表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
356/421

気持ち悪いウネウネ

 パン工房の方々は全員救出致しました。シャプラさんもメイドさんに宛がわれた部屋から出て来ておりまして、皆とお話しされていました。

 普段は無口で必要以上の事を喋らないモーリッツでさえ、シャプラさんに労りの言葉を描けています。


 私が工房に入るまで、シャプラさんは虐待されていました。でも、今は違います。皆さんからは友愛を感じます。私の指導のお陰ですし、何よりシャプラさんが皆を許した事が大きいです。

 邪教に足を踏み入れるまでに追い詰められていた彼女ですが、彼女もまた救われるだけでなく救う存在となっていますね。私の指導のお陰です。



 さて、私は最後のお仕事、クリスラさんの安否確認の為に王都へ移動します。


「メリナ、遅いぞっ!」


 いきなりアシュリンさんの大きな声を浴びせられました。

 ヤル気満々です。


 先程のフェリクス救出の時にも思ったのですが、アシュリンさんは頼りになります。そして、ルッカさんも盾でなく眼としては私の役に立つのです。私達3人を止められる方は少ないでしょう。


「力が(みなぎ)ってますね、アシュリンさん」


「あぁ! 今日は調子が良いと感じる!」


 自分で話を振りながらですが、調子に乗るなよとか思ってしまいました。



「巫女さん、この黒いウネウネ、どうするのよ。私、気持ち悪いんだけど」


 ルッカさん、指先で摘まんで、例のクネクネを私の方に突き出しました。


「何も見えんが、そこに何かあるのか!?」


 あれ? アシュリンさんは魔力感知が使えないのかな。くっきりはっきり、ウネウネがあるんですけどねぇ。


「フェリクスの体の奥に居たんですよ。巣食っていた様な感じで、王都の風土病とかいう患者の人にもいました」


「ほう? しかし、見えんな。聞いてみるか」


 私、二度目の言葉にビックリしました。聞き間違いじゃなかったんですね。アシュリンさんは私の転移先を読んでいたのに、魔力感知を使用していなかったのですか!? いや、私も感知に頼らずに勘と経験のみで出現位置を予想した事が有りましたが、それでも驚きですよ。



 さて、アシュリンさんは破壊した建物の瓦礫の中から気絶した人を取り出します。服的には兵隊さんでは有りませんが、制服なので何かのお役人だと思いました。


『我は願い請う。縁えにし深き、青き山。その頂に住まし大いなる雲雀の影と光彩。闇輪の驕傲(きょうごう)に――』


 気絶したその人に魔法を使いまして、意識を戻します。アシュリンさんのくせに魔法詠唱なんて小癪だなんて思ってしまいました。マイアさんに教えてもらったのに、私は出来なかったですし。



「……喋る事はない。殺せ」


 私達に囲まれている事に気付いた男はそう言ったまま、目を瞑りました。

 無駄なことです。


「では、ルッカさん、噛み付きましょう」


 死ぬ覚悟も表明されましたし、お互い合致しましたね。


「えっ! あぁ……あああ!!」


 ルッカさんの牙が首筋に刺さりまして、男の人は苦悶の声を上げながらチュルチュルされています。


「おいっ! それは殺してないだろうな!?」


「はい、大丈夫だと思いますよ」


 確かに悩みどころですが、もう既にルッカさんは美味しく頂いてしまいました。死んでても最早遅しです。ここは一つ、アシュリンさんが生死に拘るなら安心してもらおうと思っての返答でした。だから即答しましたよ。



 ルッカさんの下僕となった男に、この黒いウネウネが何なのか聞きます。

 答えは簡単でした。


 知らないと言うのです。すみません、本当に聞いても無駄でした。せめてルッカさんの下僕と化した今のあなたが生きている状態であることを願います。


 そもそも彼にはこの黒いウネウネが見えていませんでした。

 ただ、上から命じられるままにフェリクスに水を出したところ、フェリクスの体調が急に悪くなった事は認識していました。なので、彼は毒物だと感じたそうです。


 ふむぅ。

 でも、善良な王都の住民の健康を害することに意味はない気がしますね。

 何かの実験かな。でも、ベーター君とかデニスのお母さんとかで試すよりも監禁している犯罪者で試した方が効率的ですし、バレた時の反応も然程(さほど)でもなくなるだと私は考えます。


「良し、行くぞっ!」


 疑問は残ったままですが、アシュリンさんは王城へと向けて体を回転させました。


「ちょっと! これ、どうするのよ?」


 黒いウネウネはまだルッカさんの手に居ます。たまに、大きくうねってなって、ルッカさんに吸い付こうとしている気配さえ有りますよ。


「知らん! 見えん! メリナに任したら良かろう!」


 へいへい。私は素直に黒いウネウネを握り潰して自分の物としました。


「ほんとクレイジー。そんな気持ち悪い魔力を体内によく入れられるわね」


「そうですか? 知らないおっさんの首に口付けするルッカさんの方がキモイです」


「まあ! 吸血鬼のアイデンティティを全否定なの!?」


「いえ、噛む相手を選ばれてはどうでしょうかとの提案です」


「おい! 二人とも時間が惜しい。サッサッと行くぞっ!」


 ったく、ルッカさんのせいでアシュリンさんに怒られました。私は何も悪いことをしていないのに腹立たしいです。



 ん?

 ルッカさんが飛び立ち、アシュリンさんに続いて私も走ろうかと足元を確かめたところで、黒いウネウネがまたもや動いているのが見えました。


 そして、それが倒れて動かなくなったルッカさんの下僕の口から体内へ入っていったのです。


 うわぁ。何、今の?

 寄生虫みたい。嫌なものを見てしまいました。



 バサーと空を翔んでいたはずのルッカさんが戻って来ます。


「巫女さん、言ったよね? 下僕は私の物なんだから、勝手に傷付けたらダメよ。エヌジーなの」


 あぁ、この人の魔力が急減したのを察知して、様子を見に来たのですね。マメな事です。


「私じゃないですよ。黒いウネウネが中に入っていっただけです」


 だから分かります。あのウネウネが原因です。寄生主の魔力を吸い取っています。

 でも、おかしいな。ならば、あの黒いウネウネの魔力が増えないと魔力量の帳尻が合いません。どこかに魔力が転移しているのかな。


「取り出してよ。私、アンガーよ」


「私、良いことを思い付きました。このウネウネをアシュリンさんに入れたら、ルッカさんでも勝てる様になるのではないでしょうか?」


「そんな事しなくても勝てるわよ。さぁ、アーリーよ」


 一撃で伸されたのに何を根拠に強気の発言をされておられるのですか。とは言え、あの苛烈な奇襲が私に向いていたら、私も危なかったですね。



 私は黒いウネウネを取り出して、潰さずに自分の体内に入れました。腕に押し込むと、すんなり入ったのです。

 これ、絶対に戦闘で使えると思うんですよ。相手の魔力を奪う毒的な使い方が良いでしょう。

 早速、私の魔力を吸い始めましたが、適当に魔力を周辺に集めて食わせておけば大人しくしてくれるかな。

 うふふ、ペットみたいです。


「……巫女さん、すっごくクレイジー……」


「そうですか? いざとなれば腕を切断すれば良いですし、そうまでしなくても簡単に指でグネグネすれば取り出せますよ」


「そういう所もおかしいわよね」


「ルッカさんも欲しいですか?」


「何でよ。要らないわよ。もう、いいわ。アシュリンさんを追いましょう」


「いえ、アシュリンさんを呼び戻して下さい。転移で途中まで行きますよ」


 王城は貴族街の先にあります。そして、ここ庶民街から貴族街に行くには、番兵の守る門を通る必要があります。だから、シャルマンの焼き立てパン屋さんの本店に転移で行くのが手っ取り早くて好ましいのです。昼御飯も食べられます。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 寄生虫ペット。オークレイジー。面白かった。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ