表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
358/421

銀髪の男

 庭での乱戦はほぼ終わりました。アシュリンさんが暴れて傾き始めていた戦況が、ルッカさんの魔法で更に加速して制圧したのです。何せ光っていた敵方3人もルッカさんの下僕だったみたいで味方になったのですから。

 王都側の切り札はほぼルッカさんが抑えてしまっているのかもしれません。

 城の見張り台からの魔法攻撃も私達を狙うのを中止して、庭の逃げ惑う兵隊を襲っていましたから。



「アシュリンさん、止まりませんね。ルッカさんの下僕も関係なしに殴ってますよね?」


「もうクレイジーよね。今日は仕方ないと思ってあげるわ」


 まぁ、お優しい。私が潰そうとした時はすぐに飛んできたくせに。



「もう下に行きます? お城の中に入れそうですね」


「そうね。あら、クリスラさんは動かないのね。……えっ!?」


 ルッカさんが驚かれました。


「どうしましたか?」


「とっても強そうな人が来るわよ」


 ん? 私も魔力感知を働かせます。

 ふむぅ、どれか分からぬ。


 じっと見ていると、男の人がルッカさんの下僕を蹴散らしながらアシュリンさんに突撃してきました。無詠唱魔法で炎なんかも出していますね。

 それから、アシュリンさんと向い合っての連打の応酬。

 互角? いえ、少しだけ圧されてますね、アシュリンさんが。


「魔法をぶち込みます」


 私もようやくその人の魔力が把握出来ました。

 確かに魔力の量が半端無いです。今までに感じた人の中で一番多いかもです。私よりも上?

 もしかしてお母さんもあの人くらい有るのかな。



 私が出したのは炎の雲。

 氷の槍だとひょいっと避けられると思ったので広範囲魔法を地上に出しました。


「ちょっと! 私の下僕を殺す気!? マーダーよ、巫女さん、マーダーよ!」


 生ける屍を量産している人が誰を非難しているのですか。ビックリですよ。


「せめて灰と煙にして天に帰らせてあげましょうよ」


「アシュリンさんは手加減して殺さないって信頼感があるのに。あぁぁ」


 無いです。アシュリンさんはそんな気持ちを毛頭持ってないですよ。



 私の魔法は、しかし、男には効かなかった様です。無論、輝くアシュリンさんにも。

 魔力を肌表面に持ってきて耐えたのか。いえ、違いますね。服も燃えていません。覇気にはある程度の魔法防御の能力があるのかもしれません。

 もっと威力のある魔法にすれば良かったです。


 でも、うふふ、楽しみです。安全な所から魔法で仕留めるより殴り倒した方が勝利の喜びが大きいですよね。


「行ってきます」


 私は彼らの戦う場から見えない物陰に転移しました。転移直後に攻撃されない為の配慮です。

 ルッカさんとは別行動です。彼女にはクリスラさんの確認に向かってもらうことにしたのです。



 しかし、男には私の転移がバレてしまっていた様で、転移直後に火の玉が足元に突き刺さりました。警告でしょうか。


「……ふん、病気持ちか……。お前は話にならん、そこで見ておけ。それとも、死にたいか?」


 恐らくは私に向けた言葉です。全く見えないのに生意気です。

 そもそも病気持ち?


 くっ、また腕が疼きました。あの黒いクネクネは暴れん坊ですね。

 ……これか、病気持ちとか言われた理由は……。



 バレてはいますが、私は建物の陰に身を潜め、アシュリンさんの様子を伺います。



「ぐっ!! 変わらず速いなっ!!」


 アシュリンさんが口から血を流しながら叫んでいました。出血は酷くなく、頬を打たれて中を切ったのでしょう。


「久々だったな。たまには顔くらい見せろ」


 アシュリンさんを殴りながら、背の高い男は言います。銀髪でアシュリンさんよりも大柄で強面な外見をしていました。歳はおっさん一歩手前、アシュリンさんよりチョイ上くらいか。

 防具は黒い服の上に要所を保護する皮当てで、動き易さを重視しているようです。シャールの騎士団を率いていたとか戯れ言に近い事を仰っていたヘルマンさんと違い、筋肉を予想させつつも引き締まった体格が、その実力を物語っている気がします。

 でも、帯剣しているのに主要な攻撃が拳なのは不可思議です。殺す気はないってことかな。



「ナウルは元気か?」


 男は振るった拳から炎を出してアシュリンさんを攻撃しました。それをアシュリンさんが素早い動きで躱して、男の横に回り、長い足で首を刈り取る様に蹴りを出します。


 それをいとも簡単に男は片腕でガードしました。私なら体重差で重心がぐらつくのに平然としていますね。

 今の攻防で、またもや魔力が弾けるように衝撃波が城の壁を襲います。流石に王城でして、欠け落ちる事は有りませんでした。



「アシュリンさーん、助けは要りますか?」


 もうバレているので私は語り掛けました。


「要らんっ! そこで待機だっ!」


 強気の言葉ですが、そんな余裕は無いはずです。左右の殴打を後方に下がりながらアシュリンさんは叫びました。



「稽古を付けてやる。感謝しろよ」


 男はそのまま突進します。右からの猛烈な拳をアシュリンさんは外側に体をずらして避け、伸びた男の腕を掴んで背負い投げ。

 男は自ら飛んだのでしょう。綺麗に足を揃えて、アシュリンさんの投げに合わせて回転します。


 男が着地するとアシュリンさんの頭は下を向くことになります。男の膝が先に出る。


 膝を顔面ギリギリでしたが、アシュリンさんは掌で受け、離れます。


「捻りを加えて転がさないといかんな」


「クハハ、骨を折っては明日の仕事に差し支えるだろっ! 私に感謝しろ、パウサニアスっ!」


 銀髪の男はパウサニアスと言うのですね。長いです。呼び難いです。


 大柄な二人が対峙します。まるで、空気が震動するかの様な、その緊張感を楽しんでいるとも感じました。



「で、ナウルは元気なのか?」


「……あぁ。今日は誕生日だ。早く帰ってやりたい」


 ……誰だ、ナウル?


「お前、何でここにいるんだよ。転移か?」


「当たりだっ!」


「もう帰れよ。アイツは俺にとっては宝みたいなものだ。泣かすなよ」


「ふん、私にとってもだっ!」


 えぇ!? アシュリンさんにとっても宝物!? それって恋人ですかっ!?

 ナウルさんが凄く気になります。戦闘を見るどころじゃないです。


 二人はお互いに構えを解かないまま会話を続けます。他の兵はルッカさんの下僕が抑えたので誰も邪魔して来ないのです。


「ったく、どうすんだ、これ? お前、軍に復帰できないぞ」


「除隊した身だっ! 今はシャールで楽しんでいる!」


「元上司として進言してやろうかと思っていたんだがな」


「要らんっ!」


「仕方ねーから、情報局の勇み足による正当防衛って弁護してやるよ。拳を下ろせ」



 アシュリンさんは無視して、蹴りで牽制。当たらずです。これは本人も攻撃のつもりじゃなかったですね。間合いを広げる為かな。

 パウサニアスはまだ口を開きます。


「大獅子の団に来ないか? 俺と働けるぜ」


 その大獅子の団はアデリーナ様から聞いたことが有ります。王都軍の主力部隊の名です。


「パウス! くどい! 私は充実しているっ!」


 アシュリンさんは体を左右に振りながら猛進。対するパウサニアスは見定めているのでしょう、微動だにしません。


 アシュリンさんの選択は中段の横蹴り。物凄い速さです。懐に詰める余裕は男には無いと思いました。

 パウサニアスはそれを肘で防ぎます。当てた部分が脛でしたので、アシュリンさん、相当に痛いですよ。


 構わず続けて、アシュリンさんは蹴り足に力を乗せてから軸足をも浮かして、パウサニアスの体を足で挟みます。更に、宙に浮いた体を反らして、倒立からの足投げ。

 すっげーパワーです……。


 パウサニアスは両腕を固定されて受け身を取れませんでしたが、むくりと立ちます。頭から落ちたのにノーダメージと言うのですか。かなり丈夫な体で、豊富な魔力が体を守ってくれていると感じます。

 二人はまた距離を取って喋ります。



「寂しいことを言うな。ナウルが悲しむから腹にしておいてやるよ」


「私もだっ! お互い惨めな姿は見せられんなっ!」


 二人はニヤリと笑った気がします。それから幾つもの殴打の応酬です。腹狙いと宣言した割に顔面も普通に狙ってます。

 パウサニアスは肉弾戦の中でも無詠唱魔法を使える分、有利なのですが、アシュリンさんも空中を跳ねるような動きで翻弄しようとします。しかし、パウサニアスはその動きに十分に対応していて慣れていると感じました。



 二人が足を止め、何度目かの相対を迎えるのですが、アシュリンさんの息は荒くなっていました。意外です。激しい闘いであったのもありますが、精神的に削られているのかもしれません。


 認めましょう。あのパウサニアスという男は明らかにアシュリンさんより格上。

 二人の打ち合いは稽古の様でした。決まった手に決まった形で返す。しかし、そうは言っても遅かったり筋を違えると、死に至る可能性もあるとも思います。



「安心しろ。情報局に貸しが出来た。倒れても転移ネットワークで今日中にシャールに着けてやる」


「ガハハっ! 勝ったつもりか、パウス! お前も狂犬の躾に手間取るだろうな!」


 パウサニアスは私に気を向けます。


「ふん、そいつか。……ロヴルッカヤーナっていう魔族は。アシュリン、良かったぞ。お前が魅了されていなくてな。俺はお前に失望するところだった」


「クハハ! そいつは只の狂犬だと言ったろ! しかし、私の愛弟子でもあるっ!」


 弟子じゃないし、愛されている感も全く無いのはご愛敬です。

 私は黙って見ています。ナウルさんの事をもっと喋って頂きたく思うのです。


「そいつ、普通よりは強いんだろうさ。しかし、お前ほどでも無い上に、腕に情報局の吸魔を仕込まれているぞ。その程度のガキだ」


 私の事ですよね? あれ? 魔力を奥の方に入れているんですけど見えませんか。

 黒いクネクネに吸われ過ぎたのかな。確認しましたが、大丈夫です。ガランガドーさん一匹分と半分くらいの量を保有していました。アシュリンさんより魔力は多いと思うんだけどなぁ。技量の事を言っているなら、確かに及ばない可能性は有ります。


 二人はまた打ち合いに入りました。双方とも素早い動きで魔力感知も併用しなければ目で追うことが難しかったです。


 そして、最後にアシュリンさんが腹を強く殴られて倒れました。

 さて、先輩の後始末は後輩の仕事ですよね。楽しみです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 仕込まれたんじゃなくて自分から入れたクレイジーなんだよなぁ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ