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叡知の一端

 落ち着いたボーボーの人を連れてデュランに転移した後に、私も再びマイアさんの下へ向かいました。

 ボーボーの人に暗部の場所を訊きたかった件はもう良いのです。彼は知らないと言いましたし。それよりも大切な事をマイアさんに確認しないといけません。



「あら、メリナさん。忘れ物ですか?」


「いえ、ミーナちゃんにどんな魔法を掛けたのか、私も勉強したく戻って参りました」


「えぇ、私からもお伝えしようと思っていました。しかし、本質を理解して頂きたいので、まずは魔力と精霊、獣人の関係について説明致します」


 さすがマイアさん! 私の気持ちを汲み取ってくれます! アシュリンさんも見習うべきですよ。



 しかし、マイアさんの説明は長くて理解できない部分も多かったのです。


 獣人とは体の一部が人間ではない動物に変化した人の事を言います。よく見るタイプだと、耳とか尻尾とか体毛とかが獣になっていますね。

 これは、魔力が体の中で片寄り、且つ、強まり、顕在化することで起こります。

 普通の人間は体内の魔力というものが血液と同じ様に体を循環しているのですが、獣人はその魔力とは異質な魔力が、体のどこかの部位で留まるのです。


 魔力の源は魔素と呼ばれる何かでして、例えば道端に転がっている石にも色んな種類があるのと同様に、幾種もの魔素が存在するそうです。

 もしかしたら、私が魔力感知をした時の色合いの違いはそれに起因しているのかもしれません。


 さて、魔法は精霊の助力で発動します。これはアシュリンさんが出会った頃に教えてくれましたね。

 目に見えない精霊さん達ですが、マイアさん曰く、すぐ近く、でも凄く遠くにいるとの事です。

 近くて遠いって、私と聖竜様の関係みたい。距離的には遠いけど、心は近いみたいな。うふふ、詩的な感じです。



 しかし、マイアさんは上位空間軸からの干渉って言いました。全然ロマンチックじゃないです。メリナ、この辺りから頭がこんがらがって来ました。


 全然分からない表情をしていますと、「紙に描かれた二次元世界の住人には、第三軸方向から覗く人が見えないの。私達も同じ」って、余計に分からないことを仰います。頭が賢過ぎて、おかしくなってるんだと思います。


 きょとんとしていると、マイアさんは補足してくれました。


「紙に書かれた円であれば、その中も外も私達は見えるわよね? 次に、ボールの様に閉じた球の内部は、その球を割ったり、中に入ったりしないと私達には確認できないね? でもね、上位空間軸からの視点だと、球の内外を同時に移動せずに見えるのです。同じ様に、四軸空間にいた場合、超立体の内部を見ることは出来ません。しかし、五軸空間に飛ぶと、超立体の中も確認できるのです」


 はぁ……。超立体? 精霊さんのお話だと思っていたのですが。

 これ、関係ない話に飛びましたかね。


 ただ、一つだけ明確に分かったことがあります。

 それは私の脳ミソが理解しようと働く様子が全くない事です。なるべく早く次の話題に言って貰いたいと希望しています。

 

 私は首を動かすだけの人形と化します。次に記憶を戻した時もマイアさんの話は続いていました。



「魔力の素になる魔素は、上位空間からやって来ます。魔法によって水や雷や炎が空間に突如出現するのは、それが理由です。我々には認識できない軸方向から挿入されるのです。次に、精霊とは何かと言うことですが、これについてははっきり分かりません。物質を構成する粒子とは別の粒子、つまり、魔素で構成された生物なのではないか、というのが私の仮説です。精霊は人の住む空間への近さで何種類か区別できます。遠くから説明しますと、高位空間から魔法行使するだけの精霊、四軸空間程度まで降りてきて人とコンタクトの取れる精霊、私達の存在する三軸空間に降り立った精霊の3つに分けるのが簡単でしょう。更に――」


 いや、単純にミーナちゃんの腕を治した方法を教えて頂ければ良いのですよね……。

 私がこう思っている間もマイアさんは止まりませんでした。

 断片しか頭に入って来ませんし、入って来た物もそのまま素通りで抜け出ていきますね。


 私、得意です。人の発言を聞き流すのが。

 こういった時は他事を考えれば良いのです。例えば、パンですね。

 王都では皆さん、ちゃんともちもちパンの研究をしているかな。もう少しで完成だと思うんですよね。

 そのパンがデュランでもバカ売れすれば良いんだけど。デュランの料理は油っぽいので、それに合った料理が必要かな。



「――魔法行使で溢れた魔力などは、自然と魔素にまで分解されて上位空間にやがて戻って行きます。しかし、大量の魔力が一度に出てきた場合、魔素は戻りきる前に同種で凝集して残存しやすくなります。その残留魔素に未発達な卵が触れると、獣人化を起こします。つまり、魔力の多い土地では残る魔素が多くなり、獣人や魔獣の発生が大きくなるのです。しかし、一部地域では地の魔力の発生が多いのに、獣人化しにくい場所があります。それは魔素の種類にも寄りますが、凝集性を支配する要因が別途――」


 油に適したパン。どんなのが良いのかな。

 シチューにパンを付けると絶品になるんですよね。油を浸しても美味しいに違い有りません。神殿でもパンに油を掛けて食べている人を見ましたし。でも、ベトベトして手が汚れるから、油をたくさん吸うパンなんてどうかな。


「――先程も申しましたが、魔素と獣人の関係は深いです。魔力の源となる魔素ですが、これは生み出す精霊によって異なってきますし、体質によって、どの魔素を取り込みやすいかも変化します。この魔素との相性は同じ卵子から生まれた双子であっても違ってきます。物質的な体質は同じなのに魔力的には異なるということは、もしかしたら魂が実在するのかもしれま――」


 まだ続いていました。また意識を飛ばしましょう。


 あっ!? いえ、私、大発明がふと頭に浮かんだかもしれません!

 デュランの料理は油で食品を煮たものが多いです。ならば、パンを油で煮たらどうなるのでしょうか!? 私、そんな料理は見たこと有りませんよ! 是非、パン工房の方々に挑戦して貰いましょう。


「――リンシャルがそうだった様に、大量の魔素が集まり、長年に掛けて熟成されて、三軸空間に生まれ出るケースも稀に有ります。しかし、それは限定的で、限られた魔力空間だけでの話で、彼らを投射するには、この世界の魔力では薄過ぎるのだと考えていました。しかし、メリナさんが浄火の間でリンシャルの顕現を見せてくれました。あれは更なる考察が必要ですが、魔素の量だけでなく、魔素が持つ物理量を極端に消失させる事も必要なのでしょう。そして、恐らく現世の魔素は微細領域で混合されていて、それらを純化する必要があるのでしょう。物質を形成する粒子、私は原子と呼びますが、二種の金属原子を極めて均一に混合すると、バルクの電子状態が変化し、その二種が持つ陽子数の平均値となる別種の金属と同じ様に振る舞う現象が見られます。これは粒子表面での電子移動反応で顕著に現れます。同じ様に、これは仮定ですが、魔素の一つである熱素を例に取れば――」


 マジうざい。後悔しまくりです。私の中ではパンの話も終わってるんですよ。

 この人、エルバ部長以上の理屈屋でした。


 ふあ~ぁ。

 思わず、欠伸が出ましたよ。



「……興味御座いません?」


「師匠の尻の穴に毛が生えているのかの方が、まだ気になるくらいです。全く知りたく有りませんが」


「それは……よっぽどですね」


 マイアさんは少し苦笑いをされました。夫とはいえ、尻の穴ですからね。汚いものを思い出したのでしょう。



「浅い智に留まってしまいますが、獣人は精霊の一部を体に宿した者と見なして良いです。そして、溜め込んだ魔素が大きいほど、体の広い部分が変質します。その見た目の変化を避けるには、別の精霊の魔力を入れてやると良いのです。互いに喧嘩をして止まる訳ですね」


 お前、それを最初に言いなさい。


 私はそれでピンと来ましたよ。獣人の人は、人間ともう一種類の動物の部位でしか構成されていません。例えば、ニラさんなら犬、オロ部長なら蛇みたいに動物は一種類だけです。

 ミーナちゃんの場合は蟹ですが、そこに違う動物の形をした精霊さんを入れたら良いのですね。うーん、簡単です。高位空間とか、いったい何の関係があったのでしょう。

 全く興味が無いので訊きません。絶対にです。また難解で退屈な話をされてしまうと思うのです。



「ミーナは筋が良いですね。私の術では完全に別精霊の魔力を腕に固定化出来なかったのですが、逆にそれを利用して、彼女はご自分の意思で私の与えた魔力を動かし、自在に腕の形を変えることに成功しています」


 おぉ、ならば、戦闘に入れば、蟹の腕モードへ、将来、恋人と愛を語らう時は人間の腕モードと使い分けることが出来るのですね。

 凄いなぁ、ミーナちゃん。マイアさんの下へ連れて来て大正解でしたよ。


「その秘術、私に教えて頂けませんか? さっきのボーボーの人みたいに記憶や知識を私に下さい」


「メリナさん、他人の記憶を受け取るとですね、その記憶に引っ張られて行動様式を変質することがあります。あなたがあなたで無くなる可能性に耐えきれますか?」


 ……意味不明な事ばかり仰いますが、何となく嫌ですね。うん、嫌です。汚染されるイメージなのかな。

 私は私。誰のものでもないのです。



「残念です」


「それに、これは魔法行使する精霊の力を植え付けているんですよ。自分の精霊と語り、納得して移動してもらう。そんな過程を踏む術式なので、私にはミーナ一人しか救えませんし、同様にメリナさんであっても救える獣人の数には制限があります」


 そうですか……。

 ん? マイアさんの精霊って、リンシャル?


「あいつ、まだ存在していたのか!?」


 思わず声が出てしまいました。


「そう怖い顔をしないで、メリナさん。あなたがリンシャルの暴走を止めたでしょう? 彼は善良な精霊――と言うのもおかしいですね、私の願いに助力する存在に戻っているのですよ。ほら、ルッカを打ち倒すのに、私が魔法を使っていたのを覚えていない?」


 ぐむむ、リンシャル……。しかし、子狐さんになったリンシャルちゃんなら許してやりますか……。


「もう私にはリンシャル系の魔法は使えません。ミーナに引き渡したのですからね。後悔はしていませんよ」


 ふむぅ、私の精霊さんはガランガドーさんが確定で、聖竜様であることも確実視されています。ガランガドーさんは私の体となる予定なので大切ですし、聖竜様を手放すなんて死んでも嫌です。

 なので、私には獣人の見た目を変えることは不可能と知りました。


 それにしても、聖竜様も精霊だったのか。今まで魔法にご協力頂いていたのに、そうである事に気付いていませんでしたけどね。


 では、次の話に移りましょう。

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[一言] パンを油で煮る…?それは新しい気がする 肉食べたあと、プレートをパンで拭いて食べるのは きっと庶民レベルでやってるはず 油で煮るまでいくとアヒージョに付けるとか そういうのを通り越している…
[良い点] あげぱんおいしいよ [気になる点] わからんの巻 [一言] つまり2人の獣人を用意して 獣人Aの精霊の魔力を獣人Bに移せば 獣人Aは魔力がなくなったことで人間に戻って 獣人Bは2種の精霊の…
[一言] つまり獣人とは揚げパン…? おいしそうです
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