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倉庫

 小柄なお婆さんは、やはり巫女長でした。いつもの豪華な黒い巫女服ではなくて、街でよく見掛ける茶色系のおばあさん服です。

 人混みの中に入ってしまえば、どこにいるのか分からなくなる、そんな特色のない服装です。


「奇遇ですね! お久しぶりです!」


「あらあら、パン屋さんになりたいって言っておられましたが、念願が叶った様ですね」


「はい! 頑張ってます!」


「シャールでね、ここの肉包みパンが美味しいって評判だったので、買いに来たのよ。ほんと仕事が忙しくてね、嫌になっちゃう。やっと暇が取れたのよ」


 そっか、巫女長は先の内戦みたいな騒ぎの後始末で王都に来られていたのですね。そんなのをチラッとエルバ部長が言っていたのを思い出しました。


 私は肉包みパンを一つ手渡しました。巫女長は快く受け取ってくれて、パンが消えました。……消えた?


「まぁ、有り難うね。後で頂きますね。あっ、今のは収納魔法なの。食料はまず保存って、冒険者時代の癖よ。卑しくて嫌よねぇ」


 そんな事無いです!

 私もそんな便利な魔法が欲しいですよ。ここ数日は忙しくてシャールにも帰っていなくて、夜ご飯は鼠とかイボガエルとかなんですもの。いつでも食べ物が出てくるって本当に羨ましいです。

 小骨が多いけど、鼠も蛙も美味しいんですけどね。


 私と巫女長さまとで仲良く会話をしておりますと、ビーチャが小声で尋ねてきます。


「どなたですか? スッゲー馴れ馴れしいババアですが、ぶん殴って追い払いましょうか? 冒険者って事は貴族様ではないようですし」


 おい、お前の身の心配をしなさい。

 この方は私の心の友、聖竜様の神殿の巫女長様ですよ。

 コッテン村では何人もの襲撃者の体を真っ二つにした人ですよ。


 あっ、コッテン村で思い出しました、あの兵隊さんたちはお元気でしょうか。一度見に行ってあげても宜しいですね。


 ほんと、私、忙しいです。お仕事、頑張ってます。仕事じゃない気もしますけど。


「ビーチャ、この方は私の尊敬する方です。二度とそんな口を開いてはいけませんよ」


「はい! 失礼しました」


 素直で宜しいです。私は褒美に金貨を与える。



「巫女長さま、私は今から小麦粉を取りに行かないと行けません。またお会いしましょう」


「まあまあ、水臭い事は言いっこ無しですよ。私達、竜友じゃないの。ドラゴン大好きっ子同士でしょう。私はおばあちゃんだから子じゃおかしいかしら」


「そんな、滅相も御座いませんよ。では、ご一緒に」


 パットさんはまだお話中みたいで、なかなか出て来ませんね。仕方ありません。

 倉庫に向かわせて頂きましょう!



 倉庫はお店の後ろとは聞いていましたが、かなり歩きます。売店の同じ敷地内の裏がパン工房になっているみたいで、それっぽい煙突付きの建家がありました。香ばしくてお腹を刺激する匂いも漂っております。


 その更に後ろに通りを挟んで、聞いていた倉庫らしき建物がありました。パンを売っていた店舗とは比べる程もないくらい大きいです。

 貴族街に入る時に上空から見えたのですが、この王都の貴族街は綺麗な格子状に区画が整理されていました。

 この大きな倉庫はその一区画を全部使っているのではと思うくらいに巨大ですよ。


 それに、馬車が荷を積んだまま中に入るためでしょう。どでかい両開きの木扉が付けられていました。シャールが王都に攻められた時に王様を止める為に説得へ行った事がありますが、あの時に見た王国の旗印みたいなマークも入っています。


 あと、何故か制服を着た兵隊さんがうろちょろしています。まるで厳重に警備しているようです。



「……メリナ様、これ、ヤバイ臭いを感じますよ、俺……」


 まさか。ビーチャは心配性ですね。店長から無礼講の許可を貰っているので、何をしても大丈夫です。楽しむべきですよ。


「うちのパン屋、凄いですね! 軍まで掌握しているのですか!?」


「あらあら、本当に凄いパン屋さんね。メリナさん、行きましょうね」



 私は歩き回る兵隊さんを呼び止めます。


「何だ? 任務中である。邪魔をするなら排除せざるを得ない」


「すみません。店長から小麦粉を頂けると聞きまして。中に入りますね」


 私は人用の普通の大きさの扉を開けようとしました。


「……待て。動くな」


 それから、兵隊さんは指笛で大きく高い音を鳴らします。ゾロゾロと兵隊さんが走って来ます。

 そして、私達は囲まれます。


「どうした?」


「怪しい者を見付けました。中の小麦粉を寄越せと言って来ました」


 この中で一番偉いと思われる兵隊さんが私達を一瞥しました。


「悪戯だろう。しかし、念のためだ。そこの男は取り調べだ」



 さようなら。

 ビーチャは連行されて行きました。



「叩き斬られたくなかったら、去れ!」


 私達にも脅しが入ります。冷たい言い様で、私の気分が害されてしまいそうです。


 しかし、我々の選択は戦略的撤退でした。

 倉庫の前で大暴れして騒ぎになると、小麦粉を得られなくなる可能性があります。

 それに、パン屋とは関係のない一般の方も歩いておられますして、流れ矢の様に、私が殴り飛ばした兵隊さんと激突されたら気の毒ですからね。



 ビーチャよ、すぐに迎えに行きますから安心してください。だから、情けない声で助けを求めるんじゃない。


 でも、店長は守り番に伝言をすると言っていたはずなんですよね。これじゃ、話が違います。

 あっ、そっか。パットさんとの話が長引いて、まだ伝わってなかったのですね。

 うーん、でも、そんなに待てないです。この後に、私はデュランにパンを売りに行かないといけないのですから。


素敵なレビュー、ありがとうございましたっ!

大変に嬉しいです!


「し、仕事してたもん! 洗濯とか埃叩きとかしてたもん!」って、レビューの人が夢の世界でメリナさんに殴り殺されないか心配です(笑)

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