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葡萄を目指して

 あぁ、ケイトさんは畑にいらっしゃいました。良かったです。いつもの黒い巫女服に、今日は日差しが強いからか、首に白いタオルを巻いておられます。

 アデリーナ草に囲まれながら、雑草引きをされているのかな。アデリーナ草も雑草みたいな物かと思いますが。


 この草は見た目が本当に気持ち悪いですね。歩行機能を携えた、長い二本の根っこ。背丈はエルバ部長くらいか、もう少し高くて、その先端に黄色い花弁で囲われた人の顔程の大輪が一つ。

 一番目立つのは、そこにある口と舌です。普通の向日葵に見えて、そこだけは獣みたい。いえ、野犬よりもだらしなく舌がはみ出ております。

 この舌は焼くと美味です。エルバ部長も試食でそんな事を言っておりました。そして、舌を取られたアデリーナ草は動きを止めて萎れるのです。

 私にはよく理解できなかったのですが、ケイトさんは舌に魔力が集まっているのかなと仰っていました。



 で、私が訪れたここは舌を引っこ抜かれたアデリーナ草だけの実験畑です。ケイトさんが色々と観察したいと言うので、萎れて動かなくなったそれらを植えているのです。


 一緒に植えたのは数日前ですから、まだ舌とかは生えてきていませんね。いえ、再生するかどうかは不確かです。でも、茎だとか葉っぱだとかはしっかりと真っ直ぐになっていました。


 ……今は動かないけど、ニラさんとかが襲われるとまずいですね。秘密にしていましたが、村の皆さんにお伝えしましょうか。




「おはようございます、ケイトさん」


 私の挨拶に彼女は立ち上がって振り向きました。


「お久しぶり、メリナさん。どう? だいぶ元気になったでしょ?」


 ケイトさんの元気がなかった訳ではありません。アデリーナ草の事です。


「はい。あのまま枯れるのだと思っていました」


「うふふ、私は畑仕事には慣れていますからね。植物のお世話は上手なんですよ。で、メリナさん。今日はどうしたの?」


 おぉ、ケイトさんは話が早いです。助かりますよ。


「甘い葡萄が欲しいんです。この辺りで生えている場所を知りませんか?」


「野生の葡萄なら見ましたが、甘味は劣るかもしれませんね。街で食べるものは品種改良されたものですから。それに小粒ですよ」


 うっ、バッサリです。そっか街に行かないと美味しい葡萄は手に入れられないのですね。ラナイ村に葡萄畑があれば、譲って貰えるかな。でも、今は敵地なんだよなぁ。

 クリスラさんが何かやってくれているにしろ、まだ伝令も着いていないと思うのです。


 がっくりです。

 折角、聖竜様をご訪問するのに手土産も用意できないなんて! この不甲斐ないメリナをお許しください!

 ……自らの身を捧げるしか有りませんかね。キャッ、メリナ照れます~。



「身を捻るほどに葡萄が欲しかったのか。うーん、少し遠い上に見た目が悪いものでも良いなら心当たりがありますけど?」


 聖竜様は質実剛健。多少の見た目などお気になさるはずがないのです。私はすぐに頷きます。


「そう。じゃあ、準備するので少しお待ちください」


 ケイトさんはそのまま村の方へ向かわれました。残された私はケイトさんの作業の続き、草抜きをします。これくらいしかケイトさんにお礼はできませんもの。



「よし、あの山を目指しますよ」


 軽装に着替えられたケイトさんはルッカさんを連れてきていました。


「えっ、二人も運ぶの? とってもヘビー」


 ルッカさんの飛行魔法を利用ですか。私もご遠慮します。

 と言うことで、ルッカさんと私の意見が一致しまして、私は地上を進むことにしました。ケイトさんは怖いもの知らずです。


「メリナさん、あの向こうに見える山の斜面ね。あそこに葡萄の木が見えますよね。あれを目指しますから」


 見えますよねって同意を求められても、そんなの分からないです。遠過ぎて霞掛かってますよ。

 ルッカさんを見ましたが、彼女も同感の様です。


 しかし、ケイトさんを抱えてルッカさんは空を飛んでいきました。ルッカさんは素直ですね。文句一つ言わずでした。私なら軽口の一つや二つは叩くのに。



 さてさて、私も向かいましょう。

 足首をぐねぐね回して関節を解してから、その場で大きくジャンプして靴のフィット感も確認する。うん、オッケーです!



 私はガッとダッシュします。出来るだけ真っ直ぐにケイトさんの示した山を目指す。

 木々は最小限に避けつつ、小枝や藪程度ならそのまま突っ切る。切り立った崖が現れても軽やかに飛び下り、絶壁もたまに手も使いながらですが足先で鹿の様に跳ねて登る。


 魔物? うん、確かにいますね。

 でも、私は進化しているのです。魔力感知で事前に把握。襲って来る攻撃的なヤツらも把握していれば、今まで以上に楽勝です。拳の一撃で粉砕で御座います。


 たまに浮かんでいるルッカさんの姿で方向が合っていることを確認しつつ、私は目標地点に到着したのでした。




「……巫女さん、本当に強くなってない? あなた、ミステリアス」


 えぇ、ルッカさんにとっては一瞬だったでしょうが、私は100日近く修行しているのです。あの膨大な魔力は失ってしまいましたが、魔力を感知したり、体内の魔力を操作したりは出来るようになっているのですよ。


「聖竜様の思し召しで御座います」


 私は竜の巫女らしく返答しますよ。自分に自信が付いてきて余裕を感じるようになってきたかもしれませんね。


「それよりも葡萄です。ルッカさん、聖竜様に捧げる立派なものを探しましょう」


 山の斜面に生えている葡萄の木を見ながら私は言います。

 あっ、朽ちかけですが、木枠とかもありますね。葡萄の蔦で隠れて見えにくかったですが、これ、誰かが育てている物かしら?


 その疑問をケイトさんに尋ねると、「手入れされていないので、放棄されたものでしょう」との事でした。


 ならば、取り放題ですね! 赤いのやら緑のやら、いっぱい有りますよ。


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