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してないです

 アデリーナ様に頂いた馬をガインさんが馬車に繋げました。そして、荷台にはアデリーナ様とふーみゃんを追加して先へと進むのです。

 あっ、ミーナちゃんはもう起きてますよ。


 不思議なことにミーナちゃんは脱皮後に一回り大きくなっていました。ガインさんから「それが脱皮をする獣人の特徴やで」と教えて貰いました。


 脱皮を繰り返して大きくなるように、獣人もそうやって大人に近付いていくのです。犬だとか猫だとかの獣人、例えばニラさんですね、彼らは常人の半分の歳で大人の体になると聞いています。

 脱皮する獣人は通常の成長と脱皮の成長を繰り返して、同じく10歳前後で大人となるのです。

 昨日までは5歳くらいだったミーナちゃんは8歳くらいになっています。これ、数年後に脱皮したら、私と同じくらいの大きさに成長するんでしょうね。とっても効率的で、早く強くなれて羨ましいです。


 カブト虫だとか蝶の獣人さんの例も過去にはあったらしく、その場合は蛹になって羽化する現象が起き、子供が大人になって出てくるそうです。


 ミーナちゃん、急に大きくなったけど、全然平気な感じですね。普通に歩いて、笑っています。体形と共に足の長さも変わっていますが、(もつ)れたりしないのでしょうか。



「メリナお姉ちゃん、その綺麗な人、誰?」


 それは触れてはいけない、怖い人ですよ。恐怖の大王です。


「はじめまして、ミーナちゃん。シャールの竜神殿で巫女をやっていますアデリーナと申します」


 アデリーナ様がニッコリされました。ちゃんとしたニッコリです。私、驚愕です。

 よく私に見せる極悪な笑顔じゃ有りません。やれば出来る人だったんですね。誤解していました。


「わぁ、猫ちゃんだ」


 ご飯を取り上げられたふーみゃんは端っこで丸まっていました。

 ……私、ふーみゃんも森の魔力を吸収していないか注視していましたが、大丈夫そうです。魔力の色も量も変わっていませんね。



 ミーナちゃんのお母さんであるノエミさんは、何故か正座です。そして、事ある毎に、私とアデリーナ様に水を勧めたり、外から取ってきたでっかい葉っぱで扇いだりしてくれます。

 気を遣って頂いているのは分かるのですが、お子様の前ですからね。私、やんわりと断りました。ミーナちゃんも何故かなって顔をしていましたし。



 ガタゴトと凸凹の多い森の道を進みます。

 盗賊を返り討ちにするために、伏せていた他の馬車の方々も先に進まれている感じです。


 ガインさんは道を急いで、何とか合流できる様に頑張っていますが、数刻の遅れは、なかなか取り戻せる物では有りませんね。



「ミーナちゃん、手が蟹みたいになったら、どう思う?」


 私は疑問を切り出します。ミーナちゃんの答え次第では懸念に変わります。


「えー、蟹さん?」


 ミーナちゃんは両手でチョキチョキします。


「嫌かなぁ。メリナお姉ちゃんと手を繋ぐのも出来なくなっちゃうし」


 ふむ。そうですか……。懸念に変わりました。


「とっても強くなれたとしても?」


「うん。メリナお姉ちゃんの手、とっても柔らかくて好きだもん。優しい感じがする」


 お、おぉ……。何か久しぶりに胸が熱くなりました。そんな言葉、誰も掛けてくれないんだもん。子供は正直で可愛いです。



「メリナさん、上手ですね」


 アデリーナ様が朗らかに声を掛けてきました。


「何がですか?」


「えっ、人を騙すのがで御座いますよ」


 拳骨して良いですか? 頬を横殴りにする感じで。



 しかし、ミーナちゃんの気持ちは確認できました。となると、今の状態は不味いのです。

 森の魔力は場所によって濃淡が有ります。濃いところに入ると、すぐに蟹の手になってしまうかもしれません。いえ、そうなると私は確信しています。



「アデリーナ様、ルッカさんは神殿に戻っていましたか?」


「いいえ。どこに行ったのかしらね。本当に困った人で御座いますよ」


 何となくですが、アデリーナ様は知っているのを惚けている気がします。しかし、ならば、私は別の方を頼りに出来るのです。



「そろそろ、私は仕事に戻りたいと思います。メリナさんお願いします。ふーみゃん、行きますよ」


 アデリーナ様がそんな事を言ったタイミングで、私の魔力感知は新たな襲撃の予感を察知しました。

 また、周りに賊が展開しています。何人かは先の道を塞ぐ形で待ち受けている様です。しつこいです。


「アデリーナ様、すみません。こちらはお任せします」


 私、アデリーナ様も魔力感知出来ることを知っています。だから、彼女もこの状況を既に把握されているはずですね。もしかしたら、だからこその先程の発言だったのかもしれません。


「ん? メリナさんは私の護衛になると約束していませんでした? ねぇ、竜のく―」


「こわっ! してないです」


 何ですか、そんな強引な! 一切、その様な約束してないです! ほんと、怖いです。体がガタガタ震え兼ねません。アデリーナ様の護衛? 敵がいっぱいじゃないですかっ! 何百人、いえ、何千人を殺せって仰るのですか。

 口約束もしていない事を、ぬけぬけとよく言えますね。厚顔にも程があると思います。

 もう行きましょう。


「ガインさんも戦力になりますよ。それでは」


 私はノエミさんとミーナちゃんを連れて転移しました。



 ここは、マイアさんのお住い。明るい光源に白い壁が映えています。大昔には、聖竜様の居室であった所と聞いています。つまり、マイアさんに貸してあげていますが、私の物と同義です。



 やはり、最初に出会ったのは師匠でした。前回もそうでしたが、きっと、偶然ではなくて最初に訪問者とコンタクトする役をしているのでしょう。


「ひっ、ゴブリン!」


 ノエミさんが驚かれます。その悲鳴を聞いたミーナちゃんがノエミさんの服を掴みながらくっついています。


「大丈夫ですよ、師匠は無害なゴブリンです」


「もっと言葉を選んでほしいんだな。うん、恐がらなくていいんだな。君達、お茶を飲む?」



 師匠は黒い石製のテーブルに、これまた石製のコップを並べて、お茶を注いでくれました。魔法で冷たくしたヤツで心地好いです。氷も浮いています。



「どうしたんだな? また、テストでズルをしたいのかな。嫁さんから聞いているんだな」


 まぁ! あれは私の能力をフルに使っただけで不正では御座いませんっ!


「こちらの女の子をご覧ください」


「うん。でも、僕は嫁さんにエッチな事は禁じられているんだな。期待には応えられないんだな」


 はあ? 何の話ですか! ゴブリンとしての本能がそう言わすのですかっ!?

 ノエミさんが怯えているでしょ! その証拠に、動揺の余りに手が震えて、彼女のコップからお茶が溢れましたよ!


 冗談のつもりでも殺されて当然の発言です。しかし、残されるシャマル君の事を思えば許すしかないのでしょうよ。私の慈悲とシャマル君の存在に感謝しなさい、師匠!



「こちらのミーナちゃん、獣人です。マイアさんに対処方法を教えを乞いに来ました」


「そうなんだ。よく分からないけど、分かったんだな。奥にいるんだな。シャマルもいるよ」


 私はミーナちゃんが獣人であることを本人の前で言いましたが、ミーナちゃんは気にしていない様子でした。状況を説明していないので、自分の事とはピンと来ないのかな。



 大きな扉を開きますと、相変わらず、広大な空間が広がっていました。ここには聖竜様のお宝がいっぱいあったはずで、それを私にくれると聖竜様は仰ってくれたのに……。あのクズの色狂いのルッカがもう盗っていたなんて!


 ……ああ、ダメです。終わったことを思い出してしまいました。もう何百年も前の事です。諦めましょう。


 部屋の真ん中に置いた机に向かって何かをしているマイアさんがいました。シャマル君は部屋の端っこの床に座っています。二人とも思い思いに過ごされている様です。

 で、入ってきた私達に彼ら親子が顔を向けました。

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