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お手紙

 どうにかして手紙を渡さないと、マリールに悪いわ。お使いもできない無能って思われるのは癪じゃないけど、なんか嫌。



「マリール・ゾビアスです。こちらのお店のお嬢さんとお聴きしております」


「その様な女性はこの店で働いておりません」


 いや、違うでしょ。従業員の事ではないのよ。ちゃんと姓を言ったんだから、この商店の偉い人の娘さんって分かるでしょうに。



「竜神殿で一緒の部屋になったものです。本人がゾビアス家の娘だと言っておりました」


「おりません」



 ……おられないの?


 じゃあ、あのマリールは何なのよ。

 考えられる可能性は虚言癖のある娘だったか、店が違うか、くらいだよね。でも眼鏡の副神殿長がマリールを知っていたんだから、彼女は間違いなく、どこか大きな店のお嬢さんだわ。だから、マリールは嘘を言ってない。この店員さんが知らないか勘違いしている可能性の方が高いかな。



「……この手紙、どうしましょう?」


「少し見せてもらいましょうか」


 戸惑う私から店員さんは封の入った手紙を受け取る。

 ちらっと封の刻印を見た時に、一瞬、彼の口元が弛んだのを見逃さない。笑みを隠した?

 でも、悪い感じはしない。何だろう。でも、マリールの事を知ってたでしょ、その反応。渡されたくない事情があるかもしれないから、私もこれ以上突っ込まないけど。


「やはり心当たりは御座いません。ゾビアスの商店は市内にも多く支店が御座いますので、他の店の方かもしれませんね」


 手紙は私に返された。



「ご友人ですか? そのマリールとおっしゃられる方は」


「そうです。まだ会って日もないですが、仲良くしています」


 初日の彼女は喧嘩腰だったけど。


「そうですか。これからも大切にしてあげて下さい」


 優しい言葉を掛けてくれたけど、客にもならなかった私への慰みかしら。

 それにしても、この手紙をどうしよう。



 そうだ。

 アシュリンさんとお話ししていた店長さんにお渡ししよう。店員さんは知らないと言っても、偉い人ならマリールの存在がすぐに分かるかもね。いえ、知らない方が不自然よ。



 部屋に戻って、店長さんに手紙を渡すと話は早かった。良かった。やっぱりマリールはここの娘さんだったようね。さっきの店員さんは何のつもりよ。


 店長さんに何か希望の服はないかと訊かれた。在庫品をプレゼントするということだが、「お金がないので」と断った。あの寝間着は神殿のお給金を貯めて、ちゃんと買おう。いくらマリールのコネがあるとはいえ、金貨で買わないといけないような物に対して無理を言っちゃダメだよね。

 服って高いな。マリールのお店が特別高いのかしら。



 店を出たので、私はアシュリンさんを肩車しようと中腰になる。それを見詰めるアシュリンさん。


「何をしている、メリナ」


「見ての通りです。さぁ、乗ってください。ずっしり乗ってください」


「……帰りは無しだ」


 くくく、アシュリンさんでも恥ずかしがるのね。一般常識を持たれていて良かったわ。だったら最初から別メニューにしなさいよ。



 アシュリンさんに連れられて帰路に着く。

 肩車で通った道とは違うな。こっちの方が人通りが多い。

 そうか、そうか。やはりアシュリンさんでも人目に出来るだけ付きたくなかったのね。



「最初は新鮮だったが、あそこまで目立つとは思っていなかったぞ」


 えぇ、もう一つの提案だった、逆立ちで行進もそうだったでしょうね。


「アシュリンさん、羞恥心への耐性に関しては私の勝ちですね」


「あぁ? それは勝たない方が勝ちだろ」


 ぐっ。その通りね。

 負けるが勝ち、なんて本当にあるのね。



「何にしろ、ご苦労であった」


「お付き合いありがとうございました」


 アシュリンさんをからかいたい気分もあったけど、お礼を言っておかないとね。これからも仲良くしていきたいもの。



「ちょっと待っていろ」


 色んなお店が立ち並ぶ通りでアシュリンさんに言われて、私は素直に街頭で待機する。アシュリンさんは人波に隠れてどこに行ったかは分からないわ。


 これ、アシュリンさんに会えなくなったら

迷子になるわね。聖竜様の神殿なら、街の人なら誰でも知っているだろうから、最悪、独りでも帰れるか。


 あっ、あの服屋さん、かわいいな。


 私は斜め向かいにあった服屋の軒先に移動する。んー、値段が書いてない。

 でも、さっきのマリールの店のより、生地も縫製も悪い気がするわ。端っこなんか解れているのが明らかだし、袖口が黒いシミで汚れているし。お古だろうな。


 店の奥から店員さんがやって来るのが見えて、私は元の場所に戻った。

 値段くらい聞けば良かったかな。でも、私のお金で足りるのかしら。お金って無いとこんなに不安になるんだ。知らなかった。



 待ち続けていると、アシュリンさんが小箱を抱えて戻ってきた。


「メリナ、お前の靴だ。履いてみろ」


 おぉ、何と言う。素晴らしいです、アシュリン様っ!

 私は嬉々として小箱を開ける。


 うん、黒い革ブーツだ。

 手にしたら軽いし、なのに、丈夫そう!

 若干、武骨に見えるかもしれないけど、そこはいいよ。余裕で許容範囲だよ。紐の部分も艶があるから革製なのかな。

 カッコいい系の女性が履いていそうな、そんな逸品だ。ありがとう、アシュリン!

 アシュリンさんの靴と似ている感じもするけど、それも、まぁ、いいわよ。


 


「その靴では動き辛いだろ。私からの巫女祝いだ」


 くぅ、感謝よ。

 私はアシュリンさんの両手を握ってお礼を言った。


「帰って食事が終わったら、また走り込みな」


 うんうん、了解。

 あと、畑を踏み荒らさないようにアシュリンさんへ伝えないとね。他部署から苦情が来てたよ。

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