素晴らしいよ、メリナ
「……部長って、メリナの部署の部長でしょうか?」
シェラが恐る恐る確認してきた。
私は黙って頷く。
「な、なぜ? メリナは魔法が使えるって言ってたけどさ」
マリールもドン引きよね。
自分の事ながら喋って気付く、恐ろしさ。
「新人研修で……、試されました」
「試されたって、あんた、部長の頭に氷を打ち込む状況なんか有り得んの!?」
普通はないよね……。常識を疑うよね……。
「ギャハハハ、何それ!凄いじゃない!メリナ、サイコーよ!!」
一人、テンションが違う人がいるし。
「カトリーヌさん、ひー、カトリーヌさんに氷を打ち込んだって!破天荒過ぎるわね!!」
「……メリナ、他にはないの?」
まだ笑い続けるアデリーナ様を止めることをせずにシェラが私に訊く。
「……氷を部長の口に入れて、それを殴りました」
「クッハッ! いいね、メリナ!! 久々に凄いのが来たわ!!」
目に涙を浮かべながら、アデリーナ様が肩を叩いてくれる。
余りに騒ぎ過ぎて、周りの巫女見習いさんがチラチラこちらを見るんだけど、その笑い声の主がこの寮の最大権力者と確認すると、そそくさと部屋を出ていく。
「……どんな状況よ。なんで、殴ってんのよ。口に固い物が入った状態でそんな事されたら、血まみれになるじゃない」
「メリナ、部長はどんな方なの?」
んー、部長が獣人って言っていいのかしら。神殿の秘密だったりしたら、どうしよう。ちらりとアデリーナ様に視線で確認を求める。
「蛇よ、蛇! あいつ、そうか、メリナに興味を持ったんだ! でも、まさか新人に殴られるなんて思ってなかったよね! 」
はっきり、仰られたわ。
「……蛇みたいな人ってこと?」
合ってるわ、シェラ。外観がね。だから、あなたの想像とは多分違うけど。
「あの、アデリーナ様。うちの部長をご存じなのですか?」
笑いすぎて息が乱れている王家の方に私は質問する。
「仲良いのよ。次の飲みの、いいツマミが出来たわ。いや、素晴らしいね、メリナ!」
オロ部長と呑むの?どこで、どうやって。
お酒の席でも筆談なの。
「メリナもいらっしゃる?」
「ご遠慮させて下さい」
即答よ。そ く と う!
どう考えてもアデリーナ様の独壇場じゃない。忍耐力を高める修行なら他でやるわよ。
「メリナ、昨日もそのような教育だったのですか?」
心配した顔でシェラが私に訊いてくれた。正直、嬉しいけども触れて欲しくない。
「ここだけの秘密にして頂きたいのですが」
私はニヤニヤしているアデリーナ様には期待せず、他の二人に言った。
マリールが唾を飲み込む。
「先輩と殴り合いました。お互いに骨折しました。いえ、先輩は恐らく骨折です」
シェラが自分の口に手を持っていって驚く。声は我慢してくれた。
マリールが目を大きくして、私に言う。
「あんた、可愛い顔して、とんでもないわね。それだけして、昨日は澄まし顔で部屋で待っていたの?」
そういう風に思うよね、マリール。
言い終えて、マリールがハッと身動ぐ。
「……メリナ、あんた、昨日の私が吹っ掛けた時も私を殴ろうとか思った?」
再び黙って首肯く私。それから、マリールが誤解しないように伝える。
「でも、今は思ってないよ」
「当たり前よ!どれだけ気が短いのよ!」
短気度合いでいけば、アデリーナ様にも喧嘩を吹っ掛けたあなたも同レベルだと思うわ。
うー、でも、このままじゃ良くない。私はお母さんみたいな大人レディーになりたいのよ。
「あんた、巫女としての矜持はないの!?」
ぐっ、マリール、年下の癖に鋭い言葉で私の心を抉ってくるわね。昨晩のあなたに同じ文句を浴びせたかったわよ。
「いいのよ、マリールさん。様々な方がいてこその竜神殿です。その辺りを明日の夜から教えてあげましょうね」
笑みを湛えたまま、アデリーナ様が言う。
「是非お願い致します」
シェラが間髪入れずに返答した。
でも、アデリーナ様よ。碌な話にならないのではなくて。所々、戦慄しながら聴かないといけないかもよ。いいの、シェラ?
「えぇ、折角、メリナが楽しませてくれたのですから、私もお返ししましょう。今日はもう遅いですから、解散ね」




