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王都に到着

 森に戻ると、既に盗賊との一戦が終わっておりました。目論み通りです。

 肩や足を矢で射たれた盗賊達が縄で木に縛られていました。このまま放置するそうです。


 私は殺さないのかと聞いたのですが、見廻り兵に回収させるらしいです。街で奴隷として売るのでしょう。ガインさんにお小遣いが入るみたいです。

 他に仲間がいたら救出されてしまうと心配しました。ですが、皆、気を失っているので、それは不可能かもしれませんね。縄を切っても運ぶのが大変です。


 パットさんから、ノエミさんとミーナちゃんがどこに行ったのかと尋ねられまして、偉大なるマイアさんの場所と答えました。

 パットさんは驚かれましたが、マイアさんに祈っていました。

 歴代の聖女は手に負えない魔族や魔物をマイアさんの住む別の空間に送っていました。私も同じことをしたと考えておられるのかもしれません。でも、聖女さんがやっていた事は幽閉なんですよね。私とは違います。私はミーナちゃんを救ったのです。



 さて、馬車と言えばアデリーナ様です。

 さあ、一気に森を駆け抜けましょう!


 パットさんを荷台に入れ、空いた御者台の席に彼女が座ります。

 手綱を持った瞬間に、喜色満面の表情をされました。


「うふふ、メリナさん、馬車はね、人生と同じで疾走するのが大切なのですよ」


 御託は良いです。あなたの人生観は知る必要が御座いません。さっさっと追い付いて下さい。


 私はふーみゃんを抱いて、荷台に入ります。まぁ、ふーみゃん、私を恐れないのですね。可愛いですよ。魔力も変動してないし、とっても良い子です。



 バシンッと。鞭が入ります。

 酷使する気満々の音です。愛情は一切感じませんでした。これが彼女の真の人生観なのではないでしょうか。



「ヒャッハー!! いっけー!」


 エキセントリックな叫び声です。


「ちょ、たんま! アデリーナがおかしーなったで!」


 ガインさん、アデリーナ様は元からおかしいのですよ。それが馬車に乗ると表面に出てくるだけです。


「何人も私の前を走らせないっ! さぁ、私のケツを拝むのよ!」


 レディーの言葉とは思えません。ねぇ、ふーみゃん。ケツを見せるのはアントニーナと同類みたいなものですよ。



 彼女による馬車の疾走は夕刻まで続きました。お昼御飯も取らずにです。

 私とパットさんは、干し肉と水を樽から頂きましたが、前のお二人はノンストップです。

 そのお陰で、我々は抜けるのにあと二日掛かる予定だった森を一日で突破しました。激しい振動でお尻が痛いし、耳もおかしいです。

 地に足を付けた時なんて、逆に地が震えている気がしました。ふーみゃんもぐったりです。



 宿泊に寄る村の手前で、アデリーナ様をシャールに連れて帰りました。馬車を爆走させたアデリーナ様は凄く満足されたお顔でして、私は「あぁ、この方はなんて単純なんだろう」と思いました。


 このタイミングなら行けると思い、ふーみゃんを譲って頂けないかお願いしたのですが、ダメでした。「食材を漁るネズミを捕るのに有用です、パン屋に勤める私には必要です」って力説したのに、冷たい目でした。

 冷酷です。


 しかし、良いでしょう。いつの日にか、私もふーみゃんを手元に置くのです。そして、喉元を撫でてゴロゴロ鳴いて貰うのです。



 その後、馬車は何日か走ると、王都が見えてきました。


 王都は大きな山の上に形成された都市でした。地が剥き出しの、その山は途中で切り取られた様に上部が水平に平たくなっており、そこに大小の建物がたくさん見えます

 その水平部よりちょっと低い場所にも集落みたいな家々がぽつぽつ見えまして、こちらはゴチャゴチャした感じで、正直汚いですね。

 山の上に行くほど、お金持ちというか偉い人が住むのかもしれません。


 あの山を登るのは大変です。幾つかの馬車が斜面に作られた道を走っているのが豆粒の様に見えますが、道は蛇行して上を目指していますので、見た目以上に長距離を進まないといけません。

 馬の体力が持つか不安ですね。何回か休憩が必要でしょう。


 しかし、荘厳です。山全体が見えるほどに遠くにいるのですが、赤茶色の山肌の上に建物がいっぱい並んでいるのです。一番大きな塔が集まっている所が王様のお城かな。

 んー、雲に届く高さではないですが、快晴の背景にも映えて天空の街みたいです。



 気温が暑くなって来ましたので、幌を取りました。御者台の二人とも会話が出来ます。


「メリナ様は王都にどの様な目的があるのですか?」


 パットさんが訊いてきました。


「パン屋に行くんです。アデリーナ様に紹介状まで書いて頂いたんですよ」


 私は鞄の奥に入れていた、封された手紙をパットさんに見せながら答えました。


「わざわざ王都まで買い物ですか?」


「いえ、お勤めしてパンを作りたいのです。そして、それを聖竜様にお供えします」


 あと、毎日、私が食べます。


「詳しくは知りませんが、竜の巫女としての修行の一環でしょうか? しかし、メリナ様は次代の聖女様ですので、その様な真似は必要ないのではと考えますが?」


「パット。えーことやないか。聖女様は庶民の生活を体験されたいんやろ。えー聖女様になるで」


 うふふ、聖女なんて任命された瞬間にイルゼに禅譲で御座いますよ。リンシャルを崇める狂信者供とは暮らせません。



「パットさんはどうされるのですか?」


「私はデュランの公館にしばらく滞在します。書記官が体調を壊されたので、その代理です」


「偉ーなったなぁ、パットも。昔は魔物に追われてひーひーゆーてたのになぁ」


「ガインさん達が無茶しかしないからですよ。でも、懐かしいです。ジェイナさんとかポールさんとか、元気にされてるんですか?」


「フローレンスが抜けてるやないか」


「あの人、出世頭ですもの。聞かなくても分かります」


 その後は私の分からない昔話で盛り上がっていました。どうも、皆さん、冒険者だったみたいです。歳回りが違うパットさんは、ガインさん達に憧れて、パーティに入れて貰ったようですね。



 さてさて、王都に到着しましたよ。高所にあるから、涼しいです。過ごしやすそうですね。

 何より門前も人がいっぱいで賑やかで、私の新しくて楽しい生活が期待出来ます!


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