三日目の朝
「ひゃっ!」
短い悲鳴で私は目を覚ます。
朝っぱらから何よ。眠い目を擦りながら、私は聞こえた方向を見る。
あぁ。
昨日と同じく、マリールがシェラの胸をモミモミしていたのね。全く、その大地の恵みを充満させたような豊かな双山には良い気味だわ。
「何なのですか? マリールは私に何か思うところがお有りなのですか?」
昨日に引き続いて、また下着姿で床に腰を着いているシェラが訴える。
「人は自分に無いものに憧れるのよ」
私はベッドから出つつシェラに声をかける。
「そうよ。その小生意気なものを見せ付けられたら、するしかないじゃない」
「でも、皆様がお眠りの時間を見計らって着替えをしていたのですよ」
「いいじゃない。減るもんでも無し」
マリールが手を閉じ開きしながら言うものだから、シェラは片腕で胸を隠す。
「そうですが、メリナも大きいでしょうに」
えっ、私?
マリールの目が私に向かう。
「言われてみれば、そうね。メリナ、ちょっと脱ぎなさい、脱げ」
やだよ。
その隙に、シェラが素早く新しい巫女服を頭から被って身に付けた。
「私、シェラほど大きくないよ」
なのに、ちょっとマリール近付かないでよ。そんな眼で私を狙わないで。野獣より怖いわよ。
……シェラ、うまく逃げたわね。
「メリナは着替えないから分からなかったわね。どれ、マリール様に見せなさい」
寄るな、マリール。ジリジリ寄ってくるな。
「マリール、お姉さまに聞いたことがあります。毎日、マッサージすることで大きく成長するのです」
えっ、そうなの!?
思わず、胸に手をやる私。
しまった!敵から目を反らしてしまったわ!
良かった。マリールも自分の胸を触っていた。しかも、ワサワサと。
私もモミ、モミとした方がいいのかしら。
ガチャリと音がして、シェラが扉の向こうに行くのに気付くまで、二人で無言で揉んでいた。
いつもの魔物駆除殲滅部の部屋に入ると、アシュリンさんが仁王立ちしていた。
「遅いぞっ!メリナ!何をしていた!」
「すみません、朝から胸を揉んでいたら、時間に気付きませんでした」
「大胸筋のストレッチかっ!? なるほど、朝からの鍛練だなっ!」
そういう事にしておいて下さい。
私は空いている椅子に腰掛ける。
「昨日、オロ部長よりメリナに対して命令書がきたっ!」
部長から?
牙を折った意趣返しとかじゃなければ良いのだけど。
部長、すみません。
「持久力を鍛えるようにとのことであるっ!」
私とアシュリンさんは外に出ている。
「では、メリナっ!あの建屋が見えるか?」
アシュリンさんは、遠くにある一際大きい建物を指差す。
「はい」
「あれは本殿である。聖竜の像が飾ってあるっ!」
「聖竜『様』です。鎮座なされているのです」
私の指摘にアシュリンさんは頭を掻く。
「細かいな。まぁ、それで良い」
それで良いですって?
貴様、もう一度殴り合います?
「聖竜……様の像にタッチして早く戻って来た方の勝ちだっ!」
アシュリンさんと勝負するのか。
それよりも、ついにスードワット様の御聖像をお目にする事が出来るのね。
とても嬉しいです。久々にお会いしますね、スードワット様。
「負けたら何かあるのですか?」
「今日の洗濯当番だっ!」
勝ちたい。ゴシゴシするの、めんどいわ。
「受けました」
「よし。でもな、メリナ、お前は新人なんだから、よしんば勝っても洗濯当番を志願すべきだっ!」
「そのような思考回路は持ち合わせていません」
「そんな根性では立派な巫女になれんぞっ!」
ぐっ。だって二人しかいないんだもんね。
当番もクソもないわ。あっ、クソなんて端たない。へったくれもない? とても違う気がする。
私が怯んだ上に悩んでいる間にアシュリンさんが続ける。
「今からな。スタートだっ!」
あの人はダッシュした。
汚い。とても汚いわ。
そして、速い!
えぇ、大差で負けました。10回くらいやって一度も勝てなかったよ。
子供みたいなズルなんて要らなかったじゃない。普通に走ってもドンドン引き離されたわ。持久力以前の問題よ。
私は水浴びの後、素直にアシュリンさんの服も洗濯した。
それにしても、スードワット様のお姿、とても嬉しかったな。ここに来て、良かった。
全然、巫女さんの仕事してないや( ゜ 3゜)




