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笑みが自然と

 あれから一週間が経ちました。

 クリスラさんによる王都陣営の説得、巫女長とエルバ部長によるシャール伯爵のロクサーナとの面談により、展開していた両方の軍が撤退したのでした。


 そのため、私達もコッテン村からシャールに戻って参りました。



 それにしてもカッヘルさんには悪いことをしました。アドバイスした次の日に広場から絶叫が聞こえると思ったら、前日の様に四つん這いになっていたカッヘルさんですが、手足に光る矢が刺されて、地に縫い付けられた姿でいました。即座に矢を抜いて回復魔法で治療しましたが、アレは殺す気でしたね、アデリーナ様は。

 カッヘルさんの魔力がドンドン外に抜けていましたもの。乾涸びるのかと思いましたよ。


 回復しても凄く怯えていたカッヘルさんは私とも目を合わせてくれませんでした。


 その後、私も説教されましたのです。大声でアデリーナ様に罵倒されました。「私がカッヘルをヨシヨシするとでも思ったのか!?」と。それはそれで愉快な図が見れたのに残念でした。

 なお、ふーみゃんのゲットはなりませんでした。


 カッヘルさん達の部隊は軍に戻り辛いということで、アデリーナ様はコッテン村での滞在を許しています。恐らく、最初からそのつもりだったんだと思います。アデリーナ様は私兵をゲットされたのです。



 内乱は正式には終結していません。エルバ部長曰く、これから両者で落とし所を探ってからとの事でした。「フローレンスも忙しくなるな」と仰っていました。巫女長は使者として王都へ向かう一団に組み込まれていました。

 巫女長の見送りの際に「メリナさん、聖竜様へと続く道の探索は帰ってからね」と仰られました。

 私は曖昧に頷きました。巫女長が本当に聖竜様の所へ到着されると、頑張って雄化魔法を習得中の聖竜様のお邪魔になるかもしれません。だから、転移魔法を使えるルッカさんの事もお伝えしませんでした。申し訳御座いません、巫女長様。



 そんなこんなで、私は寮の部屋に独りでいます。今、戻って来たばかりです。

 同室のはずのルッカさんは、シャールに入る前にどこかへ飛んでいきました。あいつもアシュリンさん並みに自由人ですね。魔物駆除殲滅部の問題児達ですよ。


 

 しかし、私には彼女に構っている暇は有りません。ベッドの上にうつ伏せになって至福の時間を過ごさないといけないのですから。


 右側には金貨の山があります。ジャラジャラとかき混ぜて音を楽しみ、手についた金属の匂いを嗅ぎます。

 次に左手を伸ばして、床に置いた靴を手に取ります。そして、鼻に近付けて芳ばしい香りを堪能します。


 ぐふ、ぐふふ。何たる幸福なのでしょう。こうなんて言うか欲望が刺激されます。……いえ、淑女の私に相応しく表現すると、両手に花でしょうか。何か違いますね。

 とりあえず、笑みが自然と溢れます。テンションが高まります。



 そんな時に扉が開かれました。


「信じられない。また靴を嗅いでるんだ。変態だわ」


 ……マリールか。


「久々ですね。お元気でしたか?」


「……平気な顔で挨拶しないでよ。早く鼻から靴を離しなさいよ」


 うっかりしていました。


「それから、成金みたいに金貨で遊ばない。街の人は聖衣の巫女様がこんな変態だったなんて思ってもないわよ」


「……変態はマリールですよ。毎朝の乳揉みは独りの時にすべきです……」


「あぁ!? ……まぁ、何にしろお疲れ様」


 一瞬、怒りの顔を見せたマリールでしたが、ご自分のベッドへと向かわれました。


「店の者から聞いたわよ、戦争は回避されたんだってね」


 耳が速いです、ゾビアス商店。あんまりよく分かっていませんが、情報網もしっかりしたお店なのでしょう。


「で、メリナ、あんた、王都に行くの?」


「はい」


「……巫女はどうするのよ?」


「しばらくお休みです。でも、巫女は続けます」


 そうは言いつつ、私、そもそも巫女らしい事を一切しておりません。日付を確認しましたが、今日で神殿に入って丁度50日目ですよ! なのに、一度もお祈りとかしてないんです。


「そんな勝手が通じるとでも?」


「大丈夫です。巫女長だとか副神殿長だとかアデリーナ様とか部長とか、皆、頼めば許してくれると思うんです」


「……偉いさんに好かれて羨ましいこと。じゃあ、大丈夫なのかしらね」



 マリールが呆れた顔をしたタイミングで、扉がノックされました。この品の良い音はシェラですね。


「メリナ! ご無事で何よりです」


 そう言うとシェラは静かに私に近寄り、両手を私の背中に回して抱擁してくれました。胸がムギュゥってなってます。彼女のですよ。



 夕食の時も三人一緒です。何だか久々の日常で、私、嬉しいです。もしも王都に攻め込まれていたら、こんな生活は出来なかったかもしれません。今更気付きましたが、私はこれを守ったことに感慨深くなりました。あと、肉汁いっぱいのステーキが美味しいです。



「メリナが無事で何よりです」


「シェラ、あんたのお父様は心配しないの?」


 マリールが言う通りです。そう言えば、どこに行かれたのでしょうね。謁見式の際もお会い出来ておりません。


「心配ではあるのですが、一切、音沙汰が有りませんので自らでどこかに行かれているのかもしれません」


「……メリナ、アデリーナ様が……その殺ってる可能性は?」


 マリール、核心を突いて来ますね。私、それは有り得ると思ってました。



 その時、マリールの背後に影が見えました。ヤツか!?


「人聞きが悪いですよ、マリールさん。私は無駄な殺生は致しません。誤解が甚だしいです。ご注意下さい」


 無駄でなければされるのですね……。


 アデリーナ様の声色にマリールはビクリと体を跳ねました。

 振り返ったマリールと視線が合ったはずなのに何も反応もせずにアデリーナ様は去っていきました。驚いたままのマリールは謝罪の言葉も発することができません。



 急に食卓は重苦しくなりまして、私達は皿を空にすると、その場でゆっくりする事もなく部屋と戻りました。全く罪な女ですよ、あいつは。



 三人とも自分のベッドに腰掛けて話の続きをします。

 なお、ルッカさんはまだ帰って来ていませんでした。どこをほっつき歩いているので御座いましょうか。いえ、ほっつき翔んでいるので御座いましょうか。戻って来たら、先輩としてお仕置きですよ。アデリーナ様にチクってやります。



「そっか、シェラもお父さんがどこに居るのか知らないのね。メリナは知ってる?」


「いえ、謁見式でも見ていないのです」


「ん? 私は謁見式でメリナが伯爵、いえ、前伯爵のシェラのお父さんを、その、皆の前で(ひざまず)かせたと聞いてるわよ。……ごめんね、シェラ」


 えっ、となると、あの眠りから覚めた時に目の前にいたマントの人ですか。

 うわぁ、シェラに悪い事をしちゃったなぁ。


「いえ、大丈夫ですよ、マリール。父がその行動を選択したのですから」


 シェラは本当に立派です。でも、私の父が土下座したとしても、私も同じ反応だったかもしれません。むしろ笑えます。


「ただ、家族ですので、お会いして無事を確認したい気持ちは御座います」


 慈愛ね。シェラ、あなたのその豊満な胸には愛が詰まっているのよ。マリールは残念でした。他の部分に詰まることを期待しましょう。


 前の伯爵様が居なくなられた責任が、私にもちょびっとだけある様な気がしました。主にはアデリーナ様だと思いますがね。謁見式で何か偉そうに喋っていたし。



 シェラの為に一肌脱ぎましょう!

 私は試すのです。クリスラさんから頂いた、この転移の腕輪を。

 目前で手を合わせる。クリスラさんが術作動の時にそうしていたから。目は閉じた方が良いのかしら。よく分かりませんが、私は祈る。



『シェラのお父さんの下へ。この部屋の三人で向かいたいのです。宜しくお願いします』


 あぁ、私の魔力が少しばかり腕輪に吸われて、魔法が発動するのが分かりました。



 で、気が付くと、知らないおっさんが安楽椅子に座っている部屋に私達は立っていました。

 おっさんはゆらゆら揺られております。気持ち良さそうで、よく見たら眠っておられますね。


 ご立派な髭を生やしておられますので、恐らく、この方がシェラのお父様でしょう。


 成功です!

 私、転移魔法を使えるようになりました。良かったです。これで、アデリーナ様に処刑されなくて済みます!


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