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久々のルッカさん

 私たちは王様の天幕を出ました。久々に風を感じました。あと、一面氷の世界とは言え、草の匂いがうっすらしますね。


 クリスラさんとは「またお会いしましょう」と別れました。あと、私達が安全圏に抜けた後に、氷の魔法を解除することを約束しております。



「うわぁ、本で読んだみたいに緑の世界なんだな」


「床は堅いや。父ちゃん、凄いね。あと、人がいっぱい生えてるよ」


 シャマル君、違います。これは床でなく氷です。それから、人は木みたいに映えてきませんよ。これは…………私が仕出かした事です……。



 天幕の前に立っていた衛兵っぽい人が私を睨みました。というか、抜刀して敵意を剥き出しです。

 何せゴブリンが普通に傍にいますものね。おかしいですよね。


 ただ、顔色がとても悪いです。死なないルッカさんの異常な姿を見続けられたのでしょうか。それとも、仲間が次々と毒牙に掛かるのを見せ付けられたのでしょうか。

 何にしろ、その様な辛いことがあったにも関わらず、健気に自分の持ち場を守ろうとしているのですね。


 ペコリと頭を下げて、そそくさと天幕を離れます。それから、なるべく意識のない人が多い場所へ移動しました。



 ルッカさん、少し頑張り過ぎでは無いでしょうか。かなりの人が氷の上で座っているか、寝転んでおります。老若男女関係無しです。

 ルッカさんが噛みにくいフルプレートの方々は立っておられる方が多いですね。



「奇妙な光景です。ただ、早くここを去りましょう。クリスラを早く動かした方が宜しいでしょう」


 マイアがそう私に言いました。異様ですものね。しかし、その原因を私は知っています。


「待ってください。ルッカさんを見付けないといけません」


 ……本当に見付けないといけないのか? それに、私はあの飛行魔法をもう一度味わう必要があるのでしょうか。いえ、そもそも、来た時よりも三人増えていますよ。ルッカさんが支えきれず、落下の危険性が高まっているのではないでしょうか。


「ルッカ? 誰なんだな?」


 師匠が呑気に訊いてきました。


「吸血鬼です。兵隊さんの血を吸い続けています」


「それだけ聞くと、燃やした方が良いと思えるんだな」


「あなた、メリナさんのお仲間ですよ。もう少しお優しくされて下さいな」


 そう言ってからマイアが私を見る。シャマル君も釣られて私を見ました。


 私の発言を待っているのでしょう。

 ルッカさんかどうかは不確かですが、宿営地の端っこの方から強い魔力を感じるのです。恐らく、マイアも師匠もシャマル君も同じでしょう。


「皆様、迎えに行きますね」


「えぇ、吸血鬼なんてレアですよね。懐かしいです」


 私も懐かしいです。ルッカさんとお会いするの、私的には久々ですもの。見事に戦争を終結に導いた事を「グレートだね」とか言って、誉めて頂けるでしょうか。

 あと、あの人の頭に刺さっていた剣と槍は私が抜かないといけないのかな。




 ルッカさんは簡単に見つけられました。もうなんて黒い魔力なのでしょう。今までの自分の鈍感さにビックリですよ。魔力を感知できなかったにしても程があると思わざる得ません。

 それくらいにルッカさんの魔力はドス黒くて特徴的です。

 あっ、頭の剣は取られていました。良かったです。マイア達がより一層引いてしまうところでした。



 次々と兵隊さん達の首筋に噛み付いておられる彼女に声を掛けます。


「ルッカさん、もう帰りますよ。お話は無事終わりました」


 いつもなら、ここで「早いわね、巫女さん。アンビリバボーよ」って言ってくれると思うのですが、無視されました。

 夢中ですね。どれだけ飢えていたのですか。本当にお腹を壊しますよ。


 よく見たら、ルッカさんの魔力は様々な色の魔力が混ざって黒いんですね。それ、やっぱり他の人の魔力を食べ過ぎている証拠なんだと思いますよ。



 私は更に近付いて、声を張り上げます。


「ルッカさん! ストップ! もう帰りますよ!」


 噛んでいた人を乱暴に倒して、ルッカさんはゆっくりこっちを見ました。

 大きく口を開けて、鋭い二本の牙を見せてきます。威嚇してきているのですか? 狐、いえいえ、リンシャルちゃんと同じ様なレベルですよ。正気ですか、ルッカさん?



 …………正気じゃない!


 血走った目には敵意が見えました。

 瞬間、ルッカが消える。


 どこだ!?



 私の勘と魔力感知の方向は一致しました。師匠の後ろです。


 師匠よりも長身のルッカさんは覆い被さる様に口を師匠の禿げた頭に近付けています。

 ……これは。首から血を吸うよりは確かに背を曲げなくて楽だと思うのですが、それで良いのですか、ルッカさん!

 ゴブリンの脳天にキッスみたいな行為って、プライドは無いのですか!?


 ……師匠は残像を残しながら前進します。無駄にハイスペックなゴブリンですからね、師匠は。


 ルッカさんは立ち止まったままです。

 顔は下を向いたままでよく見えませんが、えぇ、ビックリされている事でしょうよ。



「ルッカさん、そのゴブリンは敵じゃないですよ。もう帰りますから、宜しくお願い致します」


「……ググク……ググググァァァ!!!」


 おぉ……。獣の雄叫びですか……。ワイルドですよ。……ルッカさん?



「なかなか愉快なお仲間ですね」


 横にいるマイアが言いました。フードを頭から外して、背中側に流しました。ルッカさんに顔を見せて敵対していないことを分からせようとしたのでしょうか。


「完全にイッてますよ。悪い魔力の影響を受けてますね。こんな時はどうすべきか分かりますか、メリナさん?」


「……大概は殴れば解決です」


「正解」


 マイアは杖を手に持つ。無詠唱の収納魔法だと思います。師匠とシャマル君は私の後ろに隠しました。


 ったく、何を下手しているのですか、ルッカさん。聖竜様の使徒なんて肩書きは返上ですよ。私が頂きます。


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