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コリーさんの気付き

 明くる日、エルバ部長と巫女長は朝食後すぐに転移魔法でシャールに向かわれました。

 エルバ部長の転移魔法は転移先で魔力が抜けてしまうので、地中から魔力が湧いてくる所に飛ばないといけないなんて、出会った時に仰っていましたが、その辺りは大丈夫なのでしょうか。シャール近くにも魔力が湧いてくる場所があるのでしょうね。


 ルッカさんの転移魔法はそんなの関係なしに移動されまくっていますから、同じ転移魔法でも形式が異なるのでしょう。

 って、薬師処所属のケイトさんから聞きました。


 昨日の葡萄狩りの帰りは転移魔法でして、そんな話題になったのです。


 魔法学校に通った経験のあるケイトさん曰く、魔法で出した火の玉にしても、色、大きさ、形なんかが違うらしいのです。火と言えば赤色を連想しますが、確かにマリールが見せてくれた道具のように青い火もありますね。


 ある教科書には、それぞれの精霊が自分の取れる範囲で火の玉を用意するので差が現れると書いてあるらしいです。土さえも溶かす炎の玉もあれば、目に見えない火の玉もあるとのことです。見えないのに玉って分かるんですかね。


 ケイトさんは更に教えてくれました。火というのは物質でなくて現象だから、色んな方法で出現出来るのよ、と。

 薬師処の方々は賢すぎて、私では到底理解できません。なので、敵を燃やせれば何でも良いかと単純に考えることにしました。



 さぁ、今日は聖竜様の所へ行く日で御座います。私、勝負パンツを穿きました。気合い入りまくりです。ケイトさんに借りた水筒も有りますし、中に綺麗な葡萄の搾り汁が満タンなのも確認済みです。序でに味見も終わっております。変わらず蜂蜜の様に濃厚な甘さです。



 村の広場で私はルッカさん並びにマイア一家を待ちます。遠くにアシュリンさんがブルカノと一緒にいるのが見えました。二人揃っているのでブルカノで正しいです。

 彼らは村の警戒と言うお仕事をされているのです。メリナは感心致します。


 オロ部長はニラさんと王都の兵隊さん達の所へ向かっていました。オロ部長が捕まえた、やたらと黒い獣を差し入れしに行ったんですよね。オロ部長が大半食べたので、何の肉塊か判別できないのが恐ろしいことです。ニラさんの素朴な可憐さで、雰囲気くらいはうまく中和できると良いですね。



 赤毛のコリーさんも見えました。お住まいにされている小屋を出て、真っ直ぐに私へ向かって来られます。


「おはようございます、コリーさん」


「聖衣の巫女殿、私は未だに信じられません。本当に王を説得し戦争を止め、且つ、デュランの至宝をクリスラ様から譲られて戻って来られるとは。一晩寝ても覚めぬ夢を見ているのでしょうか」


 大仰ですね、コリーさんは。もっと緩やかに生きられたら良いと思いますよ。

 でも、私はクリスラさんとしか喋ってないです。王様は何か聞く耳持たないタイプでしたよ。


「そうだ、コリーさん。差し上げることは出来ませんが、この腕輪を試しに填めてみますか?」


「め、滅相もない。私が聖女様の証を身に付けるなど有ってはなりません!」


 ん? 聖女様の証?

 そんな重要な物だったのですか、この腕輪。さすが聖竜様が贈られた物ですね。

 アデリーナ様は転移の腕輪と呼んでいましたが、今一使い方が分かりません。聖竜様にお訊きしましょう。


 私が腕輪を擦っていますと、コリーさんが済まなさそうに言ってきました。


「戦争が終わり、この村から出て行く時も近付いております。なのに、私は未だ蝶となる為に貴方が教えてくれた言葉の真意が掴めておりません」


 あぁ、スライムの粘液の使い方の件ですね。大丈夫です。正直、知らなくても良いと思います。が、言ってしまった手前、答えは伝えねばなりませんね。


「……塗るんですよ」


「塗る? 不可解です……」


「私の先輩であるアシュリンは言いました。泡立てるのだと」


 言ってすぐに、私はヤツの皮膚は強固だったのではと危惧しました。下手したら爛れてしまうかもしれません。盲点でした。

 そして、もっと一般的な人に尋ねるべきだったと激しく後悔します。そう、恥ずかしくともシェラやマリールに訊くべきだったのです。


「泡? ネバネバしているだけでは…………。水を入れれば多少は……。はっ!?」


 私の心配にも関わらず、コリーさんは遂にスライムの粘液の使い方に気付かれたのでしょうか。いつもクールな彼女が少しだけ驚きの表情をされました。


 私は柔和な笑顔を装いつつも、コリーさんが大人への階段をワンステップ上がられた可能性に少し緊張しました。


「ある種のスライムは好んで香草を食べるためか、その粘液は大変な臭いとなります。我が国では、余りに酷い臭いの為に利用価値もなく焼却処分としますが、隣国においては、その稀釈液が薬用の化粧料として貴ばれている……」


 何ですか、その話。アシュリン、全く関係ないですよ。


「つまりは、蝶なのか蛾なのか、貴卑を決めるのは本人の資質でなく状況という訳ですか……」


 いや、自分で決めて良いのですよ。外観に関しては自己満足が一番だと思います。他人の評価なんかに振り回されてはなりません。切りがなくなりますから。

 あそこの箇所も外観って呼んで良いのかは微妙な判断が要求されそうですが……。



「あぁ! 巫女殿もあの時に『蛾はどうすれば蝶となれるのか』と問われました。それは巫女殿の願望でなく、私とアントン様を試されたのですね!? お前は蝶と思わせる状況を作らないのかと!」


 もう良いです。コリーさんは頭が弱いですので、別の機会に直接お伝えしましょう。今は太陽も明るくて、そんな話題をする時間でも有りませんしね。

 私は曖昧に笑って話を打ち切ります。



「巫女さん、お待たせ。コリーさんもグッモーニンね」


 ルッカさんが眠たそうに現れました。アクビなどもしておられます。胸元もだらしないです。


 コリーさんは私達に断ってから、村周辺の警戒任務へと向かわれました。

 その後ろ姿を見ながらルッカさんがボソッと言われました。


「あの子も変わってるわよね」


「えぇ」


 マイア一家がまだ現れず、時間もあるので、私は先程の会話の内容を伝えます。話の都合上、恥を忍んで私の悩みも打ち明けました。


「あぁ、やっぱり巫女さんが飛びっきりよね」


 …………そうなのです……か?



「そんなに私は毛深い?」


「は? アンノーンよ」


 知らないって事よね。吸血鬼だから人間の毛並みなんて分からないと? でも、今さっき飛びっきりって……。


「聖竜様ならお答えして頂けるでしょうか?」


「うーん、質問されても困るでしょうね。止めてあげなよ。竜だから毛もないし。神殿に帰ったら剃刀貸すわよ」


 ……はい。ありがとうございます。その際は勇気を振り絞りますです……。


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