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授与式

 聖女決定戦、それは、聖女候補同士が勝ち抜きバトルで対決する、何とも愚かな大会です。コリーさんが教えてくれました。

 何でも有力な聖女候補が複数現れ、貴族様の会合で一人に決められなかった場合に催す大会との事です。


 聖女を選ぶのは侯爵家の一族です。本家や分家の概念はあっても、その侯爵の地位自体は直系子孫へ継がれる訳でなく、コリーさんから先程に聞いた通り、聖女を見出だした家に与えられます。つまり、聖女の選考は侯爵の選考にも繋りますので、聖女を選ぶ過程はグチャグチャの権力抗争に成りやすいのです。


 多数派工作に失敗して揉めに揉めた場合に、候補を一本化するために決められたのが、この聖女決定戦です。リンシャルによる裁許だと必ず犠牲者が出ますので、それを防ぐための仕組みです。

 有力者の愛娘が聖女候補の場合によく実施されるそうです。


 でも、その名前を考えた人はおバカさんだと思います。



「後腐れなくて宜しいでしょう?」


「いえ、聖女様。聖女決定戦は、対戦相手を貶める為に、様々な裏工作がなされると聞いた事があります。それが後々まで侯爵様の一族間の(わだかま)りとなるが為に、リンシャル様の裁許を行うのが通常だと思うのです」


 クリスラさんはコリーさんに微笑まれます。


「大丈夫ですよ。私が選んだ未来の聖女様は、そんな物に影響されません。リンシャル様を従えたのですよ」


「……」


 コリーさんはまだ納得しきれていない様子です。


「あぁ、そうか。そいつの異常な戦闘力を見せ付ければ、ちょっかいも減るだろうな」


 代わりにアントンが言い、更に続けます。


「うむ、聖女様のご提案に乗ろうか。そうすれば、先程の様な未熟な候補者からのあからさまな嫌がらせも表向きは減るであろう」


 先程、アントンが絡まれていた件も私の失敗を狙った聖女候補らの企みだったと言います。ただイルゼさんも幼い時から武芸を修練しているとは言え、私が何をしたかまでは捉えきれなかったようですね。



「コリーも出ておけ」


「ア、アントン様。我らは巫女殿を聖女にすべく戻ってきたのですよ」


「良い。あの王族にとっては影響力がデュランに及ぶようになれば満足だろう。俺がコリーの推薦者になろう。飛び入りみたいだが構わんだろうさ」


 戸惑うコリーさんでしたが、クリスラさんも頷きます。


「しかし、巫女殿は?」


「目の前の聖女様が推薦しているだろ?」


「そういう事ですよ。私も侯爵家の一員で御座いますから」


「コリーさんも出られると言うことは、私と戦うのですか?」


 私、びっくりしました。良いのでしょうか。


「ふん、怖じ気づいたか、ぐうたら巫女よ」


「私と戦うのですよ? 私、コリーさん程の方なら、手加減出来ないと思います。良いのですか、コリーさん?」


「ご命令ですから。申し訳ありません、巫女殿」



 ふぅむ、参加するべきなのでしょうか。戦いとなると情を棄てないとなりません。それに、私、王都でパン作りの修行をしないといけないんです。


 その為にも一刻も早く、王都に乗り込みたいのです。コリーさんと死闘を繰り広げる場合では無いのです。



「メリナさん、しばらくはデュランに滞在ください。ここの料理が口に合えば宜しいのですが」


 ……アントンが船上で作った魚肉の団子みたいなの、良い匂いでした。コリーさんが全部食べて、私は口に入れられませんでした。

 しかし、あれはアントンの料理。美味しかったとしても、私はその感覚がおぞましくて自己嫌悪していたかもしれません。


 ところが、アントンではない誰かが調理したものならば、私は一片の曇りもなく、デュランの料理達を楽しめるのですっ!


「はい。分かりました」


 一片の迷いもない私の回答にクリスラさんは満足されたようです。




 その夜、腕輪の授与式が開催されました。既に私の腕にそれは填まっておりますので、大広間の前に出て高々と集まった人達に見せるのです。

 立派な服を着ている人達がいっぱいです。シャールの謁見式の夜会よりも派手な人が多い気がします。

 なお、料理は有りません。


 大広間の奥にいる私の傍には常にクリスラさんがいまして、リンシャルへの感謝の言葉やら、デュランの栄光やら、そんな言葉をブツブツ言っていました。そういう儀式なのでしょう。

 たまに、瓶から出した粉や液体まで掛けられましたよ。こちらの宗教は野蛮です。



 観衆に背を向けると、リンシャルとマイアさんと思われる大きな像が一段高い所に置かれています。この大広間の最奥にありますので、これらの像がデュランの大切な物だと思われます。

 竜神殿の本殿に鎮座なされている聖竜様の巨像と比べると、うふふ、小さいです。

 やはり聖竜様の方が偉大ですものね。所詮、マイアさんも聖竜様の従者、そして、リンシャルは彼女の精霊に過ぎませんもの。


 あと、マイアさんは実物と全く似ていません。リンシャルもあの気持ち悪い、目だらけの頭でなくて普通の狐です。せめて、リンシャルちゃんみたいな小さくてモフモフなら、私も微笑みましたよ。


 気付けば、クリスラさんは二つの像に向けて、礼をしていました。

 私も遅れてはしまいましたが、一応、頭を下げようとしました。その時です。


 後方の観衆の中から声が上がりました。



「聖女としての資質に異議有りっ!!」


 野太いその声は静かだった大広間に響きます。


「その娘からはマイア様とリンシャル様に対する敬意が感じられない!」


 えぇ、むしろ、両方とも殺意をぶつけたものです。


「腕輪の授与は聖女の定めなれど、次代聖女の選定は侯爵家一同の権利である!」



 クリスラさんはゆっくりと振り返ります。私も同じく声の主を見る。



「当代の聖女は各家が幼少より選抜した聖女候補を資質無しと見定めたが、我らはその娘こそ資質は皆無と判断する!」


 おぉ、すごい。金色の刺繍がいっぱいの服装ですよ。とても派手。ゾビアス商店でも売ってなさそうな高価な服に思えます。ただ、私の趣味ではないので要りませんね。



「分かりました。リンシャル様による裁許をお望みですか?」


 クリスラさんは厳かに言います。最初に会った時のように平坦な物言いです。お仕事モードなのでしょうか。更に彼女は続けます。


「しかし、裁許によって戻らぬ者が出るのは教徒の悲哀ともなるでしょう。私が認めた、このノノン村のメリナをあなた方もお認めになって頂けませんでしょうか」


 クリスラさん、発言者は一人なのに『あなた方』と表現しました。聞いていた通り、不満を持たれている方が多数なのですね。


 あと、「どこの馬の骨だよ」的な言葉が方々から聞こえました。シャールでさえノノン村の知名度は有りませんでしたから、遠いデュランでは尚更ですね。



「聖女を目指す者が、その様な恐れをはね除けられないはずがなかろう!」


「ですが、私の目に狂いは御座いません。このメリナは誰よりも聖女に相応しい。その真実はリンシャル様も、また、深淵に身を置かれたマイア様も允許(いんきょ)なされるでしょう。親愛なる皆様も、このメリナを(うべな)うべきなのです」


「リンシャル様に捧げた両目を返されるとは、クリスラ、貴様は聖女として失格の烙印を下されたのではあるまいな!」


 クリスラさん、流石にその言葉には眉がピクリとされました。私が聖竜様を貶されるのと同じ様な気持ちになられたと思います。


「宜しい。では、このメリナの神秘なる力を存分にお知りになられれば良いのです。私は聖女決定戦の開催を宣言します」


 クリスラさんの言葉に会場がどよめきました。それが収まるのを待って、クリスラさんが言います。


「我こそとは思う者よ。前に出なさい」



 ずらっと女の子が並びます。20人前後かな。端っこにはコリーさんもいます。聖女様を見ておられますが、アントンの方を少し向いたり、居心地は悪そうです。


 あと、イルゼさんもいらっしゃいました。中央に陣取っておられまして、私を睨み付けてきます。



 さぁ、さっさっとやりましょう。気は進みませんが仕方有りません。コリーさんも覚悟の上です。今からは戦場で相対するのです。



「クリスラさん、もう順番に殺して行って宜しいのですか?」


「ん?」


 クリスラさん、真顔で私を見てきました。

 その雰囲気、殺し合いではないのでしたか……。


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