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王都の街へ、再び

 ヤギ頭を連れてパン工房に転移です。

 ちょっと離れた所で部下に指示を出している聖女クリスラさんに会釈で挨拶です。彼女も返してくれました。少し汗で額に明るい金色の髪が付いていました。

 クリスラさんもお忙しいみたいですね。ヤギ頭を一瞥したものの、すぐに部下とのやり取りに戻りました。

 あと、部下の人たちはブラナンの魔力吸収の影響を受けていて顔色が悪いです。でも、健気に働いておられます。



 私はルッカさんの下に行きますかね。えーと、どこでしたか。確か王城の地下だったかな。

 アデリーナ様が何か言っていたことを思い出そうとしているとガランガドーさんが私に言います。


『主よ、ヤギ頭は置いてきた方が良かったのではないか。ここではブラナンの憑依が可能になる』


 あっ、そうでしたね。


「すみません、ヤギ頭よ。今から腹を殴り、あなたを気絶させます」


「巫女様……私は従います……。ブラナンから王都を、王家を、私をお救いください」


 ヤギ頭は(こうべ)を下げます。曲がり尖った角がこっちを向いて邪魔です。


 しかし、ここで重要な事実に私は気付きます。

 今のヤギ頭はズボンがずたぼれに破れて、股間を丸出しのエキセントリックな状態だったのです。


 見たくないなぁ。ヤギ頭は両手で隠しているとは言え、気絶させたらポロリンチョですよ。切断です。いえ、目に入る気配が有り次第、粉砕です。



「巫女様……私は始祖様の為に他の者への犠牲を強いて生きて参りました。それはとても多くの……。アデリーナには私が父であることを隠して頂けませんか……。あの日までは仲睦まじい家族だったのです……。その彼女の思い出を汚したく御座いません……」


 えっ? そんな事よりも目前のお前の一物をどうすれば良いか考えなさいよ。

 私は深刻なのですよ!


「アデリーナ様は大丈夫です。既にヤギ頭、お前が生きている事を伝えたら、『ふーん』としか言いませんでしたよ。あの人は吹っ切れてます」


 あと、多分、先王と現王とヤギ頭を同時に殺してブラナンを追い出そうとしていると思います。それはヤギ頭が動揺して暴れると面倒なので言いません。


「ぐふふ、ぐふ。流石、我が娘ですね」


 お前は元皇太子らしからぬ笑い方ですね。


「それでは、我慢下さい。死んだらすみません」


「メリナ、殺したらいかんだろ。マジで」


 えぇ、ここは大切なパン工房ですし。ヤギ頭の血痕が床に残ったらとても不衛生です。


『主よ、我がやろう。記憶石なる道具でもって、主の忠実なる竜である我の力を後世まで伝えようぞ。見るがよい、我が深淵を!』


 ガランガドーさんがカッと円らな眼を開けると、ブワッと黒い何かを体から放出されました。

 それはアシュリンさんが出した覇気と呼ばれるオーラみたいな物に似ていましたが、体に纏うのでなく周囲に飛び散らせる点で異なりますね。


 うん、そよ風。三回もの試練で疲れた体を癒すには丁度良いです。


 ヤギ頭はそれを受けて気を失った様に、床へ前のめりに倒れ込みました。

 うん、良いですよ。股間が見えません。



「……おい! 何だ、今の禍々しい物はっ!?」


 エルバ部長が騒がれました。


『死を運ぶ者としての威厳も必要であろう。小さき者よ、しかりと記憶したか? そうだな。今の術は、九泉の不知火とでも名付けるが良い』


 不敵に言うガランガドーさん。

 満足気な顔で、恐らくネーミングがしっくり来たのでしょう。


「……九泉……だと。冥界の事かよ」


 エルバ部長もノリノリですね。雰囲気作りがお上手です。ガランガドーさんも後世まで今のセリフが残って幸せでしょう。

 さぁ、次に行きましょう。



 何故か先程よりも顔色がますます悪くなっているデュランの教会関係者の方に、ヤギ頭を縛るようにお願いしました。ブラナンの憑依対策に偉そうな喋り方をしたら、即座に躊躇なく殺せとも伝えています。

 私は次代の聖女様ですので、デュランの方々である彼らは私の依頼を喜んで実施して下さいました。



「さぁ、王城に向かいましょう」


「なぁ、メリナ。王城より先に情報局を押さえた方が良くないか? ヤギ頭の話でも、明らかに情報局はブラナンを知った上で行動している」


 ……うーん、そうなんですよね。ヤギ頭の話以外にも吸魔を作って、それを王都の人に入れたりしてたんですよね。ブラナン復活の魔力を貯めるために。


 王様はルッカさんが抑えるでしょうし、アデリーナ様もオロ部長とご一緒ですから心配有りませんし。


「王都の民の事も心配だが後の憂いを除くのも大事だろ、マジで」


 私の脳裏に階段で意識を失っている獣人の子供たちが浮かびます。それをグッと堪えて私は返事をしました。


「分かりました。向かいます。シェラも情報局に行ったみたいですし」


「場所は分かるか? 私はここでヤギ頭を見張る」


「はい。アシュリンさんにでも訊きます」


 外は転移しようと集まった群衆で道は埋め尽くされているので、私は工房の屋根に登り、屋根づたいに移動する事にしました。


 周囲はほの暗いままで、空は赤く染まっていて、鳥の形をした巨大立体魔法陣がまた出現していることを知ります。

 しかし、それは無視。


 それよりも街中から出ている白っぽい光の下に行きましょう。きっとアシュリンさんです。

 そこまで急がないといけません。



 転移は……、うーん、あそこらは行ったことない地区かも。そうだ! 三角跳びで良いでしょう。


 転移の腕輪は便利ですが、私が訪れていない所には飛べません。でも、そうであっても私が見えている範囲であれば、ちょっとくらいの距離なら可能です。私がその場所を認識しているかどうかが発動の有無を決定しているのだと思います。



 上空に跳んで、下の街並を見て、落下しながら転移場所をすぐに決定して、再度の移動。目的先は先程の白い光の所。

 アシュリンさんはバカなので、敵だと誤認される可能性も有るので、ガランガドーさんを胸の前に配置しています。防具です。



 しかし、そこにいたのはアシュリンさんでは有りませんでした。次代の聖女の位を争ったイルゼさんでした。コリーさんが傍に立ち、彼女の体を支えられています。


 イルゼさんは魔法を唱えている様でして、魔法陣が出ています。その光が工房から見えていたみたいです。

 魔法陣が現れる程の魔力を使っているのですから、彼女は消耗した顔をされていて当然です。

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