モジャモジャの話
2019/8/9前話改稿しています。
コリーさんを優しく床に置いたの後からで、腹の皮云々を修正しました。
私は控え室で独り椅子に座って、深く佇んでいました。
コリーは私を裏切ったのです。いえ、違います。そもそも、私を弄んでいたのです!
同じ蛾仲間として、私達は真の友人であると私は思っていたのですよ。
しかし、何ですか……。あれは蛾ではありませんでした。蝶でもない! 目に焼き付いています。モジャモジャ感はなくて、カブト虫のお腹の毛程度です!
くそぅ。
腹立たしい。ひょっとしたら、私のいない所でアントンと嘲り笑っていたかもと思うと、握った拳から血が滲んできそうですっ!
悔しいです!!
私が苦々しい思いでいる中、鉄で出来た扉がノックされました。
「……どーぞー」
気のない私の返事を待って、重い扉がゆっくり開きました。
そこにいたのは私を欺いた赤毛のクソ野郎です。
あん? 本日二戦目をご希望ですか。
上等です。手加減無しのルール無しでお相手致しましょう。
と思ったんですが、コリーさんが涙を流されていました……。
拍子抜けで御座います。気を削がれたと言った方が良いでしょうか。一旦、様子を見ることにしました。
「み、巫女殿……」
ようやく呟く様に口を開いたコリーさんを、私は黙って見詰めます。
何でしょうか。こっそりひっそりズボンの中を覗いた事がバレたのでしょうか。
それくらい良いじゃないですか! あなたは蛾じゃないんだから! ご自慢されれば良いのですよ!
「感謝致します、巫女殿」
うん? ふーん、感謝? 感謝で御座いますか?
何だ? 意表を突かれると、更に得体も知れない恐怖を感じるんですけど。衆目の中で股間を盗み見られたことに悦びを感じるご趣味なのでしょうか。
「私に施された刻印を取り除いて頂いたのですね」
刻印? ……さっきから、何の事かさっぱりです。
続けて、お腹にあったとコリーさんは仰います。しかし、私はズタズタになったお臍周りしか覚えていません。
言い終えると、コリーさんはまた涙を流されるので私は困ってしまいます。
コリーさんが泣き止んで口を再び開くまで時間が掛かりました。
泣いていた理由ですが、要は引け目になっていたお腹の模様、奴隷だった証しらしいのですが、それを取り除かれた感動だそうです。
そうですか。それは良かったですね。えぇ、どうせ、あなたは蛾じゃないんだし。
私にも感動をください。
「巫女殿、聖女となられた暁には私は真っ先に信奉致します」
あ? お前は聖女が誰か次第で信仰しないつもりなのか。
やさぐれている私は、目下の大問題を遂にコリーへ告白する。
はい、幻滅しなさい、この私に。あなたの聖女はモジャモジャですの。あなたが私に祈る度に、それを連想する呪いみたいなものを差し上げました!
コリーは唖然とした顔をした後に言いました。
「ちょっと理解できませんでした。しかし、深い意味があるのでしょうか。いえ。でも、やはり理解できないかもしれません」
理解できないって二回も言いやがった! 破門です、破門! 有り難いお言葉でもないですが、そもそも理解できないって、感性が合いませんねっ! モジャメリナは激怒で御座います。
「これは私の浅慮である可能性も御座いますが、失礼ながら申し上げます。今の問いが純真に巫女殿の個人的な悩みであれば気にしなくて良いと思われます」
はぁ? いかんでしょ!
「そこはそういうものです。それに巫女殿は竜化したい程に聖竜様を想っておられるとルッカ殿から訊いた事があります」
ルッカさんから? 意外に二人は仲良しだったのでしょうか。化け物同士、気が合うんでしょうね。
「竜となれば、毛は有りません。いえ、毛を持つ種類もいるのかもしれませんが、私は見た経験がありません。だから、今のままで良いのではないでしょうか。巫女殿が竜となれば、毛も無くなって解決すると思います。仮令、人のままであったとしても、大事な人にしか見せない部分ですし」
!!
うわっ、その通りだ!
世界がひっくり返った思いです。アデリーナ様から貰ったパンツだったので上流階級の方々はどうされているのか、私は異質なのかと不安でいっぱいだったのですが、そうですよね! 竜になるなら、どうでも良いことでした!
そして、人間としても私は普通のモジャですっ! 世の中、皆、モジャモジャなんですから、きっと!
「……ふふふ」
なっ!!
コリー、何故笑った!?
もしや、またもや私は謀られたのかっ!
私が安心した姿を心の中で蔑んでいたか! 何たる偽計! 恐るべしコリー!
私の精神力をどこまで削れば気が済むのですかっ!?
「巫女殿にも年相応の部分がお有りだったのですね。少し安心しました」
敵意は無さそうです。攻撃魔法の準備はギリギリでキャンセルしました。
「私は巫女殿とお会いでき、大変に幸運でした。アントン様共々、これからも長きに渡って宜しくお願い致します」
アントンは要らないです。視界に入らないで欲しいです。いえ、むしろ、聖女の権威でもってパンツ一枚で毎日を過ごす刑に処したいです。その様な教義を作らないといけませんね。忙しくなりそうです。
私がそんな考え事をしていると、コリーさんは私に跪きました。
「わわ、コリーさん。そこまでは良いですよ。すみません、お立ちください」
「いえ、牢屋の一件も含め、誠に申し訳ありませんでした」
「こちらこそ、コリーさんの下の毛を覗き見した事、誠にすみませんでした」
「えっ……えぇ?」
しまった! 口が滑った!
「何でも有りません。気にしてはいけません」
そう言って私はコリーさんを立たせ、握手を求めたのです。
おずおずとコリーさんはそれに応えまして、私達は友人へと戻りました。うん、良かったです。




