見られてた?
一日が終わり、食堂での夕食タイムだ。今日は走って洗濯してで仕事が終わった。正直、これじゃ、巫女である必要がないわね。まだ入ったばかりだから生活に慣れなさいっていう期間なのかしら。
マリールやシェラはちゃんと勉強させてもらっているみたいで、少しだけ羨ましい。
テーブルに昨晩と同じく三人で座っている。
「……巫女戦士って、凄い表現ですね。歴史書でも見たことありませんよ」
昼間の顛末を聞いたシェラが私の頭を撫でながら慰めてくれる。
ありがとう。救われるわ。
「さあ、マリールも一先ずはメリナの巫女服授与を祝いましょう」
それは止めてあげて、シェラ。
ほら、どちらが先に黒服を着るのか勝負してたのを忘れたの。
「へぇー、それでいいじゃん。巫女じゃなくて戦士なんでしょ。私は見習いだけどさ」
マリールは食堂のテーブルに突っ伏して遠くを見ながら投げ槍に言う。さっきからヤル気を一気に削がれた感じがすんごく伝わって来るわね。
「マリール、巫女服を貰ったから一人前と言う訳ではないわよ。規則としては見習いが正式に取れるのは一年後ですよ」
えっ、そうなの?
アシュリンさんは、見習いじゃなくなったら服をくれるって言ってたのに。
シェラは続ける。
「私が初日に頂いたのは仕事で使用するためです。この神殿に来る前から事前に発注しておりました」
そうだね。サイズを測った当日に出来上がるはずがないもの。
逆に言えば、副神殿長の配属発表の前にシェラがどこに行くかは決まっていたんだろうな。
伯爵家の娘さんなんだから当たり前か。
「そんなの関係ない。私はメリナ以下なの。森の傍の村の娘に負けたの。私はゾビアス家の恥さらし」
相変わらず、口の悪い。
悪気はないって知っているから流すわよ。
「メリナは、その実力を認められたのです。入って早々、自分の部長の頭に氷を刺せる人ですよ。相当の根性をお持ちなのです」
それには触れないで。反省しているから。
慰め言葉になってないわよ。
今日はオロ部長にお会いできなくて、まだ本人に謝罪も出来てないなぁ。
「私も薬師長の頭に木の枝でも刺せば貰えるの?」
どんな風習よ。巫女になりたい人はそこの長に何かを突き刺すって下克上にしても酷すぎるわよ。
溜め息を付きながら、マリールは続ける。
「ふぅ、まぁ、いいわ、メリナ。おめでとう。一人前の薬師には一年でも足りないのよ。だから、形式的に巫女服が配られるのは一年後って、今日聞いたの。最初から勝てない勝負だったってことね」
そっか、じゃあ、仕方ないわよね。勝負はお流れでいいわよ。
マリールも気を取り直したところで、私たちは水の入ったコップで乾杯をする。音を立てると回りから注意されそうなので、ちょっと浮かして前に出す感じで。
「そう言えば、メリナ。今日、本殿を何回もお駆けになられていませんでしたか?」
見られていた!?
えー、恥ずかしい。シェラ、見てしまったの?
開き直るしかない。
「そうです。修行です」
「そうなのですか? 先輩方の注意が少し向いておりましたから、私の方から説明しておきますね」
シェラぁ、ありがとう。ありがとう。
たぶん、蔑むような目で見られていたに違いないわ。だって、私の靴はアシュリンさんと違って、コツンコツン音が大きいんですもん。厳粛な本殿に私の出す音が響いていたのを覚えている。
アシュリンさんの靴は底が木じゃないんだろうな。私のはお父さん作。作りたての時は何かの魔物の皮みたいなものが底に張られていたけど、もう踵の所は磨り切れて底板が見えている。
シェラとかマリールの靴は何だろう。布製かな。色合いも豊かだし、軽そう。
「私の先輩も言ってたな。畑を何回も踏みつけた不埒ものがいたって。気付いたら足跡だらけだったっていうから、誰かは分からなかったらしいけどさ。それって、メリナ?」
「いえ、私は道しか走ってないです」
でも、アシュリンさんは確かに走っていたと思う。やっぱりダメだったのね、あのコースは。私だけでも避けていて良かったと思おう。
「そう。なら、やっぱり拝観者ね。どういうつもりなのかしら」
えぇ、巫女なのにどういうつもりなのかしら。叱り付けてやって下さいな。
「メリナだったら、今からお仕置部屋行きでしたね」
背後から、怖い声が聞こえた。
アデリーナ様だ。




