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猛攻

 私は壁に駆け寄り、アントンを抱えて走る。アシュリンさんより遥かに重いですが、頑張ります。


 そして、壁際に偉そうな感じで立たせます。節々を氷魔法で氷結させてポーズを作り、そして、同じ方法で足を床に強く固定しました。


 よし! 気を失ったままです!

 終わりまで、このまま黙って動かずにいろよ。


 そう、私は足手まといのアントンを壁際に飾ったのです。こうすることで、無駄にこいつを庇って戦う必要がなくなりました。

 なぜなら、多少の攻撃を受けた所で、外観に変化がなく、無傷に見えるからです。

 雷魔法を受けても動きを続けた偽りのタフさが観衆の方々にも印象深く残っているはずです。

 あとは、私がイルゼかクリスラをぶっ飛ばして、床に沈めれば勝ちです。優勝です!

 

 カカカ、貰った! このデュランの地は、このメリナ様の物なのですっ!



 作業を終えて、相手方を見ますと、クリスラさんがイルゼを介抱していました。

 無駄、無駄、無駄っ!


 いざとなれば、一撃で頭蓋骨を砕いてやるっ!

 誰が見ても満場一致で死亡したと判断できるようにしてやりますから!


 ……あっ、殺してはいけないのでしたか。なので、事故死をして貰わないといけませんね。



 屈んでいたクリスラさんが立つと、瞑想をするかの如く、目を瞑って座禅を組むイルゼが見えました。

 傍目には精神統一している様に偽装されています。しかし、私には分かります。


 クリスラさん、私と同じ作戦です! 気絶しているイルゼを何か強大な魔法を唱える前準備していると観客に思わせる気ですね!


 ……しかし、アントンとイルゼには大きな違いがあります。下半身の一物の事では有りませんよ。

 外観です。イルゼが私の攻撃を受ければ、明らかにダメージが目に見えるのです。



「聖衣の巫女メリナよ! 聖女候補イルゼは大魔法の準備に入ると言うのです。ならば、あなたは其を待ちなさい」


 なぁる。そういう計画でしたか。

 私とクリスラさんのサシの勝負に持ち込みたいのですね。ならば、ルール変更など必要なかったのです。おバカなんだから、クリスラさんも。


 それにしても、デュランの方は間抜けな方しかいらっしゃらないのですかね。私がそんな提案を受けるとでも言うのでしょうか。


 私がジリッと足に力を込めたタイミングで、クリスラさんはまた発言します。


「おぉ、流石は聖竜様の御遣い、聖衣の巫女メリナ! その無言は私の願いを聞き入れたのですね! 皆さん、この勇敢なる聖女候補メリナに万雷の拍手を!」


 クリスラさんの言葉に四方八方から私への大歓声が起きました。

 最悪です。最大のチャンスを逃してしまいました。この期に及んで、イルゼを直接的に攻撃する勇気は有りませんよ……。


 やむなしです。

 別にイルゼを倒すだけが勝利条件では有りません。クリスラを標的にすれば良いだけなのです。


 私は気合いを入れ直す。

 それから、ゆっくりと構えます。



「パットさん、あのメリナはやはりシャールの竜神殿の巫女だったようですね?」


「はい。クリスラ様が聖衣の巫女とお呼びに

なられていましたね。決勝戦に備えて、私はシャール帰りの友人を探して、再び情報収集をしました。聖衣の巫女は、なんとマイア様の旅に同行した記録もある竜スードワットと出会ったらしいのです」


 貴様、呼び捨てかっ!?

 流れ矢、いえ、流れアントンに気を付けるが良い。


「おぉ、あの伝説の」


「眉唾だと思ってはなりませんよ。あのコリー戦で見せた膨大な魔力と強靭な肉体。あれだけの力があるのです。我らがマイア様の如く、スードワットを魅了したのかもしれません」


「えぇ、竜は強き者に惚れると言いますからね」


 !?

 マジか!! 惚れられていたのか、私は!?

 いえいえ、分かっているのですよ。幼い頃に病身の私を救ってくれた聖竜様ですからね。勿論、相思相愛ですよね。でも、他人から指摘されると、うん、確信してしまいます。


「我らも強い聖女には憧れますからね。竜と同じなのかもしれません」


「ハハハ、確かに」



 その瞬間、試合開始直後の様に魔力の塊が現れる。今度は前方に二ヶ所。

 イルゼは倒れているから、やはりクリスラの仕業に間違い有りません。


 転移魔法か? 私は塊に向けて氷の槍を出現させ、クリスラが突き刺さるのを待つ。

 何故二ヶ所なのか……。攻撃魔法だとしたら、発動が遅い気がします。


 突如、背中に衝撃を受け、私は崩れる。

 何が起きたか把握する前に、床の冷たくて固い石の感触が伝わってきました。顔から倒れたのに痛みをそこに感じないということは、かなりの力を背中に受けたか。


 危ない!

 転移……は腕輪を盗られているから、とりあえず回復魔法。しかし、私は未だ転がったまま。追撃の恐れが有ります。避難するために、大きな氷の柱を自分の体の下に魔法で出し、ぐいーんと伸びるそれに体を乗せました。


 すぐに立ち上がって、高所から様子を確認。

 私を攻撃したのはクリスラの拳でした。転移魔法で背後を取られたと思うのですが、全く気付きませんでしたね。



 私はシュタッと地面に舞い降りる。そして、改めての対峙です。


「あなたがマクパルに向けた攻撃と同じですよ。よく耐えられました」

 

 クリスラが喋るのを黙って聞く。隙を探しているのです。


「こちらはどうでしょう?」


 また、魔力の塊を感知しました。今度は三つ。私の背後と左右です。惑わされた私はまたもやクリスラを見失います。


 影で気付く。

 上かっ!!


 迎え撃った私の拳は捉えることが出来ませんでした。クリスラが再転移したからです。


 これは私がコリー戦で見せた戦術と同じ。加速を繰り返すことで威力を増す、体当たり攻撃ですね!


 魔力の塊をまた感知。私には分かります。これは囮です。転移魔法が発動する時の魔力よりも大きい塊を作ることで、転移先をカムフラージュしているだけです。


 私は幾つか出来た魔力の塊の中で、一つだけ小さな物に集中しています。クリスラが出てきた瞬間に氷の槍と壁をぶつけるために。


 が、予想は外される。

 クリスラは違う塊から飛んできました。

 ギリギリ反応した私は体の向きを正面にして、胸の前で腕を交差させて防御体勢に入る。


 ガッと、腕にクリスラの頭が食い込む。足が浮かばない様に気合いを入れる。最初の衝撃を耐えてクリスラの勢いを抑えれば勝ちです。剥き出しの後頭部に肘を入れてやる。


 そんな風に考えていましたが甘かったのです。


 転移しやがりました。私も纏めて。


 私は背中を下にして仰向けとなっていたのです。力が逃げる場所がないまま、クリスラの体当たりをまともに喰らう位置になっていました。


 腕は完全に胸に圧し付けられ、息は止まります。何より腕の骨が砕けたのを認識しました。


 その状況で、私は氷の槍を斜めに出してクリスラを刺そうとしました。が、再転移。


 ボロボロの私は何とか回復魔法で立ち上がります。内臓を傷付けられた証しでしょう。口に上ってきていた血をペッと吐き出す。



「メリナ、不死身なのでしょうか!? クリスラ様の猛攻を凌ぎきりました!」


「……本当に魔族じゃないのかと疑う能力ですね。いえ、クリスラ様のご推薦を疑う訳でなく、それくらいの頑丈さと表現したのです」



 クソが。魔族でも今のは受けきれないと思います! 私だからこその快挙ですよ!


 死ぬかと思いました。アシュリンさんやアデリーナ様にもここまでの屈辱はされていません! いえ、されていたかもしれませんが、許しません、クリスラ!



 私は全力で突っ込む!

 間合いに入る寸前でクリスラは遠くに転移しました。囮付きですが、私は自分の勘を信じる。

 キュッと靴を鳴らして急停止して即座に反転。足に力を込めて反動への対策をしてから、狙いを定める。



「そこォ!!」


 魔法を発動させました。

 私の気合いと共に火球が猛烈な勢いで床に突き刺さる。とても大きなそれは、私の怒りの様でした。


 着弾の轟音と共に瓦礫が吹き飛び、観客の所々から悲鳴も上がりました。


 ただ、クリスラはその紅蓮の炎の中から無傷で立つ姿で現れました。


 

「これまた、信じられない身体能力と魔法発動の速さでしたね、パットさん」


「えぇ、無詠唱魔法だとしても考えられない速さでした。突撃の最中から唱えて準備していたのでしょうか。それにしても、威力、精確さ共に欠けていない。うーん、素晴らしかったです」


「パットさんが絶賛するのも納得の光景でした」


「惜しむらくは、相手が聖女クリスラ様であることですね。ここ数代の聖女様の中でも最強と噂の方ですから。先程のメリナの攻撃を受けても微塵もダメージを感じさせません。魔力の相性的な物かもしれませんが、勿体無い! 聖女になれなかったとしても、メリナはデュランに欲しい逸材です」



 観客席から声がしました。背後からです。


「メリナ様ぁ! このレイラが付いております! お慕いしております! ファイトで御座いますよぉ!」

 

 へ?

 恥ずかしいなぁ。

 私は振り返らずに軽く手を上げて、黙れと合図する。


「きゃー! 見ました? 私に挨拶を返してくれましたよ!」


 何か喜んでる……。

 うー、クリスラが動かなくて良かったです。私が隙を見せてどうするのですか。

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