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村を歩く

 さてと、アデリーナ様のせいで遅くなった朝食も頂いて、私はお散歩です。

 ニラさんには本当に感謝します。私がアデリーナ様に解放されるのをお食事ルームで一人待っていてくれて、出来立ての料理を出してくれたのですから。

 シャールに帰ったら、お洒落な帽子をプレゼントしようかな。



 広場へ行くと、グレッグさんとヘルマンさんが今日も剣の稽古をされていました。あっ、近くには師匠もいらっしゃいますね。

 目が合ったので会釈しておきました。皆様の仲が良いかは分かりませんが、少なくとも師匠を退治しようという態度ではなくて良かったです。

 むしろ、腕を組んでいる師匠を、ゴブリンの癖に生意気だと私が駆除したくなる気持ちを持つくらいですよ。



 少し離れた所で、エルバ部長は巫女長とお話中でした。こちらの方々にも会釈をします。


「おい、メリナ。マジでご苦労だったな」


 この村の中でダントツで幼い部長が最も偉そうな口調なんですよね。躾って大事なんだと思いますよ、私は。


 部長は目敏く私が身に付けている腕輪に気付きました。


「おまっ! そ、それ、デュランの至宝じゃないのか!? その彫刻、絶対にそうだろ!」


 エルバ部長が指し示すものだから、巫女長までも私の腕輪に視線を持っていかれました。


「まぁ、今はクリスラさんがお持ちだったものですね。メリナさんが頂いたのかしら。あらあら、似合っておられますね」


 巫女長からはそんな感想でしたが、誤解のないようにしないといけませんね。私が強盗紛いの事を行う人間だと勘違いされてはなりませんから。


「いえいえ、エルバ部長。リンシャルちゃんからのプレゼントと交換しただけですよ。何なら、マイアに訊いて貰っても宜しいです。私はとても友好的に手にしたのです」


 アデリーナ様には強奪とか言い放たれてしまいましたから、「友好的」は特に強調しておきましょう。あの人は私を何だと思っているんでしょうね。


「あっ、マイアな。あぁ、マイアだ。……あれもマジで信じられないよな」


「そうそう、メリナさん。私は感激致しました。聖竜様と共に冒険をされた大魔法使いマイアさんとお話できるなんて、人生は本当に不思議がいっぱいです。一件落着しましたら、私、たくさん聖竜様の事をお聞きしますよ」


 おぉ、私もそれをしなくてはいけませんね! 神殿でアシュリンさんとグダグダやるのはルッカさんにお任せです!


「メリナさんもご一緒しましょうね」


 あぁ、素敵な巫女長様。何てお優しい方。私はどこまでも付いていきます。そんな覚悟です。


「メリナ、マイアの件は他言するな。アデリーナとも相談したが、一般に知らせるには衝撃が大き過ぎる。本人が身元を外に言うのを望むのであれば、今の情勢が落ち着いてからな。誰が聞いているか分からんから、仲間内でも余り触れるなよ」


 なるほど、それがさっきのアデリーナ様の態度だったんですね。


「あと、本当にご苦労だった。よく実際の戦闘が始まる前に内戦を止めたな。マジでお前はスゲーよ」


「ありがとうございます。でも、幸運の賜物ですので」


 私はペコリと頭を下げる。しかし、内心は嬉しいのですよ! 誉められる事の何たる気持ち良さ! もっと、私を賞賛なさい!



 後ろで足音がしました。


「やっと起きられたのですね、メリナさん。体の方は異常が残っていませんか? エルバさんもフローレンスさんも、おはようございます」


 マイアでした。傍にはシャマル君もいます。手も繋いで本当の親子みたいです。


 ……あれ?

 違和感を持ちました。二人の魔力が弱まっている? 特にシャマル君の。顔色も悪い気がします。

 視線を戻した時にマイアと目が合う。


「気付かれましたか、メリナさん。そうなんです。ちょっとまずい状況でして、夫とシャマルの魔力が徐々に抜けているのですよ。……このままでは生体を維持できず死んでしまうかもしれません」


 !?

 師匠はともかく、シャマル君まで!?


「メリナさんと同じ症状だと思います。速度は遅いですが、魔力が発散しているんです。私と違って、あの空間で生まれた二人はこちらでは生きていけないのかもしれません」


 それは大変です!


「マイア、私、すぐにクリスラさんに相談しますよ!」


 私の焦りはマイアには届かなかったようです。軽く首を横に振ってから、微笑まれました。


「ありがとう、メリナさん。でも、大丈夫です。明日にでもワットちゃんに相談しようかなと思っています。ワットちゃん、ああ見えて、やれば出来る竜ですから。どうも今は聖竜様と呼ばれているようですし、期待しています」


 見た目通りに、聖竜様は出来る竜ですっ!

 私が反論しようとしたところで、巫女長が横から口を挟んできました。


「まぁまぁ、スードワット様ね。私、嬉しいわ。ねぇ、私も勿論ご一緒出来るのよね、メリナさん。遂にお会いできるなんて、本当に嬉しいです」


 巫女長様、とても幸せそうに仰いました。柔らかな笑顔がとても素敵です。えぇ、是非ともご一緒しましょうね。私達、本当に気が合いますよね。



「ダメだぞ、フローレンス。お前は私と共にロクサーナの所に向かうんだからな。言っただろ、さっき」


 なんと非情な人なのでしょうか、エルバ部長。あの巫女長様が気落ちした風に下を向かれましたよ。


「下手な演技は止せ。大丈夫だ。ルッカもマイアもいるんだ。明日でなくてもスードワットの、あぁ、悪い、スードワット様の下へ行けるだろ」


「あらあら、ロクサーナさんの所こそ、いつでも行けるのではと私は思うのです」


 顔を上げた巫女長が言葉を返されました。


「諦めろ。ロクサーナを説得するのがお前の役目だ、マジで。お前なら地位的に、ロクサーナの要望を聞いて、更に王都側と妥結交渉するのも簡単だろ。このタイミングを逃すなよ」


 エルバ部長が巫女長の背中を慰める様にポンポン叩きます。巫女長も小柄だからエルバ部長でも背伸びしなくても大丈夫ですね。


 マイアも話が付いたと判断したのでしょう。私に言います。


「それではメリナさん、私は夫を見てきます。そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。シャマルもこう見えて約80,000歳ですからね。死んだとしても、もう悔いも無いでしょう」


 それを言われると、むしろ大往生で良い気がしました。



 私も巫女長や部長から離れて、村の外へと向かいます。ある目的でケイトさんを探すためです。で、一緒に植えたアデリーナ草の所にいないかなと思った次第です。



 あっ、村を囲む柵の所で、ふーみゃん発見! その横にコリーさんがしゃがんでいて、何やらご飯を上げている様子です。

 しかし、私は心で泣きながら、ふーみゃんの傍へは向かいません。


 今はケイトさんの下へ急ぎましょう。


 スードワット様の所へ行くなら、とっても甘い葡萄を持参したいのです。畑仕事で植物にも詳しそうなケイトさんなら、どんな葡萄が一番甘いか知っていると思うんです。

 だから、ふーみゃんを撫で回すのは後回しなんです。辛いです。


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