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少しドキドキ

 コリーさんは魔法を唱える様です。目を瞑って精神統一されています。


 私は少しドキドキしています。いきなり火炎とか豪雷が飛んできたりしたら、どうしましょうか。

 不意打ちされないように、きちんと魔力の動きを観察しておきましょうね。


「私は願う、埃風(あいふう)の真砂を洗う狼疾(ろうしつ)なる狒狒(ひひ)へ。遥か臨眺し、果たして照応す。勲臣と婢妾の釁隙(きんげき)にて、汰侈(たいし)を食むる煒煒(いい)。泥行を砕き穿たんと悦色の斤斧を持つ其は延佇(えんちょ)を満たし、(すなわ)ち、祈るは猨猴(えんこう)(にら)ぎ」


 コリーさんの体内の魔力が膨れ上がります。いえ、違いますね。総量が増えたのでなくて、脚と腕に集まっているのか。

 極端に集中したから、増えたように見えたのですね。


 でも、良かったです。

 トンでもない攻撃魔法の準備をされているかもと途中で不安になっていたのです。



 ……ん?

 私、目をパチパチさせます。

 何回見ても見間違いでは無いようです。



 コリーさんの太股から下が膨らんでいるように見えます。あっ、腕もです……。


 そんなに時間が掛からずに、ビリリッとコリーさんのズボンの股下と、服の袖の部分が耐えきれず破れました。正しくはち切れたと表現すべきでしょう。

 で、布が床に落ちて、現れたのは筋肉ムキムキのコリーさんです。


 スリムな印象の強いコリーさんが、腕と脚だけ太くなったのです。胴体とか他の部位と比べると、とてもアンバランスで、言ってはなんですか、森で遭遇したら魔物だと感じてもおかしくない感じでした。


 私の視線は真っ直ぐ一点です。

 コリーさんの股間。良かったです、そこはまだ隠されていました! お腹も大丈夫ですね!

 付け根の所まで太股が膨れて、ズボンも破れていますが、はみ出ている毛も有りませんよ!



「巫女ドノ、カン謝いたしマス。モウスグ、いシきがナクナりまスガ、ホンキのわタシをごらンくダサい」


 しかし、コリーさんのこんな姿を見たくはなかったです。観客の人も嫌な物を見た気分になられているのでは無いでしょうか。


 これ、聖女決定戦ですよ。やっぱり聖女と呼ばれるからには、清楚感が必須だと思うんです。だから、コリーさん、あなたは聖女失格です。今のあなたはモンスター的な何かしか感じられませんもの!


 私、敷地だけ頂ければ、コリーさんに聖女を譲ってもいいかなと、さっき一瞬だけ思いましたが、ダメです。

 デュランの民の為にも、あなたをここで倒しましょう!



 私が決意したと同時に、コリーさんが跳ねる。太い腕を振り上げつつジャンプして、私を上から叩き潰すつもりですね。

 拳も私の顔より大きくなっています。あと、大切だと言っていた細剣も投げ捨てていますね。


 何たる哀れな……。

 蛾のままで良いと仰っていましたが、すみません、蛾じゃないです。動作的には全身が毛だらけのお猿さんみたいですよ、あなた。


 私は軽く後ろに跳んで、コリーさんの攻撃を避ける。彼女の殴打が床の石を砕くのを無視して、前に出て横蹴り。

 上腕に気持ちよく入りましたが、びくともしませんでした。

 捕まれるのは嫌なので、すぐに間合いを広げます。まずは小手調べですから、こんなものです。



 うーん、蟻猿戦を思い出しますね。別の個体相手でしたが、私もアシュリンさんも足を攻撃したものです。特に意志疎通した訳ではないのに、二人とも巨体はバランスを崩しやすいとの判断だったのでしょうね。



 コリーさんを見ます。

 端正なお顔ではありますが、目が血走っています。「ふしゅー、ふしゅー」って口から奇怪な息使いもされておられます。


 体内の魔力の位置はやはり片寄っていまして、四肢に集中しています。つまり、頭には少なくて、よりおバカになっているのでしょう。


 今の彼女だと、あの一次試験を全く解くことは出来ないでしょう。机を齧る醜態さえ見せそうですし、それくらいの低脳に思えます。


 弱点は、その魔力が少ない頭と腹。柔らかくなっていると想像します。



 コリーさんはまたもや飛びはねて私に向かいました。

 まぁ、工夫もなく同じ攻撃を私に見せるのですか。舐められたものです。


『氷、氷、氷。氷の槍をコリーさんの腹を貫く感じでお願いします』


 これで終わったと私は思っていました。床からビューンと尖った氷が伸びるのを見ながら、そう確信していました。


 が、コリーさんが「ガグアァァァァ!」と空中で雄叫びを上げられますと、体が赤く光りまして、移動速度が速くなったのです。

 氷の伸びは間に合いませんでした。避けられたのです。


 やばっ!


 私は慌てて後ろへ逃げます。

 完全なる油断です。流石に背中までは見せていませんが、三歩も四歩も下がりまして、迎撃の体勢にも入れていません。


 対して、コリーさんは着地後も止まらない。瞬時に私の目の前に出てきました。


 気付けば、私はぶん殴られて何回も転がされました。


「あぁっと! メリナ、コリーの渾身の一撃を喰らいました!」


「いえ、うまく衝撃を逃がしています。頭への打撃ですからノーダメージという訳ではないでしょうが、勝負が決まった訳ではありませんね」


 ……頭への衝撃は逃がせないでしょ……。首が折れますよ……。


 なんて、解説の人の言葉に反応している間に、コリーさんは更なる追撃をしてきます。

 丸太の様な脚による踏みつけ。


「ぐはっ」


 私、腹に喰らいました。クソが!

 久々ですよ、こんな惨めな思いは。「ぐはっ」って、女の子が出していい音じゃないです!

 皆に聞かれてしまったじゃないですか!?



 コリーが足を上げた隙に、素早く私は立ち上がる。思った程、腹を踏まれたダメージは響かない。それからすぐに横に回り込んで前蹴り。


 コリーは私の足を片手で掴む。そして、力任せに私を自分の方へ引き込もうとする。



 掛かったな! このバカ猿がっ!!


 私は体を浮かせ、捕まれた足を軸に体を回転させる。それから、引いていた自由な方の足を伸ばして、足裏でコリーの顔に蹴りを入れる。

 コリーの引っ張る力も利用した力業です。ヤツの力が強ければ強いほど威力が高まるはずです!


 私の足を捕らえる力が緩んだのが、効いた証拠でしょう。足を抜くことが出来ました。

 もちろん、コリーの腕から抜いたのですよ。私の体から抜け取れた訳ではありません。そんなホラーは嫌です。

 まぁ、どっちにしろ一緒ですけどね。


 捕まれた方の足の靭帯とか筋肉とか関節とかに無理をしました。激痛で御座います。

 それを着地の際に回復魔法で戻す。


 コリーは今の一撃でも倒れませんでした。魔力の弱い顔を狙ったのに不十分か。

 しまったなぁ。頭を砕くの避けるために少し力加減を間違えたのかもしれません。


 それでも気を失うくらいの威力だったと思うのですが、あれですかね、今のコリーは頭を使わずに動いているのかもしれません。



 この攻防でコリーは動きを変えました。

 縦横無尽に駆けて跳ねるのです。特徴的なのは、その速さ。動作の途中で急加速して、私の予測を悉く外してきます。

 体が赤く光る時がそのタイミングなのですが、分かっていても躱すので精一杯でして、反撃出来ておりません。



「パットさん、何やら一方的になってきましたね。メリナはガードも甘くなっていませんか?」


「まだ捌いているという感じではありますが、苦戦しているのは間違いないですね。最初に作った氷の要塞に転移するのが良いかもしれませんね」


 出来るか、バカ!

 私は猛攻を耐えながら、解説の人に心の中で反論する。

 この怪力だと氷ごと粉砕される!

 今のコリーの状態でも魔力感知出来るなら、先回りされて、そこで試合終了です。命も奪われて人生終了かもしれません。



 とはいえ、このままでは(らち)が明きません。いくら無詠唱といえど、攻撃が激し過ぎて、唱える余裕が余り有りませんし。唱えられたとしても、一撃で仕留めないといけないのが難易度を上げています。


 あっ…………転移魔法か。

 先回りされても良い所が有りました。解説の人、ありがとうございますっ!


 直ぐ様、私は行動へ移す。転移先は空。

 逃亡と勘違いされて敗北になる可能性も御座いますので、観客にも見える闘技場の最上部と同じくらいの高さにしております。



 ふう。

 飛行魔法は使えませんので、このまま自由落下となるのですが、何とか逃げれました。形勢を整えましょう。


 私を見上げているコリーを確認しつつ、次の手を考えます。

 あと、目が合ったという事は、やはり魔力感知をその姿でも使えるのですね。用心していて良かったですよ。


 さぁ、今度は私の番ですっ!


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― 新着の感想 ―
[一言] 強敵と認識してる相手との一度の戦闘で何回油断するんだよ
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