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筆記試験の次は

 カーテンから漏れた日光で顔を照らされて、私は起床します。とても気持ちの良い目覚めでした。


 私が寝る前も床に倒れていたままだったはずのメイドさんも壁際に立っていました。


「おはようございます、メリナ様」


 恭しく腰を折られました。



 しかし、彼女の横顔に大きな痣が出来ているのはどうしたことでしょう。

 私、ちんぷんかんぷんです。全く分からないし、身に覚えも有りませんわ。って、態度で行きましょう。


「素晴らしい朝ですね。あなたもよく眠れましたか?」


「はい。生きている現実を久々に感謝致しました、メリナ様」


 …………。

 エルバ部長風に言うと「お前、マジで何だよ」って感じですよ、メイドさん。私を言外に責めているのですかっ!?


 私は回復魔法で顔の痣を消す。

 はい、これでお仕舞いです。私は何もしておりません。証拠隠滅です。



 朝食を頂いた後、私はクリスラさんの案内で館の外へ出ます。しばらく歩いていきますと、大きな石造りの建物の前に出ました。


 道中で私はクリスラさんの凄さを知りました。

 皆が彼女を確認すると立ち止まり、道を譲ってくれます。声を掛ける方はいらっしゃいません。膝をついて黙ってお祈りをされるくらいです。クリスラさんはそんな方々に何をされる訳でもないのですが、細かい仕草や視線に深い慈悲を、異教徒である私でさえ感じたのです。



 さて、ここは絵本で見たことのある観劇場ですね!

 円形で壁も高く、恐らくはどの席からも舞台が見易くなる様に工夫されているのです。


 ここで聖女決定戦の続きを行うのですね。昨日は筆記試験でした。聖女って知恵者のイメージが有りますからね。おバカさんが選ばれないように実施されたのでしょう。


 つまり、次戦も聖女らしさを計る催物であることは間違いないです。


 ……んー、お父さんの本には美貌の優劣を投票で決める、少しお下品な大会がどこかの国にあると書いてありました。それなのでしょうか?


 私、とっても恥ずかしくなります! 優勝してしまったら、昨晩の優男じゃないですけど、そんなのがいっぱい寄ってきてしまいますよ!!

 そうすると、私を取り合っての争いが始まってしまいます。世界が破滅するような大戦争を引き起こしてしまうかもしれません!

 私には聖竜様という運命であり宿命である未来の夫がいるというのに! なんて罪深い私なのでしょうか!!



「ここは闘技場です。メリナさん、聖女としての強さを存分に観衆の方々へアピール下さい」


 …………私、とっても恥ずかしくなりました。

 自惚れもいい加減にしやがれですね。そもそも、コリーさんや不正ガールのレイラとかも綺麗です。私が美貌で一位に選ばれるのは簡単ではなかったですよ。



 闘技場の控え室は聖女候補ごとに宛がわれていました。私が座って待機している部屋には他の人はいません。

 机の上にはルール表が置いてありました。


 準決勝までの勝負は一対一。

 一方が敗けを認めるか、戦闘不能になれば試合終了。

 事故以外で殺めてはならない。

 魔法や武器使用は可。

 観客に危害を加えた場合は、意図していなくても失格。

 制限時間内に勝負が付かない場合は両者敗北。


 んー、基本、何をしても良いということですね。殺しても「すみません、不幸な事故です。こんなに弱いとは思っていませんでした」が通用しそうです。

 決勝は一対一でないと暗に教えてくれています。もしかしたら強さ以外での勝負ごとかもしれませんね。


 対戦カードも別紙に記載してありました。

 一回戦は筆記試験の順位で組み合わせが決まっておりまして、一位と八位、二位と七位などと、一応、テストの上位者が下位者と当たる様になっています。

 私は八位だったので、名前は覚えていませんが、満点の人と戦う訳ですね。


 問題は勝ち抜いた後の二戦目です。そこは、筆記試験の四位と五位の勝者がやって来るのですが、確か、四位はコリーさんでした。

 つまり、コリーさん対私という事実上の決勝が行われそうなのです。


 コリーさんの実力は舐めて良いものでは有りません。コリーさんの本気はまだ見ていないのです。彼女は素早いので広域範囲魔法で仕留めるべきですが、観客に被害が出てしまいそうです。


 それに牢屋での戦いでコリーさんは魔法を使って、ルッカさんを燃やしていました。デュランでは回復魔法も使えることも確認しました。


 転移で奇襲なんて、もっての他でしょうね。あのメイドでも転移先を読んでいました。コリーさんなら間違いなく詰めてくるでしょう。


 ……あの剣を体で受け止めてでも、無理矢理近接して殴り付けるか。魔法で治るにしろ、痛いの嫌だなぁ。それに、コリーさんも対策はしてくるでしょう。うーん、出たとこ勝負になりそうです。


 素早さと魔法だけならアシュリンさんの下位互換という感じもしますが、隠し手を言葉通りに隠していると思います。



 係りの人が部屋をノックして入って来ました。いよいよですか。


 行きましょう。


 私は薄暗い廊下を歩く。前方に見える出口の光が眩しいです。



 私の登場に観客は大声援で応えました。体全体が震えるほどの音が響きます。


 何ですか、これ? こんなに人っているんですか?


 戦闘を行うであろう真ん中の広場をぐるんと囲む形で、石壁が聳えています。とっても高くて、私に肩車されたアシュリンさんでも、その壁より上に頭が出ないと思います。


 観客席はその壁よりも高い位置にあるのですが、これまたぐるりんと広場を取り囲んでいまして、私がどこを見回しても人、人、人です。

 流石に子供は少ないですが、老若男女を問わず、観覧されるようです。


 私が出てきた通路は金属の柵で封鎖されました。


 相手はまだ来ていません。向こう側の壁にも同じような通路が見えますので、あそこからやって来るのでしょう。



 さぁ、戦意を高めるために精神を昂らせましょう。


 テスト満点の頭でっかち野郎が。女ですが、私よりも高得点と生意気なヤツですから野郎で十分です。殺さない程度に伸してやります!


 準備運動をしておきますかね。

 首を回したり、肩を解したり。あと、一番大事なのは足です。関節と筋肉を意識して、屈伸運動をしておきましょう。くいくいっとね。



 腰を大きく左右に捻っていると突然大きな歓声が上がりました。私の時よりも大きいです。

 対戦相手が来たようですね。甲冑ではなくローブですか。そんな布切れでは一撃で終わりますよ。


 ……もう殴りに走って良いのでしょうか。

 でも、歓声が鳴り止まない事を考えると、まだダメな気もします。

 いえ、鳴り止まないどころか、段々と大きく盛り上がっていきます。



 あぁ、歓声はクリスラさんに対してだったのですね。

 彼女が観客席の一番良いところから階段を伝って私たちの高さまで降りて来ているのです。

 高い壁の一部が魔法でしょう、スーと開きました。そして、クリスラさんがそこを通って闘技場の真ん中に立ちます。


 歓声はマックスです。聖女を信仰しているデュランの方々にはクリスラさんが王様みたいに感じているのでしょうか。


 クリスラさんが私と向こうに見える対戦相手の真ん中で立ち止まった時が最も歓声が高まった瞬間でした。もはや絶叫です。

 道端で会った時は静かにされていたのに、この場では良いのでしょうかね。


 しかし、信仰に熱心というか、狂信者みたいですよ。怖いですね。何事にも限度があると、メリナは考えます。全く聖竜様もこのデュランの有り様を御覧になられたら、呆れた溜め息を吐かれるかと思います。

 皆さん、悪い薬でも飲まれておられるのでは無いでしょうか。



 クリスラさんが聖女決定戦が何たらとか、リンシャルとマイアさんが何たらとか喋っているのを私は黙って聞いています。



 恐らくはクリスラさんが元の場所に戻り次第、試合開始です。相手の人の位置取りを確認しておきましょうかね。


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