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服の申請書

 約束通り、アシュリンさんの服を干す。隣の私の服と比べると、決して太い訳ではないけど、大柄なのがよく分かる。私より頭二つくらい背が高いんじゃないかしら。



 高いと言えば、さっきの駆けっこで見た、スードワット様の御像、凄かったな。勝負事の最中だったから余り拝めなかったけど、聖なるオーラが、こうビンビンと感じられた気がした。

 ……本当は何も感じなかったけど、感じたと思っておこう。巫女見習いだし。



 干し終えて部屋に戻ると、アシュリンさんが書類を書き書きしていた。そういった事務仕事もするのね。意外だわ。


「ご苦労。明日は服を買いに行くぞっ!」


 なんと!?

 もしかして、アレですか、私の黒い巫女服を買って貰えるのですか。


「この紙に名前を書け」


 ぐいっと、アシュリンさんがペラペラの一枚を私に突き出す。


「巫女服の申請書だ。サイズは明日測るが、神殿から金を貰わんといかん」


 アシュリンさんから手渡された書類には、私が神殿に来た日とか、寮の部屋番号とか、部署名とか、そんな項目が並んでいた。アシュリンさんはそういった細目に丁寧に書き込んでくれていた。体と違って文字が小さいのが可愛い。


「ここな。ここに名前を書くんだ。自筆が必要なんだ」


 トントンと指で示してくれる。


 優しいじゃない、アシュリン!

 トンだ筋肉バカとばかりに思ってたわよ。


 私はペンを借りて記入する。

 メリナっと。貴族じゃないから、それで終わり。たぶん、シェラなら、その後ろにも長い家の名前が続くんだろうな。


「メリナ、家名の代わりに『ノノン村のメリナ』と書いておけ。どのメリナか分からなくなる」


 何かカッコ悪いな。

 田舎者、丸出しじゃない。


「他にも同じ名前の方がいらっしゃるのですか?」


「神殿にはいない。しかし、どこかでくたばった時に、村名まであれば発見者が直接、村に報告してくれるだろうからな」


 なんて、名前の使い方よ。

 くたばる前提じゃないでしょうね。


「そんなの入れたくないです」


「戦士とはそういうものだっ!」


「巫女です。アシュリンさんも巫女です」


 私の言葉にアシュリンさんは少しの間、押し黙る。それから、真剣な顔で私に言ってきた。

 


「では、貴様が巫女戦士なのか、戦士巫女なのかについて議論しよう」


 えっ?

 案外細かいし、どうでも良さそうな話題なんですけど。道端に落ちてる虫の死骸ほども興味ありませんのだけど。



「……それに何か意味がお有りなんですか、アシュリンさん?」


「もちろんだっ!メリナ、組織ではちょっとした言葉の捉え違いで大きな過ちを生んでしまうこともままあるのだっ!」


 でも、組織って我々二人しかいないんじゃないかな。巫女が前か、戦士が前かでそんなに違いはないように思うし。


「私は巫女戦士だと思うっ! メリナはどうだ?」


 始まったの?

 凄く不毛で無意味な論争が。

 副神殿長からの眼鏡話の方がまだタメになるわよ。


「じゃ、巫女戦士で」


 始まる前から終えてあげるわ。

 アシュリン、バカね。



「お前が本当に巫女戦士なのかどうかを二人で考えようとしているのだっ! ディベートすることで確かめたい! だから、メリナは戦士巫女派な」


 どう議論するのよ!

 私はどっちでも全く思い入れがないわよっ! 正確には、どっちも今初めて聞いた単語なのよ。


「巫女の心を持った戦士が巫女戦士だっ!メリナ、貴様がそうだなっ!」


 全身全霊で拒絶よ。でも、角が立たないようにやんわりと。


「アシュリンさんは戦士って感じですね。私はそこまでではないので、巫女でいいです。只の巫女です」


「いや、私にはメリナの様な闘争心がない。お前も戦士だ」


 いえ、あなたにも有ったでしょ。私の頬を不意打ちした、あの負けず嫌いさを忘れてないわよ。


「百歩譲って、私が巫女戦士だと言い放つのであれば、まだ戦士巫女の方がマシです」


 戦士みたいな巫女までが私の許容範囲とした。どっちも大差ないけど。


「戦士巫女とは何だと思うか?」


 ちょっと、ほんと今、この部屋に誰も来ないで欲しい。この人の仲間だと思われてしまうわ。


「知りません。戦う巫女さんでしょうか。でも、戦闘巫女とか戦巫女とかの方がしっくり来ますね」


「そうだな。それは気付かなかった」


 いや、普通はこんな言葉を思い浮かべないから。気付く必要がないでしょ。


「逆に、巫女戦士とはどんなものなんですか?」


「巫女を隠れ蓑にした戦士だ」


「どうして、巫女を隠れ蓑に?」


「知らん。自分で考えろ」


 あんたが巫女戦士派なんでしょうが。敵対派閥に訊かないでよ。いや、別に敵対はしてないか。


 

 一刻ほど議論を尽くした。

 結論として、戦士巫女がアシュリンさんで、巫女戦士が私になった。

 決定的だったのは、私が見習いってこと。

 納得行かないけど、別にいいわ。アシュリンさん、明日には忘れてそうだし。



「では、メリナの職業は『竜の巫女戦士』ってことで書いておくな」


 満面の笑みで言わないでよ!

 私はアシュリンの手を慌てて止めた。

巫女戦士という単語の先例がないか調べたのですが、まさかの18禁でした笑

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