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ロマンチシズム

 改めて聖竜様は円らな目で私を見詰められました。うるうるしている感じがします。私もすぐ傍の聖竜様の横顔をじっくり味わいます。



『……その腕輪、どうしたのだ?』


 私がクリスラさんから譲られた腕輪の事ですね。


「リンシャルちゃんがくれた鍵との交換で聖女様から頂きました」


『鍵? それは何であるか?』


「リンシャルちゃんが消える直前に渡してくれたものです。狐の目が付いた鍵でした」


『……ふむ。精霊の宝具か……』


 聖竜様から精霊の宝具について教えて貰いました。私は知らないとは言っていないのですが、聖竜様はお優しくて、私の心内を読んで説明してくれたのです。


 精霊は魔力が集まって意思を持った存在です。人の世には姿を現しませんが、人や魔物などに頼られると力を貸してくれる事があります。それが魔法ですね。


 精霊は魔力が集まって形成されているので、その魔力がなくなると消滅します。その寿命はマチマチなのですが、強大な精霊ほど基本的には長生きなのです。

 

 ところが、精霊自身が早く消滅したいと願った時には、自分の魔力を物に変えて魔力消費を早める事があります。


 そうして出来たものが精霊の宝具。


 魔力がたっぷりと、と言うか、魔力100%のそれは人間が作る道具なんか遥かに凌ぐ魔法的効果を発揮するそうです。


 リンシャルちゃんは居なくなってしまいましたが、マイアさんを信仰するのと同じくらいリンシャルちゃんを信じていたクリスラさんには良い贈り物になったかなと思いました。効果の内容は若干気になりますが、私の物ではないので、クリスラさんと会うことがあれば聞くくらいにしておきましょう。



『ならば、その腕輪は我が託した物か……』


 あっ、クリスラさんが言っていたように聖竜様からのプレゼントでしたか、これ。嬉しいです。違うかと思っていただけに殊更で御座います。

 廻り廻って、永遠に装着すべき私の元へやって来たのですね。


 うふふ。撫で回しますよ。一人になったらベロベロ舐め回したいです。あぁ、でも、それって長く身に付けていたクリスラさんの肌を舐めているみたいでダメですね。むしろ禁忌な行為だと思います。残念です。



「この腕輪は転移の腕輪ですよね?」


『う、うーん……。気軽に使ってはならんぞ。分かったか?』


 使い方が不明なのですよね。でも、その内に何とかなるでしょう。


「はい。分かりました。気軽には使いません。覚悟して、毎日、聖竜様の下へ向かいますね」


『ダメです』


「何故ですかっ!?」


『安眠出来ないからです。怖いからです。毎日来たら、メリナの事を嫌いになります』


 !!

 そ、それは…………。

 こっそりと転移して物陰から覗き続ける事もダメなのでしょうか……。あと、「嫌いになる」と言うことは、今は嫌いでなく好きなのですね。相思相愛を確かめられました。


 しかし、この先は絶望しか有りませんよ。こんな便利で素敵な道具があるのに、有効活用できないなんて、私が我慢できるはずがないのです。結果、聖竜様に嫌われる未来しか見えません!


 そこらを聖竜様もお分かりだったのかもしれません。


『但し、我が以前に使用していた住み処に転移することは許可しよう。我が残し置いた物もマイア救出の褒美とするぞ』


 しかし、私は自分の理性を疑っております。暇さえあれば、ここに転移したくてしたくて堪らなくなって、それに負けて、天井に張り付いてでも聖竜様を観察してしまうのではないでしょうか。



「そこがさっきワットちゃんが言っていた、私達の新しい家になるのね」


 後ろからマイアさんの声がしました。お二人だけの時にお話されたのでしょう。


『そうである。この迷宮を拡張する前に使っていた我の居室である』


 ここまで続いているのならば、そこを拠点にここまで来ることも可能か……。


「了解。ワットちゃん、もう話も終わっただろうから中に入らせて貰うわよ」


 マイアさんは律儀です。扉がなくなっているので、様子も伺えるし、会話も出来る状態ですが、部屋には入らずの状態でしたから。あぁ、ルッカもそうですね。



「うんうん、こんな術式なのね。繊細だけど、設計の癖からするとフォビの作製かな」


 マイアさんは私の腕輪を見ながら言います。外観ではなく腕輪内部の魔力経路とかを確認している様です。


「リンシャルがいなくなったから強い魔法は使えないかもしれませんが」


 なんて言いながら、マイアさんは魔力を操作しています。


「よし! これで、この場への転移は出来なくなりましたよ」


『おぉ、感謝するぞ、マイア』


 聖竜様……。それほどまでに安眠が大切なので御座いますか!? 私と睡眠欲を比べて、そちらを取られたので御座いますか!?


 しかし、私にとっても良いことだと思います。これで私も思い悩まなくて済むのです。

 マイアさんは本当に私の事を想ってくれています。その背後にいる淫乱胸見せおばさんとは違いますね。



『それでは、その部屋まで送るとしよう』


 聖竜様が尻尾を振る素振りを見せられました。魔法の発動ですね。

 私は大変に失礼ながら、聖竜様をお止めします。


『どうした、メリナよ?』


「いつまでに雄化していますか?」


『……え……。まずは魔法を覚えて、かな』


 私は部屋に充満していた白い魔力を操作する。そして、マイアさん達と出会った浄火の間で何回もしたように聖竜様の形になるように調整する。

 すぐそばに本当の聖竜様がいらっしゃるので、あの時よりも簡単で御座います。


 が、私が作ったものは完成と同時に消え去りました。目が動いたように見えたんだけどなぁ。



『な、何、今の?』


「聖竜様を作ってみました。雄竜の陰部をよく知りませんので、不完全だったのでしょうか」


 なお、雌の竜の陰部もよく分かっていません。浄火の間ではレオン君と一緒に手当たり次第に蛇を解剖して遊んだ時の記憶で想像していました。


「この様に私では聖竜様の雄化をお助け出来ません。どうかお許し下さい」


 沈黙が走ります。


『そ、そうか。数日前に何度もメリナの幻覚を見るからおかしいって思っていたら……。召喚魔法みたいなものかな…………。許して欲しいのはこっちだよ……』


 聖竜様は私から離れて、いつもの部屋の奥に移動されました。


『ごほん。メリナよ、今からその魔法は禁術にする! 二度と使用してはならん。次に使用した場合は貴様を殺してでも止めざるを得ない。分かったか?』


 あぁ、何たる愚かな私……。

 聖竜様に「私を殺す」などと言わせるなんて……。


 ……ちょっと、それも何だかアリだななんて思ってしまいました。愛される者に殺される、悲恋的なロマンチシズムを感じました。


 そんな気持ちで身悶えている間に、聖竜様は私達を転送させました。


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