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採点時間の様子

 採点時間と言うことで、私達、聖女候補は自由な時間を頂きました。中庭に出て、思い思いに過ごします。

 設置してあるベンチに座って読書をされている方が多いですね。皆さん、真面目です。


 私としては空腹を感じるので何かを食べたいと思っています。

 あぁ、アデリーナ様が懐かしい。小腹が空いたら、あの人の所へ向かえば良かったのですから。


 あっ、コリーさんを発見です!

 何かボケットに入っていないでしょうかね。



「コリーさん、どうでしたか?」


「お気遣い、ありがとうございます。全力は尽くしましたが、才女の誉れ高い方々と互角にとまでは行かないかもしれません。巫女殿は、どうでしたか?」


 ……マイアさんに全部解いてもらったなんて、このクソ真面目な方に告白しても良いのでしょうか? 呆れ果てられては、貰える食べ物も得られないと私は考えるのです。


「大変に難しい問題で御座いました。しかし、クリスラさんの顔に泥を塗る真似だけはしたくないと必死で御座いましたよ」


「そうですか。流石は巫女殿です。言葉とは違い、その声からは自信のほどが伺い知れますね」



 コリーさんはそこで周囲に人が居ないことを確認してから小声で続けます。


「……巫女殿。試験中に不正者を罰しに走ったのですね。私も魔力感知で確認しておりました」


 ……やはりコリーさんも使えたのですね、魔力感知を。牢屋で戦った時も、コッテン村の警備に行った時も的確に相手の気配を捉えていたので、そうではないかと思っておりました。


「罰するなど畏れ多いですよ。私はただトイレに行きたかったまでで御座います」


「何とご立派な……。ただ罰を与えるのではなく諭したので御座いましょう。彼女は私の前の席でしたが、戻って来るなり、涙を流していたのです。悔しさではなく、感動しているかの如く……」


 んー?

 何を感激する要素が合ったのですか……。喋るゴブリンがそんなにも好みだったとか? いえ、それは不味いです。それでは略奪愛になってしまいますよ、あの娘さん。

 


「そ、そうですか。それよりも、私、お腹が空きまして……コリーさん、何か持っていないですか?」


「残念ながら、手持ちは……あっ、有りますね。しかし、巫女殿の口に合うかどうか……」


「大丈夫です。すみませんが頂けませんか」


 私の願いをコリーさんは叶えてくれまして、腰の小さな鞄から四角い平べったい乾パンをくれました。アシュリンさんが魔物駆除殲滅部の小屋によく持って来ていたのと同種ですね。


 あっ、味は甘いです。ほんのり塩味かと思うと、生地が甘い。……デュランのお料理技術は本当に高いのですね。美味しいです。


「その簡易糧食は私の手作りですから、口に合わなければ、遠慮なく吐き出して下さい」


 いえ、そんな事はありません。コリーさん、良いお嫁さんになれますね……。相手がアントンでなければ宜しいのに。コリーさんさえ良ければ、私は全力でアントンの突然死を願いますよ、魔法的に。


「大変に美味しいです。お母様に教わったのですか?」


「……料理を学ぶ前に母は亡くなっております。それは孤児院の院長に習いました」


 ……おぉ、しまった。地雷を踏んでしまいましたか……。

 しかし、メリナ、頑張るのです。コリーさんを暗くしてはいけません。この人は下の毛がぼうぼうという大変なトラブルも抱えているのですよ。



「その方も素敵な人だったので御座いましょうね」


「えぇ、それはもちろん」


 コリーさん、笑顔になりました。珍しいです。でも、良かった。何とか場を繋げる事が出来ましたよ。



 コリーさんの背後から誰かがやって来ました。視線を移すと、そこにいたのは、さっきの泣いていたという、不正をしていた娘さんです。

 改めて見ると、彼女も良い服を着てますね。私のゾビアス商店製の物よりも良さげです。ボタンとか金色ですもの。ロングスカートなのは戦闘に向かないと思いますが。


「メ、メリナ様……。少しお時間は宜しいでしょうか……?」


「はい」


 敵対心は見えません。むしろ、怯えかな。そんな感情が目に露となっております。

 トイレのドアを蹴破りましたものね。当然だと思います。



「そちらの赤毛の方は外して貰っても良いでしょうか……」


「はっ。了解です」


 コリーさんがお仕事モードで答えます。襟元に紋章が付いていますので、目の前の方はどこかの貴族様なのかもしれませんね。


「コリーさん、良いですよ。傍にいて下さい。あなたも構いませんよね?」


 なぜなら、まだお腹は満たされていないから。見失っても魔力感知でどこにいるか瞬時に分かりますが、コリーさんは私の手の届く所にいて下さい。



 私の言葉に従い、貴族っぽい人は頷きました。まずは自己紹介で、お名前はレイラさんと呼ばれました。うん、確かにそんな名前でしたね。


 それから、私の前で跪かれます。


「あぁ、メリナ様……。私はあなたとの禁を破り、ここで死を迎えましょう。私をマイア様の下へ導いて下さった事に感謝致します。あの像を敬わなかった理由も本人とは似ても似つかないからだったのだと、今は思えます……。私の節穴をお許しくださいませ……」


 や、やめて下さい。周囲の目が有るのですよ。這いつくばって泣いて、小声で何かを言っている人にしか見えないです。見ようによっては、私が意地悪してるみたいでしょ!


「メリナ様、あぁ、マイア様の再来なのかもしれません……。子音と母音が奇妙な程に似通っております。きっと、そうなのです。聖女様もそれをお知りなのですね」


 ほ、ほら。静かに本を読んでいた方々も視線をこっちに持ってきていますから! このデュランは私と聖竜様の安住の地となるのです。だから、変な噂は立てたくありません。


 私は慌てて手を取って、物陰へとレイラを連れていきました。



 ふぅ。何とか騒ぎにはなりませんでしたね。

 私が安心していると、レイラは自分の手を見続けています。


「私、このメリナ様の温もりを忘れません。一生、体を洗いませんわ!」


 何たる宣言ですか。私、デュランを諦めても良いのではと思うくらいに、レイラが気持ち悪いです。


 コリーさんも見兼ねたのでしょう。説得に入ってくれます。


「レイラ様、あなたの感動は理解します。しかし、マイア様の件は秘密なのです。口外はなされませんようにお願い致します。また、巫女殿との禁とはマイア様の復活の件かと思いますが、私も存じておりますので、ご安心下さい」


「そ、そうですよ、レイラ。だから、体をお洗い下さい。それが、あなたへの罰とお考えになっても宜しいです」


 女の子は綺麗好きであるべきですよ。レイラは頭は悪いですが、性根は私を慕う良い娘です。不幸にはなって欲しくないのです。



 そんな時、唐突に鐘が鳴り響きました。


「巫女殿……恐らくは採点結果が出たものと思われます」


 コリーさんも声色からすると緊張されているご様子です。やはり、内心は聖女になることに憧れていたのですね。可愛らしいです、コリーさん。

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