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自由な巫女長

 クリスラさんに先導され、私達は王の元へと向かいます。意識を操作する魔法が使えるという王様ですが、クリスラさんがリンシャルの宝具があれば三人とも守ることが出来ると言うのです。

 リンシャルがクリスラさんにそう伝えたのだと主張されます。


 可能性としては、その伝えたというリンシャル自体も王に操られた結果の幻影と捉える事も出来ます。しかし、それは余りにも疑い過ぎでしょう。

 王はクリスラさんに対して私を憎む操作をしたのだから、私を殺す事が目的とする方が合理的です。捕まえたいのなら、クリスラさんを味方に見せ掛けて私を騙し、王様の下へ連れてくるように最初から操作するでしょうからね。


 ただ、一つ懸念が有ります。王様が私に雄化した聖竜様の幻を見せてきた時に、私はその幻覚に溺れるかもしれません。醒めない夢は現実と変わらないとお父さんの本に書いてありました。

 ……いざと言うときの予習にもなりますし、キャッ。


 いえ、冗談はこの辺りにして、真面目に考えましょう。


「ルッカさん、王様を殺すんですか?」


 抜き身の剣を片手に、隣を歩くルッカさんに尋ねます。

 私、怖いです。王殺しの異名が今後の人生に纏わり付くのが。だから、(とど)めはルッカさんにお任せして、私は柱の影から観察させて頂きたいです。


「可能ならね。殺しても本体が次の代に憑くだけみたいなのよ。ホントにクレイジーよね」


「何ですか、それ?」


「昔の恋人の一人が言っていたのよ。たまに意識が飛ぶんだって。当時の王都の物知りに訊いたら、精神が徐々に乗っ取られていたみたいよ」


 その恋人は昔の王様で、ラブラブしている最中にルッカさんが噛み付いて殺されたっていう哀れな人ですよね。


「本体って言うのが幻鳥ブラナンですか?」


「そう。アデリーナさんが初めて聖竜様にお会いした時を覚えてる?」


 確か、監獄から出て私が聖竜様に愛の告白をした日ですね。だから、よく覚えています。


「はい。良き日でした」


「アデリーナさんは知っていた。初代の件について聖竜様と相談されていたでしょ?」


 うーん、そうでしたっけ。

 聖竜様が「初代の事か? ルッカに託すが良い」と言って、アデリーナ様は「それで了解頂けたと理解します」と答えたのです。

 アデリーナ様は強引です。聖竜様が何をどう理解されたのか確認しないまま、話を進めたのです。つまり、何をしようと聖竜様の許可済みなのですよね。

 聖竜様の意に反した行為を指摘されても『えっ、そうなんですか? 誤解が御座いましたね。申し訳御座いません。うふふ』ってにっこりアデリーナ様炸裂です。


 聖竜様もそこまで分かっていて『う、うーん……うん』って困っておられましたもの。

 全く……あの時、天誅を下すべきだったかもしれません。アデリーナ様は私の慈悲に感謝して、たまには私に跪かれても良いのではないでしょうか。



「王都がまだこの場所にあるのだから、殆どの人はその悲劇が起こることを知らずに過ごしていると思うの。恐らく代々の王が隠蔽工作をしている。でも、彼女が知っていたと言う事は何かが起きたことが極一部には伝わっていると思うのよ」


「何が起きるんですか?」


「私も実際には見たこと無いからね。スードワット様が言うには、人々の魔力を吸ってブラナンが鳥として復活するらしいわよ。そんなのを昔の巫女から聞いたらしいの」


 んー、よく分からないなぁ。復活するのは良いとして、何故に消えたりするのだろう。本人は代々の王様に憑く形で存在しているのに。

 聖竜様もそんな話なら、もっと代々の巫女に伝えれば良いのです。王都には住むなと。


「極悪な魔族ルッカを退治するために、仕方なく出て来ているんじゃないですか?」


「えー、それだと私が元凶になるじゃない。えー、クレイジー、アンビリバボー」


 いやぁ、実は前々からそんな思いも浮かんでいたんですよねぇ。私の考え過ぎなら良いのですがね。



 クリスラさんが足を止めました。何事かと思ったら、突然、横にあった木の扉越しに槍が一本突かれたのです。狙いはクリスラさんです。

 素早い身のこなしで、それを躱すクリスラさん。ルッカさんが槍の柄を剣で切り落とし、私は扉を拳で破壊します。


 そこにいたのは、私と同年齢くらいの少女兵。騎士見習いさんかな?

 ガタガタ震えているその娘さんは、弱そうですし、魔力的にも弱いです。でも、ただ敵意だけは維持されていて、私達を睨み付けます。


「こ、この反逆者どもが!」


 到底勝ち目はないのですが、忠義心は立派ですね。死への恐怖に打ち勝った彼女に感動します。私、その娘さんを連れてデュランに転移しました。ルッカさんの下僕にされるのを避けたのです。



「パットさん、この人も宜しくお願いします。あと、クリスラさんは生きてましたよ。王様にお会いしたらしいので付いていきますから、今少しお待ちください」


「ハッ、お任せを! クリスラ様の件、ありがとうございました。良かったです。さすがメリナ様です」


「それでは、また後で。可能なら王様を倒しますので」


「えっ!?」


「ちょ! ここどこなのよ!?」


 喚く少女兵はパットさんにお任せしましょう。私はルッカさん達の下へ戻りました。



「優しいのね、巫女さん。もっとズバババって倒していくのかと思っていたわ。サプライジングよ」


 ずっと思っていたのですが、お前、私の評価を誤っておられますよね? 心外です。


「余りにも弱い人達は排除してないのよ」


「むしろ、そういう人を排除しておいて下さいよ、ルッカさん」


「メリナさん、弱き者を慈しむ心、大変に素晴らしいです。私が見込んだ通り、聖女として適切な心持ちです」


「クリスラさん、誤解しちゃダメよ。巫女さんは強い人と殴り合いたいだけなんだから」


「ルッカさん、本気で殴りますよ?」


 絶対に私を化物とか思ってますよね、この魔族め!



 たまに出現する兵隊さん達をデュランに転送させながら、私達は進みます。とても広い敷地で何回か建物を出たり入ったりして、奥へと行きます。

 ルッカさんの下僕さん達は相当に強い人達だったみたいで、この敷地内をほぼ制圧していたのでした。

 王様の陣地を襲った時にかなりの人数を噛んでたものなぁ。王国の仇敵ってすっごくピッタシな名前ですよ。


 庭を歩いているところで、クリスラさんが足を止め、傍にある小さめな建家に目を遣ります。ルッカさんもじっと見ていました。


「どうしましたか?」


「フローレンスさんの気配がしました……」


「えぇ。私もよ。巫女長だわ。やっぱり生きてたのね」


 あは、やっぱり、あの人は死にませんよね。

 私には巫女長の魔力が判別出来ませんでした。二人に比べると未熟で、少し悔しいです。



 大きな鉄扉を引いて、中を覗きます。ギギィって錆びた麻とが響きました。


「巫女長~、いらっしゃいますか?」


「あらあら?」


 暗くて見えませんが、巫女長の声です。


「クリスラさん、急ぎますか?」


「いえ、大丈夫です。王と話す際にフローレンスさんもいらっしゃると心強いですし」



 照明魔法を使い、中へ入ります。巫女長もこちらへと向かってきました。

 お顔に黒い埃を付けたりして、ここで何かをお探しだった様子です。


「巫女長、ご無事で良かったです。何をされていたのですか?」


 私の問いに巫女長はアッケラカンと答えました。「王都の宝物庫にある竜関係のお宝を見たかった」との事です。

 私、ちょっと理解に苦しみます。


「メリナさん、こんな機会は無いのよ。ほら、王城に入るだけでなく、自由に動けるチャンスなんて、私の人生で最後なの。分かるでしょ? つまり、これは役得。エルバさんも許してくれるわ」


 エルバ部長なら「マジかよ、フローレンス! お前、またサボってんのかよ!」と叫びそうですね。



 竜好きの巫女長は、和平条件の交渉は程々に、宝物庫の位置を毎日探索されていたらしいです。


 ここがその宝物庫の一つで竜に関連する何かが納められていると昨日、お知りになられたそうです。確かに宝物庫っぽいですね。色々と箱が置いてありますし。

 

 そして、誰にも知られずに行動するために、巫女長は自ら毒で仮死状態になったのです。



「ケイトさん、心臓を一時的に止める薬なんて作れるのよ。凄いわね」


 そんな物を飲む巫女長が凄いですよ……。


「ガインさんは知っていたんですか?」


「言ったら止められるじゃない。あの人、案外に堅いから。でも、昔から私のやる事を勘づくのが上手だったから、分かってるかもしれませんね」


 笑顔がキュートなんですが、やるせない気持ちですよ。巫女長が倒れて、王都側はシャールに責められるくらいなら、攻め立てようと考えた結果が、今の状況かもしれないからです。


 いや、でも、王都はロヴルッカヤーナの王都への出現の方が脅威で、襲ってきたのか。そう思いましょう。巫女長が倒れなくても、パン工房の襲撃は起きていた。巫女長の件は偶然です。そう思い込みましょう。



「この人もクレイジーね。仮死状態から戻っても、近くに人がいたでしょうに?」


 巫女長はニコニコのままです。アデリーナ様と違って邪気がないので、なお性が悪いかもしれません。絶対に何らかの術で、近習の人や王都の担当者をどうにかしてますよ。



「それで、何か見付かったのですか?」


「そうなのよ! 竜の骨で作った剣が有ったのよ! とっても貴重だわ。だから、私、少しだけ拝借――」


 アーアー。聞こえない、聞こえない。

 巫女長が盗みを働いているなんて、最後まで聞いてないから聞こえません。知りません。序でに小麦粉の件も忘れました。



「メリナさん、見る? 本物よ、本物の古竜の骨。すぐに出せるから」


「いえ、大丈夫です」


 収納魔法か……。完全にやっちゃてる感じです。


「そうなの……? メリナさんの竜への愛情は私と同じくらいだと思っていたのに……」


 私が愛しているのは聖竜様だけですから。


「じゃあ、これはどう? 竜の妙薬。古竜の陰茎の乾燥物なの」


 !? チョー興味有ります!

 私は巫女長の両手を握り、首をコクンコクンと振ります。これを聖竜様に捧げれば、雄化に向けて大いに参考になるに違いありません。



「フローレンス様、会話の途中で横から入り、申し訳御座いません。しかし、王に誤解が有ったことを謝罪しないといけません。一緒に来て頂けますよね?」


 あっ……。そうだ、クリスラさんは巫女長暗殺疑惑について王に調査依頼に行ったんですよね。それが全くの徒労だったと判明して、少しばかり口調もきつめです。


「あらあら、クリスラさんも堅いわねぇ」


 ……巫女長、ダメですよ。私でも分かります。クリスラさん、お怒りです。この状況の原因があなたにあると把握されて、苛立っておられるかもしれません。

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