情けなくも偶然に尻餅を付いた姿勢ですが、ここに来るまでにアシュリンさんに回復魔法を唱えております。
「助っ人に来ましたよ、アシュリンさん!」
「あぁ!? 戯れ言は後だ! あれを殺るぞ!!」
了解です!
私達はすぐに立ち上がって散開。
獣は大きく反った牙を二本持っていて耳が大きいです。あと、顔の真ん中から長い綱みたいなものが垂れています。体高は私の四人分くらいは優にある感じで、うん、巨体です。
私の奇襲にも怯まず、泰然と構えているのが生意気です。
「メリナ、象だ! 鼻に気を付けろ!」
象ですか? あぁ、絵本で見た象に似てますね。何でこんな所にいるのかという疑問は後にしましょう。
まずは殺してからです。
それにしても鼻が長い。床に付くだけでは飽きたらず、そこから這う距離もオロ部長のサイズくらい有りまして、もう一匹の魔物がいるのではと思う程の存在感です。
アシュリンさんが正面から動きました。刃の様に鋭く、象の長い鼻が薙ぐ。それをアシュリンさんは瞬間移動みたいに高く跳んで躱し、拳を象の眉間に入れようとする。
よく届くなぁ……。
しかし、このままでは牙の餌食です。
若しくは長い鼻が折れ戻って、アシュリンさんは固い床や壁へ叩き付けられる事が容易に予想されます。
だから、私も横から詰める。アシュリンさんに避けられた鼻が横から迫り、私は体をスライドさせながら正面に来るように調整しました。それから、それを胸で受け、腕でがっしりと固定する。
でかいなぁ。私の胴くらいの太さを持っていました。
余裕は吹き飛ぶ。
グハッ!
トンでもない威力でした。力が入りそうな先っぽは避けて中程に近いところで受けたのに、更には魔力で体を固めたのに、間違いなく肋骨が折れましたよ……。血が喉を上がってくるのが分かりました。肺も損傷したかな。
激痛を堪えて、私は足を踏ん張る。
象の力は私が思っていたよりも強くて、足元がズリリと滑りました。いや、体一個分ほど石畳を削ったのですが、それを滑ると表現して良いものか。
靴を心配しましたが、アシュリンさんに頂いた、この素晴らしい物は壊れていません。
何にしろ、私は身を犠牲にして象の最大の攻撃パターンと思われる物を塞ぎました。回復魔法も無事作動。
囮となった私の活躍もあり、アシュリンさんの渾身の拳は象の眉間を貫き、象は苦しみます。鼻に力を込めるのが分かる。
いや、違う! 私を巻いて締め付ける気だっ!
危険です!
ガランカドーさん! 私に力を!!
『主よ、了解した!』
「うおぉ!!!」
既に私の体を二周して強く締めてきた鼻に、私は溢れる身体の力をフルに使って逆らいます。輪を広げる? いえ、輪を砕くのです。
「ごぉらぁ!!!」
もう一度の私の気合いとともに、まとわりついていた鼻は炸裂する。如何に伸縮や柔軟性に優れようと、急な力には耐えきれずに千切れるのです。
「アシュリンさん!!」
「任せろっ!」
さっきより一段も二段も高く跳んでいたアシュリンさんの声は私の予想に反して、象の背中側から聞こえました。
「ザムラスの無念を晴らさせて貰うぞっ!!」
アシュリンさんの叫びは部屋中に響き、象は倒れました。
「終わりましたか?」
「象の背に乗っていたヤツは貴様が殺したのかっ!?」
象の背ですか……? 私が来た時にはもう居ませんでしたよね。
あれ? ガランガドーさん、知りませんか?
『ふむ、我だ。通路を作る序でに蒸発させたわ』
……アシュリンさんの仇だったのですが、良いんでしょうかね。腹いせに私が殴られる恐れがあるかもしれません。
「良くやった、メリナっ!」
おぉ、誉められましたか。
「うふふ、アシュリンさんの不出来は私がカバーしますよ」
「しかし、戯れ言はまだ早い! 名前も知らぬ奴だったが、ブラナンの願いは叶う手前と言っていた! すぐにアデリーナの救援に向かうぞっ!」




