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一次試験結果

 テストを受けた部屋の前に各聖女候補の解答済み用紙が張り出されていました。右上には大きく赤字で採点も付けられておりまして、点数順に並んでいるようですね。


 早速、確認します。

 一番は……私では無いのですか……。

 全く、マイアさんも大した事が有りませんね。今回の問題はマイアさんの叡智からの出題ですのに、本人が間違えるなんて、情けなくてしょうがありませんよ。



 順番に見ていきましょう。一番はマクパルさんって言う知らない人です。満点ですね……。すごっ、こわっ。

 次点がイルゼさんか……。確か、私を嵌めようとアントンに絡んだ人ですよね。目的は許せませんが、アントンに難癖を付けようとしたことは評価して上げましょう。


 順番に目を動かします。四番はコリーさん!? えー、凄いです! あの難問たちを解けるのですか!


 私は思わず、コリーさんの解答を読む。

 あれ? そこは円周率の無理性についてだったと思うのですが、聖女の愛についてツラツラと書いてあります。



 ……問題が違うっ!? テスト中にうっすら思った、私だけ激ムズ問題疑惑が当たっていたのですか!



 怒りと共に、何だかホッとしました。私が皆さんより劣っているから解けなかった訳ではないのですね。良かったです。うん、私はバカではありません。

 少し、ほんの少ーしだけ、心に引っ掛かっていた刺が取れましたよ。爽快です。



 あっ。これ、一人ずつ問題が違うのですね。全く心配させやがってですよ。運要素が高めのテストだったんですね。

 いや…………配布する係りの人を上手く仕込めば不正し放題か……。私を嵌めたヤツがいる? 


 くっ、5番目はレイラ。こいつ、トイレで白髪のおっさんに答えを聞き終えていたか……。



 私の答案はどこだ?

 8番目までに入らないと聖女決定戦脱落です。コリーさんが昨日そう言っていましたよね。

 試験で落ちるなんて事は認めません!


 私は6番目、7番目へと、ゆっくり目を遣る。それから、更に速度を落として、8番目の紙へ。



 無いっ! 



  もう一度、1番目から見返しましたが、ないっ!!


 私、不合格ですか!!

 いえ、嫌がらせで剥がされた可能性が残っていますよね! きっと、そうです!



「……巫女殿の回答が見当たりませんね……」


 コ、コリーィイイ!! 貴様、私の心を深く深く抉って来たなっ!

 余りの屈辱のために、私が肩も頭も下げていると、横から別の声も聞こえてきました。


「うふふ、あら、聖女様の目も曇っていたのかしら。早く、その腕輪を返しなさいな」


 たぶんイルゼです。聞き覚えがあります。


「全く、あの程度の問題も解けない愚か者が聖女になろうとは世も末です。私が世直ししないといけませんわ」


 その後、キュッと足の甲を踏まれました……。



 ……ほう?

 宜しい。戦争です。今日で聖女とかいうマヌケな生き物は絶滅するのです。



 出し惜しみしませんからねっ!


『ガランガドーさん、お願いです。今から私の怨念を込めて、全力で全てを焼き尽くし、この地の全ての生物に苦痛を与えつつ滅ぼしてや――』



「メリナさん、さすがの解答で御座いました」


 クリスラの声が耳に響きました。貴様も、その気に障りまくりの皮肉もろとも灰になるが良いっ!


「聖女様っ! この娘があの素晴らしい解答を!?」


 ……素晴らしい?

 私は詠唱を止めます。

 


 顔を上げると、知らないおっさん達もわらわら涌いていました。痩せた感じでヒョロっとしたのが多いので、学者さんでしょうか。


「聖女様が直々に出題されたものをあなたにだけ配ったと聞いた時は、神聖なる聖女決定戦を穢す不正を糾弾するつもりでおりました……。しかし、あの解答は…………恐らく、断片で伝わるマイア様のお告げを解読するもの。ここに記載のエネルギーテンソルの用語はマイア様が仰った言葉として書物にありまして、今回、その数式が足されております。それでも、我らに理解できる内容ではありませんでしたが、知性の深淵を感じさせます。聖女様の唐突な推挙に納得を得るもので御座いました」


 何が言いたい? いえ、私が誉められてる感じがします。

 と言うことは……。


「学者が認めました。合格です。次戦も期待しています」


 !!


 私が期待した言葉をクリスラさんが厳かに言い放ちます。私だけでなく周囲にも聞こえるように。


 えー、やっぱり、そうでしょ。えー、分かっていましたよ。

 もぉ。危うくデュランの街を地図から消し去るくらいの勢いで魔法を発動しちゃおうかなとか考えちゃったじゃないですか。



 しかし、順位は8番目とのこと。マイアさん、しっかりして下さいよ。あなたを慕う方々に後れを取っておりますよ。失望されてしまいますよ、もう。


 うん、よく見たら8番目の所だけ紙がなく、ぼっかり空席になっていました。そこを飛ばして、9番目からまた貼り出されていました。



 あと、足をいつまで踏んでいるのでしょうか、イルゼさん。その行為は聖女候補としてどうなのですか。

 私が若干の殺意も込めて彼女を見ると、ビクリと体を震わされました。その拍子に足は外してくれました。



「しかし、解答が公開されておりません。聖女様、失礼ですが、この娘の解答は本当にその様な内容だったのですか?」


 イルゼさんは粘ります。


「解答についてはここにある。しかし、すぐに研究に取り掛かりたい。貼る時間も勿体ない。分かるか、小娘?」


 一番偉そうな服をした爺さんの懐から私の解答用紙が出してきました。丁寧に折り畳んでいたのを広げます。


「見せたところで、お前には理解できまい」


「くぅ……」


 私、思いました。今から研究と言っていたので、その偉そうなお爺さんにも理解できていないのではと。

 誰にも分からないのに正解で良いのでしょうか。


「イルゼ、お止しなさい。この第五問はマイア様が過去の聖女に問い掛けたものです。何代も聖女や学者を悩ませたのですよ。我々は今からこの数式を理解することで、よりマイア様に近付けるのです」


 あぁ、そこは凄いですよね。大きなカッコの中に昔の文字が縦横に何個も並んでいたりしますもの。それ、数式なんですか?

 でも、マイアさんが荒れていた時期に、聖女を困らせる為に意地悪でそんな事を訊いたのではと思います。



「……聖女様がそこまで言うならば従います……」


「えぇ、しかし、イルゼもよく頑張りました。2位とは本当に素晴らしい成績です。それに、真剣だからこその物言いだとも分かっております」


 一転してイルゼはクリスラさんの声掛けに嬉しそうでした。お辞儀をして去っていきます。



 代わって、レイラさんがクリスラさんに近付いて言います。


「畏れ多くも聖女様。そうであるなら、メリナ様が一位に、少なくとも私よりも高い順位でなくてはいけないのでは無いでしょうか?」


 クリスラさんは縦に首を振りました。


「レイラ、あなたからその様に他人を尊重する意見が出るとは正直思いませんでした。成長されたのですね。……あなたの考えも尤もです。それくらいの想いを私も抱きました。しかし、これをご覧になって下さい」


 クリスラさんは第一問の答えを指し示します。


「えっ! 問題文の語尾を丁寧語に修整!? 理由は生意気だから……」


「大切なテストで、第一問からこれは目を疑いますよね。もちろん、不正解です」


「カカカ。しかし、これだけの解答が出来る人間にそう指摘されると正解なのかもと感じましたぞ。それを聖女様は不正解と断じましたな。流石の決断力です。助かりました」


 学者さんの一人が笑いながら言いました。それに対して、クリスラさんは微妙な笑顔で応えました。


 私も早まらずに助かりましたよ。思わず、クリスラさんににっこりしてしまいます。

 

「メリナさん、ご自重をお願いしますよ。ここには王は居ませんよ」


 ……たぶん、この人、私の密かな魔法発動を感じ取っていましたね。そんなセリフです。



 その後、クリスラさんは合格された方にも不合格となられた方にも等しく声を掛けて行かれます。

 今日で脱落して聖女候補ではなくなった方も、候補になるだけの才能に恵まれているのです。これからも変わらずマイア様にお仕え下さいとクリスラさんは言っておられました。


 コリーさんはクリスラさんの登場以来、いつも以上にビシッと黙って立っておられました。

 この人は本当に聖女様を尊敬されているのですね。



 さて、聖女決定戦の続きは明日とのことでした。


 私は個室でゆっくりと体と頭を休めることにしました。今日はよく考えましたからね。自分にご褒美ですよ。

 メイドの人に依頼すると大体なんでも持ってきてくれます。ですので、今はフルーツ盛り合わせを頂いております。


 うーん、竜神殿より待遇良いです。私、大事にされている感を強く抱いております。

 このまま移籍というのも有りなのかもしれませんが、しかし、この地では聖竜様のお声が届いて来ないという最大の問題があります。

 うーん、聖竜様の雄化が終われば、次の願いは移住にしましょうかね。


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