表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
286/421

衝撃

 濡れて額にくっついた前髪をかき上げながら、コリーさんは私に言います。


「勝負は決しました、巫女殿」


 両手を付いて顔をコリーさんに向けるだけでも精一杯の私です。


「敗けをお認めください」


 ぐぬぬ、体が動きませんっ!

 地面に引っ張られてるみたいです。



 重さに耐えきれず頭が下がった私の脳天に、恐らくは剣先が突き付けられています。


 しかし、絶対に認めません。私はここの敷地が欲しいのです。聖竜様と一緒に豪勢な生活を毎日楽しみたいのです!



 私はアンチマジックと勘違いしましたが、解説の人の発言から、これは捕縛魔法で良いのでしょう。


 でも、その二つはよく似ています。

 

 アンチマジックと言えば、お母さん。

 一緒に魔物退治に行った時に巻き込まれて喰らったのを覚えています。一瞬で魔力を持っていかれて、体が動かなくなって、意識が戻ったのは数日後でした。あの時よりは今の状況の方がマシですね。


 コリーさんと出会った監獄でもアンチマジックは有りました。あそこでは魔法が使えない、または威力が下がるような仕組みだったと記憶しています。特にルッカさんの魔法は作動しなかったと思います。

 仇国の魔族であるルッカさんを閉じ込めていたのですから、彼女に特化したアンチマジックだったとも推測できます。


 王様に会うために、ガランガドーさんの協力の下、陣地に氷を張った時も、王都の兵隊さん達は魔法が使えないとか言っておられました。あれもアンチマジックだったかもしれません。

 でも、ルッカさんは転移も飛行も出来ましたし、マイアさんも強力な魔法を使用していました。クリスラさんも道具を使っていたからかもしれませんが転移魔法を唱えていました。

 私の知らない法則性がそこにあるかもしれませんが、それはまた今度に考えましょう。


 何はともあれ、一口にアンチマジックと呼んでいる魔法にも色んな形式があるのだと思います。そう、薬師処のケイトさんが火炎魔法にも細分化された種類があると言っていたのと同じです。

 お母さんのは、体内の魔力も含めて無効化するもの、監獄は魔法で用いる魔力を低減するもの、私のはよく分かりませんが、これも他の物とは異質な感じがします。



 対して、捕縛魔法は蟻猿に仕掛けられました。魔法陣上で体が動かなくなったのです。いくら力を入れても無駄でした。


 で、何が言いたいかと申しますと、アンチマジックも捕縛魔法も、恐らく本質は同じなのではと感じたのです。

 両方とも魔力の動きを阻害する事で作用しているのではないでしょうか。


 今の私は魔力の動きがよく分かります。自分の体内の魔力が地面の方に片寄っていることが自覚できます。

 足の裏なんか、すっごい魔力が溜まっていますよ。でも、その分、太股だとか上半身なんかは魔力が薄くなって、だから、筋肉が自由に動かなくなっているのではと、賢いメリナは推察します。

 それに、そう考えると、私が出した魔法の氷が捕縛魔法なんかで融けた理由が説明出来ると思うのです。



「メリナ、動きません! これはコリーの勝ちか!?」


「うーん、そうかもしれませんね。これ程まで完全に捕縛魔法で固められると勝ち目は薄い気がします」



 さて、アンチマジックに打ち勝つには、それを上回る魔力を持てば良いだけです。

 周りは私が出した氷がいっぱいでした。魔法で出した氷ですから、その中には魔力がたっぷり。

 で、今は捕縛魔法により融け、水となって床石を濡らしております。


 四つん這いになった私の両手に、その水が触れているのですよ! そして、私は魔力を自由に取り入れる技術を浄火の間で学んだのですっ!


 私は一気に魔力を体内に吸い込む。


 くはっ! 当たりだわ!


「巫女殿、大変申し訳有りませんが、攻撃致します。少し気絶するだけなので、痛くはないと思います」


 は?

 負けたら心が激痛です! 本当にコリーさんはおバカです!


 コリーさんは剣ではなく手刀で私の首筋を狙ってきました。

 私はそれを横転して躱す。魔法陣の上から抜け出す目的も有りました。


「……さすが巫女殿。楽には勝たせて貰えないと考えていました」


「くくく、コリーさん。少しは良い気分にさせてあげようと思ったのですよ」


 いえ、危なかったんですよ。水の中に魔力があるのが分からなければ、転移魔法で逃れられるか試す所でした。

 でも、恐らくはコリーさんはそこまでは読んでいたはず。手のひらで踊らされる気はサラサッラ有りませんからね!



 私達はまたもや対峙する。捕縛魔法の魔法陣も消えました。


 距離的には近接戦闘の間合いです。



 私は剣を恐れず前に出る。もちろん、正面からです。

 それを見たコリーさんも腕を伸ばして、剣を突き出します。迷いのないその剣は、私の喉元を狙っていました。

 空気が読めないだけでなく、容赦もない!


 私を殺す気ですか、コリーさん!


 そんな事を思いながらも、私はスピードを緩めない。

 

 本当は踏み込んで殴り飛ばしたいのですが、コリーさんの剣は曲がります。左右に動いたとしても避けきれないでしょう。


 なので、私は蹴りを選択しました。狙いは伸びてくる手。剣よりも私の足はリーチが長いとの判断です。



 踏み込んだ足に全身の体重を乗せ、それから、体を捻る。斜め下から蹴り上げる形で逆足を繰り出します。


 しかし、空を切る。

 クソ、コリーのヤツ、手を引き戻しやがった!


 私はそう思いながら、蹴り上げた足の勢いをそのままに任せて、後方へクルッと一回転します。


 着地とほぼ同時にコリーさんの剣を避けます。2回、3回と斜め後ろ交互にステップを踏んだのです。


 コリーさんの腕の魔力が微妙に増えたのを察知した私は、すかさず転進して前に出る。4回目はそれまでより鋭い突きにするつもりで、恐らく、それが本命の一撃でしょう。


 私の突撃を受けて、コリーさんはバックステップで距離を取りました。



「転移魔法は使われないのですか、巫女殿?」


 使って来いって事ですか?

 これは罠ですね。絶対に先読みされて、無防備な私を突き刺すのです。



「使わなくても勝てます。その細い剣では、私を刺しても止められないかもしれませんよ?」


 挑発も込めていますが、本当の事でもあります。痛いですが片腕に剣を刺させる事で、コリーさんの剣は止めることができるのです。牢屋でも苦肉の策でしたが、実際に実行致しましたし。


「これはアントン様に頂いた大切な物です。確かに殺傷能力は高くありませんが、殺めることに疲れた私への配慮なのだと思います」


 ……いえ、牢屋でもそうでしたが、殺しに来てますよね? 正確に急所を突いての一撃必殺狙いだと思いますよ……。私が警戒する程にです。



「蛾はどうすれば蝶になれるのか。巫女殿の問いは忘れられません」


 また、それですか。

 私は黙って聞きます。私の油断を誘う言葉かもしれませんが、コリーさんから素晴らしいアイデアを聞けるかもしれませんから。


「蛾は蛾のままで良いのです」


 !?

 な、なんですって!?

 はみ出ていても良いのですか!

 ビローンどころか、モジャモジャモジャですよ!


「コ、コリーさんは、本当にそれで良いのですか!? レディーに、真のレディーにならなくて良いのですかっ!?」


 くぅ、見事に心を乱されました!

 コリーさんが攻撃してきたら動揺の為に避けきれないかもしれません。



 コリーさんは自分の腹を指す。


「私のこの辺りは他人に見せたくない状態です。……アントン様はご存じでしょうが」


 私はゴクリと喉を鳴らす。どんな状況なのですか、そこは!

 ま、まさか……。


「そ、そこに…………黒いものが?」


 私の問いにコリーさんはゆっくりと頷きました。


 !! は、腹毛っ!!

 なんたる事なんですか!?

 コリーさんは、剣も毛も豪の者なんですか!?


 どうして!? 以前に仰られていた様に呪われた一族なのですか!


「私は受け入れようと思いました」


 ぐっ。その覚悟は流石にコリーさんです。私には出来ませんよ。

 強い目で見詰められると「お前のパンツ状況など知らぬ。私は腹毛なんだぞ」という、これまで秘めていたはずの怒りさえも感じ取ってしまいます。


 あぁ、すみません、コリーさん。私は今まで何と不躾で遠慮無しの発言をしていたのでしょう。そんな悩み、人には言えないですものね……。


「私の本気でお相手をお願いしたく思います。しばし、拳を下げて貰えませんか」


「え、えぇ。それでコリーさんの気が済むのであれば」


 本来なら相手を待つなど決してしません。

 しかし、私は強い衝撃を心に受けておりました。少しでもコリーさんを慰めたいと思っていたので、了承したのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ