品位に欠ける
「ちょっ、やめてくださいぃ」
あら、これで三日連続かしら。こうともなると、朝からのシェラの叫びにも慣れてくる。どうせ、またモミモミされているのでしょ。ご自慢の乳を。
私はベッドに横たわったまま、隣のシェラを見る。寝間着姿だ。そうだ、昨日実家から届いていたとか言ってたわね。私たちが寝入ってから着替えたのかな。
それにしても、その服も凄いわ。光沢があってキラキラしてるし、薄くて気持ち良さそう。でも、透けたりしないのがお上品。
あれ?
マリールがいないな。シェラの傍にイヤらしい手つきで立っているのかと思ったのに。
「シェラ、どうしたの?」
「あぁ、メリナ、見てください。あのマリールを」
シェラが手を口に持っていく、驚きのポーズをしながらマリールのベッドを見る。
あぁ。
マリール、昨日のシェラの話を聞いて試していたのね。
両手を服の下に突っ込んで、自分のまっ平らな胸を揉んでいた。
ん? 揉む程ないから、サワサワしている感じだね。
「朝から何をしているのですか、マリール。品位に欠ける行為はお止めください。せめて、誰もいない所にお行きなさい」
ちょっ、シェラ、それはそれで誤解されてます? それとも私の邪推かしら。
反応に困ります。
マリールもシェラの声が聞こえなかったのか、無視したのか、サワサワ行為を続けています。
なので、私は二人を置いて顔を洗いに行きましょう。
「メリナ、マリールを止めて差し上げて」
シェラが私に助けを求める。でも、これ、どうしたらいいの。一心不乱に大きくなぁれ、大きくなぁれされているのよ。止めにくいじゃない。
出て行こうとする私を見詰めるシェラの必死な視線に負けました。
仕方ありません。シェラの思いに沿ってマリールを止めてみせましょう。
「マリール、その快楽は一瞬です。それよりも私たちとの友情の方が大切だと思いませんか? 眼前でそのような行為を見せられた私たちは、あなたを友と呼びにくくなるのではないでしょうか」
これでいいのかしら。
一瞬間を置いてから、
「勘違いしすぎっっ!!」
思いっきり、枕が飛んできました。
マリールの顔が真っ赤です。
「シェラがそう思ってたから」
ボッゴンと凄い勢いで、別方向からも顔面に枕を頂きました。なかなかの剛腕してるわね、シェラ。
私は二人に謝った。笑って許してくれた。たぶん。
ん? よく考えたら、私が思い違いした感じになったんじゃない、これ。すっごく不本意ね。
「メリナ、寝間着はないの? いつも昼の服と同じのを着ているけどさ」
マリールが目玉焼きを食べながら私に訊く。シェラは食事中は静かだ。お貴族様の習慣かな。
「ないなら、作ってもらいなよ」
簡単に言わないでよ。お高いんでしょ。村娘には贅沢よ。
私は黙って肉塊を口に入れる。うん、ジューシー。
「金額は心配しなくていいわよ。どうせ、私の家に行くんでしょ。紹介してあげるわよ」
「そうなんですかっ!?」
俄然、嬉しいです。持つべき者は友ですね。
「汚いわね。口に物を入れたまま喋らないでよ」
失礼しました、マリール様。見捨てないでください。土下座でしょうか、土下座をお好みでしょうか。
「巫女服はうちで扱ってるの。だから、あなたも採寸をしに、うちの店に行くはず。その時に買えばいいじゃない。後で、私のサインを上げるから、それを見せたら安く作ってくれるわよ。私も家に伝えたい事があったから丁度いいわ」
「タダではない?」
マリールが笑いながら言う。
「うちは商人なの。利益は出せなくても損は出来ないわよ。あと、私の私信も入ってるから買わなくても渡すようにね」
うー、払えるのかしら。
私はマリールが書いて封をした手紙と、お母さんに貰ったお金入りの皮袋を持って、魔物駆除殲滅部の小屋に行った。
アシュリンさんは既に中にいて、机に向かっている。
「来たな、メリナ! では、早速行くぞ」
「はいっ!」
今日ばかりはアシュリンさんの言葉が嬉しい。この街に来て、初めてのお買い物だし。
「ただ店に向かうだけでは面白くないと思わないか?」
何を言い出すのよ。普通でいいわよ。奇抜さは一切求めてないわ。
「逆立ちで店まで行くのと、私を肩に担いで行くのと、どちらが良いか?」
「どちらも嫌です」
そんな人達が店に入ってきたら、接客係が逃げ出すでしょ。不気味な妖しさしかないじゃない。私なら無言でその場を去るわよ。
「オロ部長からは持久力を鍛えるように命令されている。それがお前の当面の目標だ」
あの蛇め。次に遭ったら、牙を全部折ってやろうかしら。
いえ、違うわ。アシュリンさんの発想がぶっ飛び過ぎなのよ。オロ部長の指示は関係ないわ。
「どちらかを選ばないと、巫女服は無しだ」
つまり、今日の買い物もなくなるわけなの!?
それは困った。寝間着までゲットできるチャンスなのに。
「さぁ、行くぞっ!」
頭の上で大声出さないでよ。
私は大柄なアシュリンさんを肩車することを選んでしまった。逆立ちよりはまだ自然に見えるかなって思って。




