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寮の部屋での語らい

 マリールの案内で薬師処の水浴び場に向かいまして、スッキリしました。一応、念のために脇の下とか匂ってみます。大丈夫です! 石鹸の香りしかしません!


 シャプラさんと一緒に入ったのですが、彼女の体には打撲傷が背中を中心に有りました。痩身なのも相まって、思わず、美しいはずの裸身に悲哀を感じてしまいました。

 ……これ、あのパン工房の連中の仕業だとすると、天誅ものですよ。女性の体に何て事をしてくれているのでしょうか。


 マリールが差し出したタオルで顔を拭きながら、私は腹が煮えくり返る思いでした。

 とりあえず、回復魔法で傷を消して差し上げます。


「……なんて回復魔法なのよ……。無詠唱でこれって、薬なんて要らないじゃない……」


 薬師処にお勤めのマリールの呟きが聞こえました。でも、薬には薬の役割があるんですよ。


「大丈夫です。ほら、薬師処のケイトさんなんかが得意にする薬は、私の魔法では苦手ですよ」


「……それって、毒薬じゃないの!? そういうの薬って認めないわよ」


「そうなのですか?」


「当たり前じゃないの! それにしてもケイトさんとも知り合いだったのね。驚きだわ」


「一緒に葡萄を取りに行きました」


「何でよ! あの人なら、葡萄から猛毒を取り出せるって言うの!?」


 そう言えば、ケイトさんが論文を書いていたアデリーナ草の件、どうなったかな。あの気持ち悪い草、ちゃんとアデリーナ様の名前に(ちな)む命名がなされていたらよろしいのですが。



 さて、私達は部屋に戻って来ました。本当は食堂に行きたかったのですが、アイツが背後から這い寄ってくる気配がしたのです。


 シェラも礼拝部のお仕事が終わっていたそうで、既に部屋で寝巻き姿でした。はち切れんばかりの胸の部分が相変わらずで御座いますね。


 夕飯は二人が食堂から取ってきてくれました。好きなだけ料理を皿に盛れるシステムで良かったです。

 二人とも私の好みを覚えていてくれたようで、お皿には肉料理がいっぱいです。シャプラさんのはバランス良しなのに、一方の私のはほぼ茶色なのです。ありがとうございます。



 ルッカさんのベッドに俯いた状態で腰掛けていたシャプラさんが(おもむろ)に立ち上がりました。

 視線は床のままです。そこから、丁寧に指先を整え、膝を静かに流れる様に曲げて行きます。これは、アレが出ますね。


「……何でもしますから、叩かないで下さい……」


 またもや見事なシャプラさんの土下座でした。一日に二回も見れるとは本当にラッキーですね。


 シェラもマリールも沈黙しました。見事な技術ですからね。土下座に関しては、この私も負けるかもしれません。


「ちょ、メリナ……」


「どうしましたか?」


「え? ……あなた、疑問に思わないの?」


 シェラがシャプラさんを起こしている間にマリールが訊いてきます。


「完璧な土下座ですよね。凄いです!」


「うわぁ。聞いた、シェラ? 聖衣の巫女様は頭のネジが外れてるわよ」


 …………マリール程じゃないもの。私の方が常識人です。


「メリナ! ダメですよ。人には優しくしないといけません。さぁ、シャプラさん、お食事にしましょう。話はその後です」


 怒られた……。

 私が何をしたと言うのですか。

 シャプラさんは自分から土下座をされているのですよ。云わば、それを武器にされているのです。ならば、その武器を褒め称えるべきだと私は考えていたのですが……。シェラのおっぱいと似たような物です!

 そんな事を夕飯後に皆へ伝えたら、呆れた目をされました。



「シャプラ、ごめんね。メリナには悪気ないんだってさ」


「うん……分かる」


「そうですよね! 良かったです」


 私の相槌は、しかし、シェラを刺激してしまいました。


「メリナ、あなたはお仕置きが必要で御座いますね」


 シェラの眼がとても鋭くなったのです。夜会の練習の際に鬼教官みたいになった彼女を思い出しました。あの鞭、痛かったです。


 私、黙っておきましょう。



「まあ! 毎日、土下座をして、お料理を貰うのですか?」


「酷いわ! 王都って、そんな野蛮な街だったなんて知らなかった!」


 シャプラさんの話の続きを聞いて二人は憤慨します。

 

「メリナ、シャプラの背中に傷があったでしょ? あれも、そのパン屋の連中の仕業?」


 知りませんが、そうかもしれませんね。今日はボスがいなかったらしいのですが、もしかしたら、更に鞭や蹴りがあった可能性があるのか……。

 んー、暴力はいけませんよ! 私が殴って教育してあげないとならないかもしれませんね。


「分かりました、シャプラ。あなたの面倒は私が責任を取ります。しばらくは、この寮でお過ごしください」


 シェラが言いました。

 今の言葉は、つまり、アデリーナ様との交渉を彼女が引き受けると言うことです。

 やりました! 私、あいつと接触しなくて済みましたよ!



 喜びも束の間、いきなり、扉がガチャリと開きました。ヤツか!


「あら、メリナさん。もうお戻りになられたので御座いますか?」


 しまった! 魔力感知かっ!?

 私が戻っていた事をずっと知っていたな!

 くそぅ、私はどうしたら良いのですか!

 また怒られます! それは嫌です!


 それに、何故、こいつはいつも背後から現れるのでしょう。気持ち悪いです。巫女を返上して暗殺者になられた方が適性がばっちりですよ。いえ、既に暗殺者のボスみたいな人でした。


 恐る恐る、振り返れば、やはりアデリーナ様です。抱いている黒猫が性悪さを更に印象深くしているのではないでしょうか。

 ふーみゃんをそんな道具に使用して欲しくないです。私が預かりますっ!


「アデリーナ様、いえ、アデリーナ! よくも私の足がきっつい臭気を放つなど、虚言を吐いてくれましたね!?」


 とりあえず、逆ギレ作戦です。


「あら、王都のパン屋に着いたのですね。おめでとうございます。それと、虚言ではなく真実でしょう?」


「いいえ! これは芳しい聖竜様のお匂いと同じです」


「そうですか。常人には難しい判別で御座いました。良かったですね。祝福致します。シェラやマリールもお慶びでしょう」


 ……こいつ……謝罪無しかよ。


 


 アデリーナ様は兎の人シャプラさんを見ました。


「メリナさん、この方はどなたですか?」


 うっ、心の準備をする前にこいつが出てきたから、シャプラさんを神殿に置いて貰う言い訳が間に合っていませんでした。



「ル、ルッカさんですよ?」


 ど、どうでしょうか!?


「メリナ、あんた無茶よ……」


 お黙り、マリール!

 髪の色も体のスタイルも異なりますが、もしかしたらの万に一つの可能性に賭けたのですよ!


「まぁ、ルッカさん、お久しぶりですね。そうですか、あなたも戻られたのですね」


 だ、騙された? あの黒薔薇が……。

 いいえ、これは罠です! 何か分かりませんが、絶対に企みが隠されていますよ。

 あぁ、嘘なんか付くんじゃなかった。逆に不安な気持ちにさせられるとは、流石はアデリーナ!


「なんて思う訳ないでしょうに。本当、メリナさんは強引なのですから」


 ぐっ。これは説教部屋コースですか……。

 いえ、しかし、それでシャプラさんをここに置いてくれるのなら、私は自分を犠牲としましょう。……約束を取り付けたら、即行で転移して逃げてやるもん。



「アデリーナ様、この娘シャプラは聖竜様からのお声が掛かる可能性が御座います」


 シェラが静かに言います。


「え……聖竜……?」


 動揺を隠せないシャプラさん。私もビックリです。シェラは何故にそんな重要な事を知っているのですか!

 私にはいつ語り掛けてくれるのですか!?

 そうです! 私はシャールに帰って来ているのです。

 早く聖竜様のお声が聞きたい!


 ハァ、ハァ、ハァ、最近の私には聖竜様が絶対的に不足しています!


「メリナさん? 鼻息荒いですよ?」


「愛が欲しいのです!」


「……いきなり、何で御座いましたか? いえ、改めて答えなくて良いです。ただ、困惑させないで頂きたく存じます」



 アデリーナ様はふーみゃんを撫でながら無言でした。そして、十分に溜めてから口を開きます。


「お優しいのね、シェラは。あなたを信じて、今回は了承致しましょう」


 ……お前、絶対に扉を開ける前から聞き耳立てていただろ。

 迂闊でした。私も魔力感知でアデリーナ様の場所を探知しておくべきでした。心臓に負担です。


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