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今日には終えたい

 皆が座っているのに私とルッカさんだけが立っているのは侍従みたいで嫌ですので、ソファに腰掛けました。クリスラさんが座っていた三人掛けのヤツです。二人分空いていたのでルッカさんも隣に来ました。



「早くしないと神殿の巫女に実害が発生しそうですね」


 そういうマイアさんはニヤニヤしていました。えぇ、関係者でなければ私も大笑いでしたよ。


「あの赤い粉末の魔力分析をしました。どうも、ワットちゃんに関する記憶が畏れ敬う物に上書きされるみたいですね」


 聞きたくないです! 副神殿長は本心ではアレを愛慕していたのですか!?

 突然にそんな独白をされたら、皆が動揺しますよ。


 それに、これ、アレなんです。私がそうだった様に、意識操作が解けても、その間の記憶ははっきりくっきり残るんです! ブラナンを駆除した後に、副神殿長は恥ずかしさで自死されるかもしれません。



「メリナさんは聖衣の巫女でしたよね……」


「男根で聖衣ってアレね。……半人前みたい」


「プフっ」


 おい、クリスラ!! 何で笑った!?

 意味が分からないけど、スゲーバカにされたのは理解しましたよ!

 絶対にお下劣な笑いだと断言します!

 ルッカさんはともかく、お前も聖女失格です! あぁ、リンシャルを呼び出して説教して貰いたい!



「止めましょう。この話題は我々の品性を下げること間違いないのですから」


 アデリーナ様は冷静です。助かりましたよ。このままでは、貴方も当事者に、アレの巫女になるわけですからね。


「そうね。まずはブラナンを倒して、それから笑おうか」


 そう言うルッカさんは男根を崇拝してもおかしくないと思います。って言うか、もう崇拝しているかの様な格好です。


「その分厚い書類が今日の作戦ですか?」


 机の端に置いてある紙の束について私は尋ねました。


「いえ……副神殿長による神殿の改造プランです。最適な人事異動と部署再編による――」


「男の楽園設営企画書ですってよ、うふふ」


 だから、マイアさんは何故に嬉しそうなんですか!?



「簡単に言えば、男が男を相手にする売春宿です」


 何ですって!? アデリーナ様、そこに巫女は必要なのですか!?


「……一刻も早くブラナンを倒さないと、神殿が瓦解します。今は巫女長も不在で、トップは副神殿長ですからね。このまま事が進んでしまう恐れが高いのです」


「……神殿長っていないんですか?」


「ご不在です。前シャール伯爵のままですから。今の神殿の状態では、職権的に彼女で決済が下ります」


 おぉ、事態はより一層深刻だったのですね……。


「では、まぁ、ワクワクする話は脇において、気を引き締めて、今からのブラナン討伐について詰めましょうか」


 今日のマイアさんは大丈夫かな。ワクワクする感情が分からないです。



 昨日聞いた作戦なんてほぼ無きに等しい物です。聞いていなかったと言うのが正直な所でも有りますが。


 私が理解しているのは、何が起こるか分からないのに、扉に突っ込んで現れた敵をぶん殴る。それだけです。


 副神殿長が一晩で作り上げた、その分厚い企画提案書を見習って欲しいと思います。中身は見たくないけど、ケーススタディとかも記載されていると思うんです。


 私より少しだけ賢いマイアさん、クリスラさん、アデリーナ様に期待しますよ。

 さぁ、グッドアイディアを語りなさい。

 


「昔のブラナンは精霊じゃなかったのよ。なのに、今は精霊扱いなのよね。人が精霊に成れるものかしら」


 早速、マイアさんが素晴らしい気付きを私に与えてくれました。人であれば簡単に殴り殺せます。


「精霊に尋ねれば良いんじゃない? 巫女さん、あのドラゴンを出しなよ」


「えー、でも、私はシャールで魔法を使うのを許可されていないんで」


 ふふふ、私もルールを守れるレディーに成長しているのですよ。


「ゴチャゴチャ言わず早くしなさい、メリナさん。良くも悪くも、あなたの真髄は奇想天外な所なのですから、余計な考えはお止めなさい。時間が勿体無いのですよ」


 黒い白薔薇め。私の成長を祝う事はしないのですか。



 でも、私はレディーですから、反感は胸の奥で留めまして、魔力をコネコネからのガランガドーさん召喚を致します。 


「……メリナさん、これは……。サイズは違いますが、あの黒竜ですか……。私では立ち向かうことも困難であった……」


 そっか、マイアさんには初めて見せますね。ガランガドーさんにはミーナちゃんの頭を砕いた印象が強く残っていましたか。


『その節の事は互いに忘れようぞ。我はこの娘と一生を添い遂げると誓った――』


 拳骨です。アデリーナ様から何回も喰らって会得した拳骨を、ふざけた言い方をしたクソ竜にお見舞いです。もしも聖竜様が聞いていらっしゃったら誤解されるでしょうが!


「……今は信用するしか無いのですね。質問致します。人から精霊になる事は可能なのですか?」


『人の世に直接関与する事は精霊の名折れ。しかし、貴様には借りがあろうな。良かろう。あれは擬似精霊。貴様が仮の空間で過ごした状態と同じ』


「……なるほどね。ブラナンはつい最近の私と同じか……」


 マイアさんは悲しそうにポツリと呟きました。


「魔王との戦いで私はリンシャルに魂を捧げたと言うのに、ブラナンは精霊になったのですか……。そんな手段を知っていたのなら、私も違った選択肢を取り得たのでしょうね」


『……愚かしい。未来など数多の可能性の渦なのか、定められた道なのかさえ分からぬ物。未知を悔いるのは短き命を持つ者のみ』


 まぁ、ガランガドーさんは偉そうで生意気です。虚勢を張るのはお止めなさい。


 睨み付けてやると震えていました。

 私と聖竜様が結ばれる未来は一本道なんですからね!



 さて、未来に興奮したところで、戦意も昂りました。私は皆に告げます。


「もう良いですか? ブラナンを倒しに行きましょう。メンバーはこの5人で良いですかね? 転移しますね」


 しかし、私の言葉に同意は有りませんでした。返答の代わりにアデリーナ様が喋ります。


「副神殿長が来られるまでに3人で話をしていたのですが、ブラナンとの戦闘で危険なのは意識操作と魔力吸収です。意識操作に関しては、私はふーみゃん、聖女クリスラ様は神獣リンシャル様の鍵、メリナさんは自力で解決できます」


 リンシャルの鍵は、近付く必要が有りますが、3人までは防御できるのでしたね。だから、マイアさんとルッカさんも大丈夫です。

 あと、ふーみゃんの毛をむしって皆が持てば良いのですよね。アデリーナ様に嫌みを言われると苦痛なので、機を見て言いましょう。


「魔力吸収については、メリナさんとルッカは対処できることが確認できています」


 あぁ、そうでした。ヤギ頭を追った時に、クリスラさんは脱落寸前だったのです。となると、他の人も同じ症状になるかもですね。


 結局、リンシャルの鍵をルッカさんに持たせて、昨日と同じくルッカさんと私で乗り込む形ですかね。

 私としては構いませんが、一応要望だけ伝えておきましょう。



「味方が多い方が嬉しいんですが、どうにかなりませんか?」


 多い方が敵の注意が分散して目的を達成しやすくなります。犠牲が大きくなっても、勝利の前には小さなことです。


「それは私もメリナさんに同意致します。しかし、やはり魔力吸収と意識操作は厄介で御座いましてね」


 ふむ、断られました。仕方有りませんね。そもそも、その回答を予測していました



 アデリーナ様は続けられます。


「ブラナンは王とその一代下の王族に転移できます。つまり、敵は防御手段を持つ私を除いて、3人に転移できます」


 3人とは、現王様とその兄のヤギ頭、それから死んだと思われていた先代の王ですね。


「彼らから同時に追い出せば、憑依先を失ったブラナンが現れるのではと考えます。勝機はそこに御座います」


 つまりは、3人同時に殺すのですかね。

 マイアさんが疑問を口にします。


「ブラナンが憑依先を失ったとして、どうやって姿のない者を討つのですか?」


 彼女は何百万年もその状態で過ごしたからこその当然の疑問でした。……何をしても死ねなかったんでしょうから。


「ロヴルッカヤーナは魔力を吸えます。逃げ場を無くせば、より効率的でしょう」


「ロヴルッカヤーナとは?」


「マイア様。聖女ロルカ様です。こちらの方です」


 クリスラさんはルッカさんを見ます。ルッカさんは困った顔をしつつ、手を降ってマイアさんにアピールします。


「聖女ロルカ? ……あっ!? 私が作った街をぐちゃぐちゃにしたあいつ!? 言われてみれば、あなた、そっくりね!」


 ルッカさん、何をしたのですか。マイアさんが珍しく興奮されましたよ。


「確かに、あなたなら吸えるわね。そうよ、思い出した! あなたが魔力を持ち逃げしたから、私の力が落ちたのよ! …………いいわ……もう古い話ね……許してあげる」


「ありがとね、大魔法使いさん。あと、ソーリーよ。あの時に救ってあげられなくて」


「……救うですって……」


 呟いたマイアさんは背もたれに体を預けて、少し目を瞑りました。どんな感情かは分かりませんが、私にはちょっとだけ哀しそうに見えました。



 それに構わずルッカさんはアデリーナさんに次の質問をします。


「アデリーナさん、先代の王の隠し子は?」


「いません。過去にはいましたが、現王が殺しています」


 ……まぁ、怖い。王位を守るためでしょうかね。


「彼の調査に漏れた者も私が始末しております」


 ……まぁ、怖い。

 殺人鬼が間近にいた訳ですね。今更ですけど。



「一番の問題は先代がどこにいるのかですが、やはり目の届く王城だと考えています。ルッカなら探し出せますよね?」


「……えぇ、飛んでるブラナンに邪魔されない前提だけど、アデリーナさんや王様の魔力の質に近い人間を上空から見つければ良いのかしら」


「回収をお願いします。王についても同時に居場所を探ってください。ヤギ頭については、何が有るか分かりません。こちらの切り札であるメリナさんにお願いしたいと考えています」


「はい! 殺したいですが半殺しにすれば良いのですね」


 なお、ぶっ殺しても現王と先代が生きていれば問題ないことを理解していますが、言いません。ちなみに先代さえ生きていれば良いことも気付いていますが、質問しません。

 アデリーナ様の意図は分かりませんが、騙されてやります。



「集合場所は、どこが良いでしょうか?」


「どこでも良いけど、そんなに遠くには無理よ。巫女さんが、いえ違ったわね、その腕輪がスペシャル過ぎるだけだから」


「……デュランの王都公館を使いますか? 私が安全を保証します」


 クリスラさんの申し出は有り難いのですが、私には不都合でした。


「私はそこに行ったことがないので転移が出来ないと思うんです。パン工房なら、一番馴染みがあって、すぐに転移できると思います」


「ルッカ、分かりますか?」


「大丈夫よ。それで良いわ」


 大体決まりましたね。



『主よ、発言を良いであろうか?』


 うん? ガランガドーさん、良いですよ。

 私の許可を得て、ガランガドーさんが喋ります。


『ヤツの意識操作と魔力吸収については、我が抑えよう。その者の案では、主が単騎でヤギ頭の場所に向かうことになろう。主に助けが必要とも思えぬが、万が一の事もある。主を利用されるのは我が許さん。徒労であっても人間の事は人間が解決すべきであろう。その者は厚顔にも心の内を我に読ませぬのであるからな』


 アデリーナ様はしばらく無言でしたが、少しの微笑みを携えて承諾なさいました。



「ならば、戦える者を集めないといけませんね。しかし、神殿の事も考えると、今日には終えたいとも思います」


 と言うことで、急遽、私達はそれなりに強い人たちを集めることになりました。

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[一言] 男根を畏れ敬う男の楽園の巫女。面白かった。
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