表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
361/421

王城を進む

 アシュリンさんが豪快に両腕両足を広げて寝ている横に、血塗れになった男、えーと、パウサニアスを置きました。ひたすら殴り続けましたが、胸が上下しているので、彼はまだ生きています。


 結局、ナウルさんはアシュリンさんの何だったのでしょうか。クリスラさんの無事を確認次第お尋ねしましょう。


 あと魔剣はどうしたものか。

 激痛を我慢して体から引っこ抜いたは良いものの、私は剣の扱いを知りません。ここで言う扱いは斬り方もですが、お手入れの事もです。

 知識としては血脂で切れ味が落ちるとは知っていますが、魔剣も同じなのでしょうか。


 ブンッと一振りすると、剣に付着していた私の血や体液が飛び散り、元の輝く剣身が現れました。


 うーん、持っていくと盗んだみたいになるなぁ。それって淑女っぽくないです。それに壊して恨みを買ったら、このパウサニアスは強いので危険です。寝首を掛かれると私でも殺されるかもしれません。

 私は剣を包むように氷を出します。冷たい所に保管すると食品は腐らずに長持ちします。剣も同じでしょう。これで安心です。



 さあ、クリスラさんの様子を見に行きましょう。



 私は全神経を集中させてルッカさんの魔力を探します。彼女は魔族なので、魔力の量も多い上に真っ黒という特徴があって判別しやすいのです。

 魔力感知初心者の私でも、もしかしたら辿ることが出来るかなと期待したのでした。


 いました。

 たぶん、いました。

 やはりお城の中ですね。


 私は棒立ちになっているルッカさんの下僕たちの間を悠々と歩いて、立派なお城に入ったのです。


 例外は有りますが、お城はそもそも軍事拠点だったものが巨大化し、更には有力者の武威と栄光を見せ付ける目的もあって築き上げられて行ったものです。だから、物々しい雰囲気が基本になるのです。

 でも、平和な時代には、そこが行政の中心となり、名実ともに都市の象徴となり、華美にもなります。


 例えば、敷地内に色んな建物が出来るのです。シャールでは尖塔が幾つも並んだ中心の建物の他に、謁見式の建物、その前後の控え室のあった建物、夜会を行った大きなホールがあり、デュランは城というよりも宮殿みたいですが、クリスラさんが私を次代の聖女に推した教会みたいな物が建てられていました。


 王都は文字通り王国の中心ですので、ここのお城はとっても大きいと想像されます。だから、門に一番近いこの建物も王城の中では大したものではないのかもしれません。

 でも、とても荘厳で、入ってすぐの大広間は艶光が眩しいくらいの床と壁、豪奢な照明、数々の彩り豊かな装飾品などが目を奪います。


 遂に私もここまで辿り着いたのかと感慨深さも有りますが、正直、一人だと迷子になりそうです。


 そして、要所で倒れている兵隊や役人さん、ぬぼーと立ちすくむルッカさんの下僕らしき人達が気持ち悪いです。


 急ぎましょう。ここに居ては心が汚くなりそうです。具体的には、あの壺や絵画のお値段いくらだろう、売り払ったらどんなに金貨が貰えるのだろうなんて思っちゃうんです。

 私が魔族みたいに誤解されてしまいます。今でも皆に怪しまれている気がするのに。



 私は奥へと進み、先にルッカさんがいるであろう扉の前へと来ました。たぶん、ここは地下室です。階段を何回か下りましたし、空気もひんやりとしていますから。あと、予想通り道に迷ったので、何ヵ所か壁を破壊したことは秘密です。誰も見ていないのでアシュリンさんの仕業にしましょう。



 そこにはルッカさんの下僕となった兵隊さんが扉の両脇に立っていまして、私をゆっくりと一瞥すると、また顔を戻して誰も来ない階段を見張るのです。魂の無い道具みたいで、ルッカさんって化け物だなぁって改めて思いました。


 この場所は上の華やかな世界とは違って、湿気も強く、良い場所では御座いません。

 何でしょうか……うーん、コリーさんと出会った牢屋を思い出します。もちろん、王城の中ですので、あそこまで寒々とした風景では御座いません。


 ……あと、あいつを思い出しました。アントンです。まだ血迷い事を言っているのでしょうか。

 封印を解いてしまった、目覚めさせてしまった、色んな表現が有りますが、私は物語で読んできた主人公たちと同じ様に、軽々しく取り返しの使ない過ちを犯してしまったのではと考えてしまいます。ごめんなさい、コリーさん。彼は戻らないのかもしれません。変わらず愛してあげて下さい。



 少しだけ重い気持ちのまま、私は扉を開ける。

 まずルッカさんが目に入りました。こいつも私が封印を解いた奴でしたね。



「遅いわよ、巫女さん。扉を開ける前で何を考えていたの。心配したじゃない。って、……ひどく血塗れね? とってもブラッディーで美味しそう」


 あぁ、私がルッカさんの気配を読めるいうことはルッカさんも私の居場所が分かるって事ですものね。


「大丈夫です。少しばかり腕と腹を抉られただけですから、命に別状は御座いません。あと、遅れたのは、私が罪深い人間ではないかと考えていたからです」


「罪? 意味深な言い方をして、どうせクレイジーでくだらない事なんでしょ?」


「クレイジーもくだらないというのも合っていますね」


 ルッカさんの言葉を聞いて、よくよく考えると、アントンの事は、私にはどうでも良いことだったのですね。気持ちを切り替えて、周囲の観察に入りましょう。


 牢屋では無いです。でも、廊下の片側に扉が短い間隔でいっぱい有って、普通の設備でも無さそうです。

 構造を推測するに小部屋が幾つも列なっている感じなのかな。



「クリスラさんは?」


「あっ、そうそう。この扉の向こうなんだけど、私、会ったことがないから挨拶を迷ったのよ」


 ん? そうなんですか? 私は魔力感知で調べましたが、クリスラさんの魔力を拾えませんでした。


「ほら、私、魔族な訳でしょ? 聖女様からすると敵だと勘違いされると、とってもサッドかなって」


 ルッカさんは魔族だけど500年前に聖女をやってるじゃないです。聖女になる為に周りの人に噛み付いて下僕化する外道を働いたと聞きましたけどね。


「バカ言ってないで開けますよ? ルッカさんが退治されたら、それは自業自得ですし」



 私がドアノブを回そうとしたところで、中からクリスラさんの声がしました。


「メリナさんですか? 本当のメリナさんですか?」


 本当のって……。偽物を見たことがないですよ。


「はい。隣に極悪な魔族が一緒ですが、次代の聖女メリナです」


「ちょっと巫女さん。私は今からご挨拶なんだから第一印象が悪くなるじゃない」


 むしろ第一印象が「何者だ、この卑猥な女は?」よりマシでしょう。



 クリスラさんは静かに椅子に座っていました。ただ、奥の壁に向かっての机とは逆に、入口側が見えるように椅子を配置しています。


 殺風景な部屋で、その机と椅子、ベッドの他には何もない部屋です。聖女という決して卑しくない、いえ高貴な地位を持っておられるにしては似つかない場所です。

 その疑問にクリスラさんは先に答えました。


「王城が何者かに襲撃されたということで、この避難所に入りました。まぁ、それは(てい)の良い言い訳で、実際には人質でもあるのですが」


 襲撃側がデュランなら人質に使えるという話ですね。


「で、その魔族がロヴルッカヤーナですね。先にメリナさんと初めてお会いした際に、魔力だけは覚えております」


「話が分かりそうな人が当代の聖女で良かったわ。初めまして、大分前の聖女ロルカでもあったロヴルッカヤーナよ。呼び名はルッカで良いわよ」


 目を閉じたままクリスラさんは軽くお辞儀をしました。


「早速だけど、魔力が弱まっているようだけど、どうしたの? 聖女さん、もっとストロングだったでしょ?」


 そうなんです。クリスラさんの魔力を弱々しいんです。だから、私の未熟な魔力感知ではクリスラさんが判別できまなかったのです。


「……この鍵の効果です」


 クリスラさんは胸元を少し開けてから、鎖で繋がれた物を私達に見せました。

 リンシャルが消失する間際に私にくれた、気持ち悪い眼の意匠が入った金色の鍵です。

 クリスラさんの魔力を弱らせただと? あの野郎、完全服従したかに見せ掛けて、最期の時まで私を誑かそうとしていたのかっ!?


 マイアさんがまだリンシャルは生きていると言っていました。今度こそ完璧に殺してやらないといけませんね。



「巫女さんが聖竜様に言っていた精霊の宝具ね。効果は何かしら」


「……精神魔法からの完全防御。副次的に自らの魔力の隠蔽」


 クリスラさんは静かに答えました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ