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魔力の奔流

 異変を感じたら、私の独断で再転移するという約束で、私達は王都へと戻ります。

 ルッカさんもクリスラさんも、赤い血が乾いた私の服を指で摘まんでいます。私の血液だからそんなに汚くないと思うんですけど。



 着いた地下室は照明魔法が必要のないくらいに明るく、また、以前に降りた階段からすると地中深くにあったはずなのに、ポッカリと天井がなくなっています。お昼は過ぎて久しいけど、まだ夕方という時間では御座いません。なのに、空が暗いです。


 部屋の明るさは魔力が出す光でした。大量の魔力が、この地下室の横にある扉から流入してきていまして、ブラナンの骨があったという壁に吸い込まれていきます。激しく動く魔力が互いにぶつかりあって光を発しているのでした。


 私の記憶では、その魔力が溢れてくる扉はヤギ頭が「その先には何もない」と言って、私も魔力的に何も感じなかったから確認しなかった所です。


 ヤギ頭はいないか……。



 しかし、これ、凄いです。

 メイドさんはブラナンが魔力を吸っていると言っていましたが、私は今、魔力の奔流を浴びて、それを体中で堪能しています。


 壁際に立つと体を貫き抜ける様に魔力が駆けて行きますので、それを体内に取り込むのです。


 いやー、来て良かった。逆に魔力が収集できるとは思いませんでしたよ。


 ルッカさんもそれに気付いたのか、口を開けて、多分、魔力を食べておられます。さすが、魔族。



 ちなみに、いつでも転移できる様に、お二人とも私にほぼ密着した状態になっておりまして、少し窮屈です。



「美味しいですか、ルッカさん?」


「んー、何だろ。量は多いのに薄味。水で薄めたミルクを飲んでる感じ」


 まぁ、飲めないことはないって事ですかね。


「あれ? クリスラさん、顔色が悪くないですか?」


「……えぇ、フェリスが言った通り、魔力を少しずつ抜かれています」


「えっ。こんなに魔力が来ているんですよ? 確かに抜かれてますけど、足される方が多くないですか?」


「巫女さん、あなたがアブノーマルなのよ」


 ……いえ、魔力操作に優れているだけです。



「……メリナさん、まだ大丈夫ですか?」


「むしろ、もっとここにいたい気分です。ガランガドーさんをもう一度出す程度には、魔力を回復させたい所です」


「分かりました。……私が倒れたらお願いしますね」


 クリスラさん、そんなに魔力消耗が激しいのですかね。うーん、クリスラさんの状態を確かめたくとも、周りに魔力が多過ぎて、魔力感知が全く出来ませんよ。

 気遣い上手なルッカさんがまだ気にしていない所を考えると、まだ良いのかな。


 うん、そうでしょう。やらないといけないことを進めましょう。


「ルッカさん、ヤギ頭の魔力は分かりますか?」


「ちょっと待ってね。……ん? えっ――」


 ルッカさんが顔を上に向けます。釣られて、私とクリスラさんも同じく見上げます。

 夜の様に真っ暗ではないのですが、それでも宵が進んだ時くらいには闇が濃くなった空の色です。


「トンでもなく大きな魔力を持つヤツが確かに飛んでる……」


 それがブラナンかな。

 私も見てみたいですが、全く分からないです。


「微かに私も感知できました。……正直、私では勝てないと判断します」


 クリスラさんがですか?

 戦い方次第では行けるんじゃないかなぁ。

 あぁ、私も知りたいです。どんなに強いヤツなのか。怖いもの見たさなんでしょうね。



「ヤギ頭は……分からないわね」


 ルッカさんが分からないなら、もう誰にも無理です。それくらいルッカさんの偵察能力を評価しております。

 残念ながら、こうなると、後はどのタイミングで見切りを付けるか、マイアさんの所に転移するかで御座います。



 そんな時、突如、魔力の動きが変わった部分が部屋の中に来ました。ルッカさんやクリスラさんもそれに気付きます。


 川の真ん中に岩があると水が分けて流れる様に、魔力がそこを避けて通るのです。


「何ですか、これ?」


「アンノーンよ。でも、魔法ね」


 その空間にヤギ頭の姿が半透明で浮かびました。転移じゃない。魔力だけで構築されている?


「投影魔法です」


 クリスラさんが指摘します。

 ヤギ頭は口を動かす。長い舌がヌメッと鈍く光って気持ち悪いです。


「竜の巫女様、昨日はどうも。この麗しきタブラナルの輝き、目を奪われますね」


 声も魔法か。口の動きに合わせて魔力が震えるのが分かりました。


「お前がブラナンを復活させたのですか?」


 メンドーなので、単刀直入で訊きます。


「ぐふ、ぐふふ。……そうです。あの黒龍を生け贄にすることで、私の計画は仕上げを早めることが出来ました」


 ヤギ頭の邪教では生きた獣人の魂を神に捧げると言っていましたが、あながち嘘では無かったという事だったのでしょうか。


「あなたが王様の兄だったのですか?」


 そう、王は兄が王都の地下にいると言っていました。そして、ブラナンもその体内に。


「そうで御座います。ブラナンを通じて、全部見ていましたよ。王と呼ばれていた弟を殴るだなんて、目茶苦茶で御座いますよ。罰が必要だと思いました」


 あ?

 この私に生意気な発言を続けるお前にこそ、罰が相応しいのですよ。


「お陰様でブラナン復活は成りました。その慶事の功労者である竜の巫女様には赦免の機会を与えましょう。この通路の先に私は居ます。お会いすることが出来れば、お話にお付き合い致しますよ」


 あぁ!? お前に望むのは服従と恭順ですよ! 何が話だ、クソがっ!!



 虚像に向かって私は殴ります。当たるとは思っていません。怒りを表現させただけです。

 ヤギ頭の姿は消えました。



 私は通路へとズンズン歩いていきます。怒りから自然と足に力が入りますね。

 ルッカさんとクリスラさんも私とともに付いて来ます。


「皆さんも殺る気マンマンですね。心強いです」


「巫女さん、それもあるけど、いつでも巫女さんが転移できる様に備えているのよ」


 クリスラさんは黙ったままです。私達と違って、これだけ溢れる魔力を体内に取り込めないから吸い取られるばかりなのでしょう。

 だから、無言でした。


 足手まといは不要です。しかし、彼女の目はまだ活きています。戦意があるなら、やはりクリスラさんも戦力に考えるべきです。



「しかし、あれですね。ヤギ頭、ぐふふって笑っていましたね」


「えぇ、気持ち悪かったわね。それがどうしたの? 巫女さん」


「いえ、アデリーナ様のお父様だと思うと愉快でした。父の醜態を報告して、アデリーナ様を赤面させましょうね」


「……巫女さん、この期に及んでもそんな事言えるの、クレイジー」



 通路の先にはまた扉が有りました。その上に二行程の文章らしき装飾が有りますが、私の知っている物では有りません。かなり昔の古語?


「ルッカさん、読めますか?」


「無理ね。私も知らない時代のね」


 大した事は書いてないのか。そう断じて進むのも有りです。ただ、得られたはずの情報を無視するのは気持ち悪さも残ります。



「……私が覚えました」


 クリスラさんがぽつりと呟きます。疲労が激しそうです。


「……だから、マイアさんの所へ」


 ふむ、良い考えですね。ここには転移の腕輪ですぐに戻って来れますから、時間ロスもそれ程では御座いません。


 頭に血が上ってヤギ頭をぶん殴ることだけを考えていましたが、マイアさんに今起きている異変について訊くのも有効です。


 クリスラさんの提言に従い、私は転移します。



「今日は女の子だけなんだね。あれ、君のおっぱいは見覚えがあるんだな」


 ルッカさんの胸に着目するのは私のお父さんと同じですが、その出迎え時のお下品さはどうにかならないものなのでしょうか。そんな風にマイアさんに作られているのかな。哀れですよ、師匠。


「師匠、マイアさんはいつもの部屋ですか?」


 師匠の挨拶みたいなのを無視して、私は用件を伝えます。


「うん、そうなんだな。今は一人だよ」


 ミーナちゃんと彼女のお母さん、それからシャマル君はマイアさんが作った魔物と戦闘訓練を外の通路でしているらしいです。

 戦闘訓練という単語に疑問が浮かびましたが、ここを出た時に二人で暮らせる様にというマイアさんの配慮らしいです。

 ミーナちゃん、そんなの要らないくらい強くなりそうだと、私は見込んでいますが。



 一際大きな扉を開くと、マイアさんが独り佇んでいました。そして、私を確認すると柔らかい微笑みを向けてくれます。



「マイア様、クリスラで御座います」


「はい。分かりますよ。……あら、弱ってらっしゃるのね」


 マイアさんは動作もせず、瞬時に無詠唱魔法を唱え、クリスラさんの魔力を回復させます。


「感謝致します。時間がなく、早速ですが――」


「待って。メリナさん、それは何ですか?」


 クリスラさんが言葉を継いでいるのを遮って、マイアさんが私の所持品に興味を持ちます。


 ……どっちの事でしょう。脇に抱えた黒いウネウネの氷漬けなのか、噛みに噛んだ竜の妙薬か。

 私は悩みます。だから、喋りませんでした。その代わりに、床に両方を置きました。


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