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戦士アントニーナ、誕生!

「さあ、いよいよ決勝戦です!」


「いやー、楽しみですね。まさか、イルゼのパートナーがクリスラ様とは思いませんでした。クリスラ様を解説するなど、畏れ多い行為でしてどうしたものかと思っております」


「その気持ちは分かりますが、お願いします。万難を退ける祈りを致しましょう。マイア様の祝福をパットさんに、リンシャル様の冥護をパットさんに」


「聖女様の慈愛も欲しい所ですね」


「少しくらいの言葉なら、聖女様はお怒りにはなられないと思いますよ。安心しましょう」



 とても楽しそうに実況と解説の方が話されています。私は控え室から続く通路を歩いています。

 手には甲冑に身を包んだアントンの両足を持って、ズルズルと引き摺りつつ。


 アントンは部屋に入るなり不穏な空気を察した感じでした。逃げようとしたので私が腹を殴り、気を失っております。

 そして、コリーさんが彼の服を脱がせ、へルマンさんの甲冑と兜を身に付けさせました。二人の体格が違うので、心配しましたが、ブカブカ過ぎることはなく、何とかなるでしょう。

 なお、へルマンさんは下着姿となってしまいましたので、コリーさんが着替えを取りに行っています。



「黒髪の悪魔メリナ、出てきました! パートナーはアントニーナ、こちらも聞き慣れない人物です」


 私の登場と共に観客達が声をあげます。

 その中、私はアントンを引き摺るのです。


「メリナ、大丈夫でしょうか。開始前からパートナーが倒れております」


「魔力は感じますので、あの鎧の中に人はいますね。デュラハンみたいな魔物ではなさそうです。さて、正直、メリナの戦闘力は群を抜いて高いです。イルゼではまともに相手に出来ないでしょう。私はメリナの圧勝と踏んでいましたが、そこに聖女クリスラ様という強大な助っ人ですからね。アントニーナが何者か分かりませんが、戦況は変わったと思います」



 止まらぬ歓声の中、私は壁際にアントン、いえ、今はアントニーナを立たせる。

 気絶しているのでバランスを取るのが難しく、壁に立て掛けようと考えたのです。手を組んで、体は斜にして、ダークホース的な雰囲気を醸し出しましょうね。

 試合中も、そのままで良いですからね。


 私の願いとは裏腹に、甲冑が動き出しました。くそ、意識を戻しやがったか。



「おい、クソ巫女。何のつもりだ?」


「私はこの試合に勝って聖女となります。お前は、尻の穴を見せて、男を知らないと主張するだけで良いですからね」


「ふざけるな。即座に降参してやる」


 私は笑います。


「私が許すと思うのですか? そんな事をしたら、鎧ごとグチャグチャに切り裂きますよ」



「さぁ、聖女クリスラ様が登場です!」


「一応、クリスラ様はパートナーでしかなくて、主役はイルゼですよ。彼女は小さな時から有力な聖女候補として知られておりましたね。好戦的な性格が一長一短であると言うのが、ある筋からの情報です」


 沸き立つ観客。皆が一斎に立ち上がる音も合わさって、物凄く煩いです。

 そんな中、アントンはまだ反抗します。


「くそ。コリーもグルか?」


「我らも悩んでの決断です。アントン、お前も覚悟を見せて欲しいものですよ」


 くくく、私が勝つことにより、アントンは恥を掻くのです。こんな面白いことはありません。牢屋で社会的抹殺を実現できなかった鬱憤をここで晴らさせて貰います。

 係りの人に男を知っているかどうか、股を広げて調べてもらいなさいっ! 私、大爆笑してあげますわよ!


「ふん。好きにしろ。俺も好きにする」


「えぇ。無様に転がっていても構いませんからね。降参だけは許しません。お前はピエロになるのです」


 決勝戦のルールは最終的に立っていた者がいる方の勝ちです。なので、アントンが死んだとしても私は構いません。しかし、無抵抗に白旗を上げることは聞き入れられません。不格好に倒されることを望むのです。


「おい、味方を攻撃するのはご法度だからな」


「こっちのセリフです」


「ちっ。まあ、いい。先の試合でコリーの悩みを解消したのを見た。協力してやる。それで貸し借り無しだ。立っていれば良いのだろう」


 悩み? むしろ、私の毛の悩みを解決して貰ったのですが。

 いえ、それよりもアントンが言葉だけでもヤル気を見せたのは大きいです。自分の股を広げるために闘う、世界で一番愚かな戦士が誕生しましたっ!


「くそ。重いな、この鎧は。あと、ベタベタして臭い」


 ガチャガチャ言わせながら、アントンは前に進みました。鎧の重みに体が負けてますね。

 後ろから押したら倒れそうです、うふふ。コリーさんも早く幻滅なさって下さいね。



 観客はまだ静かになりません。クリスラさんの登場に興奮しっぱなしです。


 そんな彼女と目が合います。アントンの存在も恐らく、魔力感知で知られたでしょう。


 お互い対峙するに丁度良い距離となった所で、歩みを止めます。



 良い頃合いだと思うのですが、鐘は鳴りません。

 私がまだかまだかと焦れていると、クリスラさんが手を上げ、大声で言います。



「皆様、ご覧ください! 相手方は鎧を身に付けています!」


 しまった! 堅すぎる防具は禁止でしたかっ!? コリーさん、ちゃんと教えてくださいよ!

 これでは、アントンが尻を出す前に負けてしまいますよ!


「しかし、私は宣言しましょう! 私は普段着のイルゼを守りつつ戦うことを!」


 うん、極めて普通の事を仰っています。何も面白くないです。

 しかし、クリスラさんに酔っている観客の方々は大興奮です。「クッリスラッ、クッリスラッ」と合唱も始まりました。


「宜しい。では、パートナーを守りきれずに戦闘不能となった場合も敗北と致しましょう。それが皆様の意思です」


 無理がある繋ぎです。何が宜しかったのか分かりません。

 ですが、興奮のるつぼにある観衆には受け入れられました。「わぁー。きゃー」とか言っています、愚民どもが。悲鳴に変えるぞ。


 くそ、嵌められましたね。何が悲しくてアントンを守らないといけないのでしょう。突然のルール変更とは聖女の権威を舐めていましたよ。


 ……でも、勝てば良いのです。全て丸く収まり、笑顔になれます。


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