強襲
私は巫女長様と状況確認を少し離れた道の上で行います。
先程、声を掛けた兵隊さんがずっとこっちを見てくるのが恥ずかしいです。ビーチャを心配している、か弱い女性達を哀れに感じての行動と信じていますよ。
「メリナさん、小麦粉を頂けないのですか?」
「いえ、店長は好きなだけ取って良いと仰っていました」
「あらあら、そうですか。でも、条件とかもあったのではないでしょうか?」
「はい。えーと、力尽くで奪えだったかな」
「まあ、それって…………まぁ、アレですね。私達の得意分野!」
そうですよね。巫女長は兎も角、私は苦手じゃないです。
状況確認は作戦会議に変わりました。傍にあった露店で買った、果汁を二人で飲みながらです。
あっ、美味しいです! ひんやりしてますね。やっぱり王都は魔法の使用が禁止されていないのではと思いました。そうじゃなきゃ困ります。私、バンバン使ってますもの。
さて、作戦は囮の利用に決まりました。ただし、魔法攻撃は禁止です。死人が出る恐れがあるからです。殺し合いではないので、当然ですね。
巫女長が正面から近付き、兵隊さんに再度絡んで注意を惹き付けてから、私は屋根に転移して、そこから侵入する計画です。
中に入ってしまえば、こっちの物です。小麦粉とともに私は転移を繰り返して、どこかに小麦粉を持ち去ります。それを繰り返して、全部頂くのです。
完璧です!
しかし、いざ実行という段階で私達は気付くのです。ビーチャの救出を忘れている事に。
「どうしますか?」
「聖竜様の加護を祈るのよ」
了解です! ビーチャよ、自力で頑張れ!
……私は更に気付きます。
ビーチャはパンを持ったままです! 一大事ですよ!!
「巫女長、パンが奪われています! 私のパンがっ!」
「あら、必ず救わないといけませんね」
「はい!」
改めて、私と巫女長は動き出します。
先ずは巫女長がゆったりと、こっちを見ていた兵隊さんに近付いていきます。杖は持っていないものの、少しだけ背を丸くしての足運びは純朴なお年寄りに見えました。でも、その人、躊躇なく魔法で人を真っ二つにする危険な人物です。
巫女長は兵隊さんに話し掛けます。でも、今度は取り合ってくれません。無言で凄く巫女長を睨み付けています。
もう。お年寄りにはもっと優しさを見せて欲しいですよ。
えっ!?
兵隊さん、腕を振り上げました! 拳を振るうつもりですか!?
この距離は流石に私の足でも間に合わない。転移で……いえ、囮作戦の実行中です。
すみません、巫女長、私は心を鬼にして、救出作戦を、パンを優先させて頂きます。
巫女長が殴られて、殴り返す光景が見えたところで、私は屋根に移りました。
巫女長、やっぱり武闘派です。柔和な態度に騙されたら殺されますね。兵隊さん、頬をアッパー気味に殴られて、道側にすっ飛んでいましたよ。
下は大騒ぎです。巫女長は見事に囮役を果たしてくれています。
しかし、戦略的撤退の意味がほぼ無くなった気がします。街の人には被害が有りませんようにと、私は聖竜様にお祈り致しました。……うん、お祈りって何か巫女っぽくて良いですね。
「敵襲! グレンがヤられた!」
「抜刀! 魔法使いも呼んでこい! 敵はフルアーマーに身を包んでいる――グハッ!!」
巫女長、あの鎧に身を包んでるんだ……。一瞬で装着できるから、便利なんですよね。
剣をモロに受けている金属音がします。でも、その後は決まって鈍い音も続くんです。
「ダメだ! 剣撃中止っ! 隊列を組んで槍衾だ!」
「救援要請! 外回り兵五名が倒れています! 応援をお願いします!」
見事な囮役です。頼もしい。
魔力感知で兵隊さんっぽいのが一斉に動き出しているのが分かりますよ。
倉庫の中のほとんどの人間が表に出た様な気がします。
パンの位置を確認するためにビーチャも探ります。
直ぐに分かりました。倉庫の奥の方ですね。
私は悠々と木板で作られた屋根を歩いてそちらへと進みます。ギシギシと音がしますが、巫女長側の騒ぎで、この程度ならバレないでしょう。
私は難なくビーチャのいる場所の上に到達しました。
遠くからは兵隊さんの叫び声が聞こえます。
「と、止まりません! 岩を打つみたいに槍が通りません!」
「や、槍が叩き折られます! 弓の使用許可を!」
巫女長さま、大活躍です。私も見習わなければと、強く思いました。
うしっ!
私は気合いを入れ直して、屋根に降り下ろしの正拳突きです。息を思っきり吸って止める。
それから、
「ウッラァッ!!」
アシュリンさんと石の粉砕競争をした時の経験が活きますね。アシュリンさんが見せてくれた様に、魔力を込めて、拳だけでなく衝撃波で破壊するのです。
そうすることで、私が通れるだけの大きな穴を作り出しました。
先に魔力感知、それから穴から顔を出して視認です。
うん、倉庫ですからね。屋根裏とか御座いません。ビーチャが机の前に座らされているのが見えました。その机の上には私が破壊した屋根の屑が散らばっています。
あっ、早速、ビーチャは爪とか剥がされているのかな。机に置いた指先が赤く染まっています。
相手の数は三人。これは、魔力感知で把握済みで、再確認しました。
大切なのはパン。どこにあるのかな?
んー、見えないです。
私は穴に飛び込み、空中でクルクル回転しながらシュタッと机の上に着地します。もちろん、ビーチャの指は踏まないようにです。
回転したのはカッコ良さを出す為でして、云わば、見捨てたビーチャへの償いとも言えるサービスです。私の華麗さ、堪能して頂けましたか?
「な、何だ!?」
「パン工房の者です。パンを頂きに参りました」
ん? あれ?
パンはどこでしょうか?
「ビーチャ、パンはどこですか?」
私は回復魔法を掛けつつ尋ねます。
「メ――ボスっ! 助けに来てくれたのですか!?」
「いや、だからパンですよ?」
「持物は検査に……」
奪取されているのか。何て非道な!
「貴様、何者だ!?」
二度目ですよ? 全く……覚えていなさい。
「パン工房の者です! パンを寄越しなさい!」
「ボス! ……小麦粉です……」
えっ? ……あぁ。
レビューを頂きまして、大変にありがとうございます。
前話を投稿後に気付いて、そちらのあとがきに遅れて追記させて頂いたのですが、レビューして頂いた方が読んだ後の追記になっていないか心配ですので、改めてお礼を記しました。




