パートナーの条件
まだ私達は控え室にいます。コリーさんにも椅子を出して、部屋の隅にあったお茶を淹れます。魔道具で冷たいのと熱いのが選べるんですよね、ここのお茶。味も素晴らしいです。
「巫女殿、決勝戦はタッグ戦です。私とお組みしませんか? デュランにお知り合いがいらっしゃらないと思いますので」
タッグ戦? 二人組でやり合うのですか。
「決勝だけ、何故違うのですか?」
「はい。決勝まで残った者ともなると実力も高く、それが為に両者とも深く傷を負い、魔法でも回復するまでに時間が掛かる場合があります。治るまでの間、聖女の代理が必要となるのですが、その実力も合わせて評価するという目的です。つまり、組んだ相手が聖女代理となります」
私は考えます。
決勝の相手はトーナメントのもう一方の山の人です。目立って強そうな人はいなかったと言うか、はっきり言ってどれも雑魚どもでした。
私独りで余裕です。代理など必要御座いません。しかし、ルール上、二人組でないと失格になるのかもしれないか。
「いつまでにその組む相手を決めないといけませんか?」
「決勝はお昼を過ぎてからになります。それまででしょう」
時間が少ないですね。昼御飯を食べる時間があるとは言え、徒歩ではデュランの街を出ることも出来ないでしょう。
「先程、イルゼ様が勝利なさいました。そして、彼女はクリスラ様と組まれる予定と発表されています」
クリスラさん?
私を聖女に推薦したのに敵方に付くのですか? 不可解ですね。
「クリスラ様のお考えは分かりません。ただ、手を抜いたり、態と負けたりといった不正をされる方ではないと断言します」
「コリーさんより強いのですか?」
私はコップを口に運びながら問います。
「今は分かりません。昔はそうでした。実は、私は幼き日々をクリスラ様と過ごしております。私の武芸の教師でも有りました」
コリーさんの師匠か……。確かに、クリスラさんがこの転移の腕輪を踏みつけた時の動きと力の入れ方は、素人ではないと感じました。
「イルゼ様は巫女殿の足元にも及ばないと考えます。しかし、クリスラ様は分かりません。不肖ではありますが、私がお供してご助力致します」
「師弟対決になるのですよねぇ。コリーさんも尊敬するクリスラさんを殴り難いと思います。大事な局面で剣が鈍ると危ないですよ。ですので、申し訳ありませんが、他を当たらせて貰って良いですか?」
先程の対コリーさんで見せた私の油断や想いは、結局のところ、苦戦を招いたと捉える事が出来ます。それは良くないことです。
コリーさんを信用しない訳では有りませんが、危険は出来るだけ排除しておいた方が無難でしょう。
「しかし、それでは巫女殿と組む相手がおりません。他の聖女候補もメリナ様と組むなど――あっ、レイラ様ですか? あの方も巫女殿を慕っていたと思います」
あの娘は戦力にはならないから、ダメですね。
「良い考えがあります。誰かをシャールから連れてきます」
「なっ!? どうやってです――あっ、転移魔法ですか! あそこまでの距離を飛べると言うのですか!?」
大丈夫です。その通り、飛べると言うのです。
一次試験の時にマイアさんの所に行けましたから。シャールを出発する前に王都への転移を試しましたが、それはダメでして、その後の検証で、私が行った事が有る場所ならどこにでも転移できる感じかなと推測しています。
「分かりました、巫女殿。組む者を選ぶ条件ですが、その……男を知らない者にして下さい。勝利の際には、係りがその者を調べることになっております。これはリンシャル様のお達しでして、逆らえば、お怒りに触れてしまいます」
コリーさんはテーブルに置いてあったルール表を裏返して示しました。あっ、これ、裏側にも書かれていたんですね。何故、決勝戦について言及されていないのか不思議だったんですよ。
しかし、それにしても、男を知らない……。どういう意味でしょうか。いえ、あーいう意味ですよね。まぁ、なんと破廉恥な条件でしょう。思わず、頬が紅くなりますわ、淑女的には。
私はそんな事をパートナー候補に尋ねないといけないのですか。とても恥ずかしいじゃないですか。しかも、ルールを記載した紙には、股を開いて実際に確認すると書いてありました。
マジですか。リンシャルの指示ですか? 本当に気持ち悪い害獣です。
ですが、ルールはルールです。最適な者を選びましょう。シャールに行けば、私の人柄に惹かれた知り合いが多くいます。その中で誰にするかを考えるのです。
まず最初にルッカさんが脱落しました。本人からラブラブしてたとか聞きましたから。
アシュリンさんは……どうでしょうか……。んー、絶対に大丈夫だと思いますが、万が一、いえ、億が一の可能性も有るのか。想像するだけで笑えてくるけど、過去にラブロマンスがあった可能性はゼロじゃない。
最大の問題は、あの人、意外に乙女な部分も持ち合わせている事です。股を開くと聞くと話に乗ってこないかもしれないですね。
オロ部長なら……。ないなぁ。心強い味方になってくれますが、観客の方々は人間として認めてくれないかもしれません。って言うか認める方がおかしいレベルです。そっち方向でルール違反でアウトになるでしょう。
アデリーナ様は……うーん、絶対誘えない。勝利した後にあそこを確認するとか、絶対に死人が出ますね。
強さ的な所で考えると、ふーみゃんを一時的にフロンにするか? あっ、ダメだ。あいつもルッカと同じでアウト確定でした。
マイアさんは……あー、分からないなぁ。
それに、間違いなく戦力になるけど、それでも股を広げることには抵抗される感じがするなぁ。シャマル君もお母さんが他人に股を開いていたらショックでしょうし。あぁ、でも股を開くの意味が違いますね。
エルバ部長……。あの人なら行けるか。「マジでふざけんな」とか言いそうですが、強引に誉め倒せば、股を広げてくれそうです。子供だから、見られても別に良い気がしますし。いや、却って子供だからダメなのでしょうか。メリナ、よく分かりません。
うーん、でも、間違いないのはエルバ部長の気がするなぁ。でも、エルバ部長か。後々が面倒な気もするし、弱いしなぁ。
ふむぅ、悩むより行動ですね。
「行ってきます!」
「巫女殿、どこにですか?」
「勿論、シャールです。少しお待ちくださいね」
時間は掛かりましたが、私はシャールで目的を果たし、その者を連れてデュランに、元の控え室に戻って来ました。
それにしても、皆、酷かったです。私の願いを聞き入れてくれませんでした。
アシュリンさんは条件を耳にするなり完全無視に入るし、アデリーナ様は「メリナさんは大変に面白いですね」って黒いオーラを出しながらのスマイルだったし、マリールには「死ね、変態」って言われるしで、大変で御座いました。
副神殿長だけは別でしたよ。眼鏡友達として二つ返事で了解してくれました。でも、あの人、結婚しているんですよねぇ。惜しかったです。
気に掛かったのは、何故に股を広げることに抵抗が無かったのでしょう。むしろ、嬉しそう――いえ、考えてはなりませんね。
しかし、何はともあれ、その様な状況でも、私はそこそこ強くて、男を知らなそうで、簡単に股を開くであろう人を見付けたのですっ!
私は本当に自分が優秀だと思いますよ!。




