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ちょっとだけ懐かしの場所

 懐かしの場所、コッテン村です。もう何ヵ月前になるのでしょうか。

 あの一番大きい家は最初に私が手を付けたのに、皆の集会所みたいになった所です。

 こじんまりとしたあの小屋はアシュリンさんの家で、彼女は屋根に登って修理していましたね。


 草が多少伸びていますが、それなりに刈られてもいます。小川から水を引いて、水路も作ったようですね。


 見える人間はほとんど男の人です。むさいです。でも、たまに女性の兵士さんもいたりします。



「しゅ、主人は!?」


 この店員さん、サリカさんと仰るそうです。妊婦さんなので、私は家から椅子を持ってきまして、彼女に座ってもらっています。


「今、ルッカさんが探しに行きましたよ」


 そうです。

 ルッカさんは肥えた半裸の男の人と共に、森の方へ行ったのです。ほとんど覚えていませんでしたが、あの太った人、一瞬でオロ部長に下半身を喰われた人ですよね。


 ルッカさんが手招くと、彼の目から一気に生気が抜けまして、ぬぼーとした顔で沈黙のまま案内を始めたのです。これが下僕なんですね。

 うわぁ、ルッカさんの魔族っぽいところを久々に見ましたよ。聖竜様にもお見せして、彼女に幻滅してもらうのも有りだと、私は思いました。



「あぁ!? ペルレ!?」


 数人の部下の方と共に現れた夫にサリカさんは抱き付きました。それを柔らかく包み込むカッヘルさん。

 んー、私達に対応していた時と違って、カッヘルさんに人間味を感じました。これが愛なのでしょうか。


「もう死んだと思ってたわ!」


「……連絡できず済まなかったな。お前も元気そうで良かった」


「見て! 子供を授かったの! あなたの子よ!」


「あぁ、聞いている」


 アデリーナ様に脅されている中で、そんな文句もありましたものね。


「サリカ、こんな場所で悪い。結婚しようか」


 してなかったのかよ!?

 周りの兵隊が指笛で囃し立てます。私も真似して指を口にやり息を吹きますが、音はなりませんでした。見よう見真似では難しいのですね。


 サリカさんは黙って頷きます。



 お熱い事で。でも、私は満足です。

 お腹の子供も幸せになることでしょう。とても良いことです。



 サリカさんは村で過ごすことになりました。王都に身内はいないからだそうです。

 うーん、でも、ここには産婆さんがいらっしゃらないのですよ。妊婦さんにはキツいんじゃないかな。



「ラナイ村に家は借りれないのですか?」


 魔族フロンがいた村です。そして、ここから一番近い村です。あそこなら一人くらい出産を手伝ってくれる人がいると思います。


「すまない。我らはあの王族の方から命じられている。ここを離れることは出来ない」


「無視したら良いですよ。大丈夫です。私が保証します」


「……貴様があの王族の方を懐柔できるというから、貴様に教えられた言葉を伝えたら、怒髪天を衝く勢いで矢を射られたんだが」


 有りましたね、そんな事件。うん、焦りましたよ。アデリーナ様は短気過ぎます。



 カッヘルさんの意思は固そうなので、もうお二人にお任せすることにしました。時期が来たら、誰か連れてくれば宜しいですしね。私も産湯を作るくらいは協力致しましょう。



「王都からここまで魔法で転移だと? 化け物しかいないのか、シャールは」


 サリカさんから経緯を聞いたカッヘルさんが吐いた言葉です。私、少しもカチンと来ませんよ。だって、一撃で殺せる弱い人ですから、心に余裕が持てますもの。


「しかし、感謝する。……情報局には気を付けろ。いざとなれば、手段を選ばない連中だ」


「忠告ありがとうございます。あなたも奥さんを大事になさってくださいね」


 カッヘルさんとは単なる知り合い程度ですが、何か結婚祝いを上げたい所ですね。

 うーん、何が良いかな。お腹の中の子供が喜びそうなもの。私の魔力を分けてあげるのも……うーん、それで赤ん坊が獣人となりましたなんてなったら、困るかなぁ。獣人は強くて、良いことな気もしますが。



 無いのであれば、プレゼントを取りに行きましょう。私は走って森の方へ。魔力感知の使える今の私ならば、獣がどの様に隠れようと余裕で見付けてやります。


 二人の門出に相応しいもの、私はそんな獣を探します。

 エルバ部長と食べた犬蜘蛛? んー、美味しいけど、見た目がアレなんですよね。祝福した感じじゃないって言うか、モロにでっかい蜘蛛ですし。


 私が選んだ獣は鹿です。しかも足が8本もあって、モモ肉がお得な感じですよ。石を投げ付けて頭部を一撃で潰しました。倒れたそいつの胸を強く何回も踏んで、頭の取れた首から血抜きも致します。

 

 くぅ、コッテン村に滞在している時にこの能力を使っていれば、食料の手配に大活躍して、私は皆の称賛を受けていた事でしょう。誉められた私は天にも昇る心地だったと思います。



 さて、村に戻った私は、カッヘルさんに足をダランと垂らした鹿を手渡しました。勿論、祝いの言葉もご一緒です。

 黙っているカッヘルさんは感動の余りに無言なのでしょう。口を開くと涙が出るような、そんなご心境かもしれませんね。



「巫女さん、凄いわね。猛獣が優しくなって、傷付いた旅人を助けた話みたいよ」


 何の例えですか。とても分かりにくいです。


「うふふ、(なめ)せば良いコートになると思います。セリカさんに似合うと良いですね」


「どこで、誰が鞣すのよ……」



 さて、ルッカさんは下僕のメンテナンスに行くと言うので私は独りになりました。

 メンテナンスって何をされるのかと思ったら、時間で下僕化の効果が薄まるので、もう一度噛み付かれるらしいです。遠くから下僕とコンタクトを取ったり、様子を知るのに必要な儀式らしいです。

 うん、見たくないですね。



 切り株に座ってボーとしていると後ろからの影が見えました。

 振り向くと、そこにいたのは、半裸のおっさんです。先程ルッカさんをカッヘルさんの所まで案内した人です。油ギッシュで太ったこの方は、酒場でニラさんに絡んだ締め殺しの何とかを彷彿させます。

 彼の目は元に戻っております。むしろ、ギラついていると表現した方が良いくらいに気持ち悪ささえ感じます。


「よぉ。日照りが続いてな、俺ぁ、餓えてんだわ」


 物乞いでしたか。お腹が空いていたのですね。言われれば気付きます。餓えている人特有の眼光でした。


 私は優しいので、足下に生えていた草を与えます。これは少し繊維質ですが、食べられないことはない植物です。

 ブチッと千切って、彼の目の前に持っていきます。



「あ? 何のつもりだ?」


 あん? 言葉遣いを知らないみたいです。

 ルッカさんの下僕の癖に生意気です。先程の亡霊みたいなフラフラした動きを見せなさい。なんなら、常日頃から生気のない目になってみますか?



「よく噛めば食べられますよ。ご安心ください」


「クソが。カッヘルに女が与えられて、俺には無いなんて不公平だろうが」


 …………まぁ、続き次第でしょう。


「……で?」


「お前が俺の女にな――」


 死ね。

 私は魔法で出した炎の玉を彼の剥き出しの胸と腹にぶつける。


 よく燃えます。


 ルッカさんには従順だっただけに、怒りが倍増ですね。私を舐めすぎです。



「み、巫女さん! それ、私の!」


 ルッカさんが飛んできました。文字通り、空からやって来たのです。


「私の下僕に手を出すなんて、酷いわよ」



 ふん。

 私は回復魔法で男を治癒してやります。元より殺す気はありませんでした。死んでも良いかな程度ですよ。

 男はそれなりに強かったのでしょう。炭にはならずに耐えきった様です。


 しかし、弱い。

 私は欲求不満かもしれません。血肉が飛び散る様な、激しい戦闘もたまにはしたいのです。

 最後にしたのは聖女決定戦でのクリスラさんとの戦いか……。



「躾はちゃんとお願いします」


「分かったわよ。アイシーよ。この下僕には男を好きになるように命じておくね」


 ……より酷い未来が見えました。予知ではなく確定的事項です。

 カッヘルさん達のお尻が危ないです。


「ダメです。アデリーナ草を愛でる様に命じてください」


 そうです。植物を大事にする人は皆、善良な人です。彼も心が洗われるでしょう。


「うんうん、だから、巫女さん。私の物を壊しちゃダメだからね。私、サプライズドよ。いきなり、下僕が壊れる感覚がしたから来て正解だったわ」


 ……ルッカさん、やっぱり魔族ですよねぇ。人間を物扱いなのは、私、良くないと思いますよ。

 魔物駆除殲滅部にいるのがおかしいと感じます。こいつが魔物です。



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