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天才かもしれませんね

 気持ち悪い狐の形の魔獣は、無数の目をそれぞれバラバラに動かしながら、口を開きました。肉食獣に相応しい鋭い歯が並んでいるのが見えます。


『くふふ。こんな方法があるんだね。久々に出て来ちゃったな』


 動作としては喋ってはいるものの、声の波紋は見えません。だから、魔法で伝えてきているのでしょう。


「……何者ですか?」


 言いながら、私は足に力を入れる。殺るなら白い腹。氷や炎の魔法が使えない今だと、そこしか届く高さに急所が有りませんね。


『マイアちゃんの精霊だよ。ずっとマイアちゃんの願いを叶え続けて、観察していたんだよ。そして、この先もずっと』


 私にとってのガランガドーさんみたいなものか。いえ、何か気持ち悪さを感じます。



「師匠、小屋に戻ってシャマル君の傍に。戦闘になる可能性があります」


「あ、あぁ、そうさせて貰うんだな」


 よし。殺るか。


 私がそう気合いを入れたところで、マイアの声が聞こえました。



『……メリナさん、凄いわね……。縮退させた魔素に対して、更に強制的な魔圧を掛けることにより、一時的に空間を魔場優勢として魔素を局在化。併せて、光子の形で魔力エネルギーを放散させ、魔的振幅及び回転の両運動を減衰させる。そうすることにより、通常空間では物質化し得ない精霊を呼び出す。結果からの推察として、理論的には理解できましたが、それを現実にやってのけるとは……。粗野に見えて、魔法の真髄を学んでおられましたか? 人間には作り出せない程の魔圧を、あのように魔力それ自体の作動法則を利用して生じさせるとは思いませんでした』


 …………? 混乱させないで下さいっ!



『素敵な出会いが嬉しいよ。僕は君に興味があるなぁ、メリナちゃん。力を貸してあげるから、体をくれないかな? 最初は勿論、君の精霊になってあげる。もうマイアちゃんは要らないから返すね』


 狐も自分の思いの丈だけを喋ってくる。


 何なのですか!? 皆、自分勝手でして、私としてはイライラが募るばかりです。

 早く殺させなさい!



 突然、気配がした。

 何に起因するのかは不明でしたが、魔力が揺れ動き、私の横で何かが起こると分かりました。


 少し離れて安全圏へ。多少の物や速度なら対処出来る様な距離を取ったのです。



 現れたのは女性でした。クリスラが被っていたみたいな黒いローブを身に纏っています。年頃は私より上、アデリーナ様くらい。いえ、もう少し上かな。アシュリンさんくらいですね。

 ローブは頭巾付きでして、焦げ茶色の髪の毛が隠されています。


 出現したそいつ自身も驚いているようでして、震える左右の手を顔に持っていて触覚を試しているようでした。



 こいつがマイアか…………。間違いないでしょう。


「くたばれ、クソがっ!!」


 私は隙だらけだったマイアの頬を頭巾の上から思いっきり殴りました。10歩分くらいはヤツの体が吹っ飛んだと思います。着地しても数回バウンドし、狐の前足に当たって止まりました。



 ふぅ、私を愚弄した事と、僅かながらですが、恋のライバルとなる可能性を持つ事が、マイア、あなたの罪です。後半に関しては、ほぼ死罪に値します。

 何がワットちゃんですか。色目使いめ。殺すぞ。と言うか、今、死ねっ。



 次は狐か。こいつも殺す。

 完全な殺意を持って、私は睨み付ける。



『……メリナちゃん、な、何のつもりなのかな? いきなり人を殴るなんて、僕でもびっくりだよ』


 私は答えない。相手を観察するのに全力なのです。


 精霊って何か知りませんが、所詮は魔獣でしょう。人間様に逆らったらどうなるか、その身に覚えさせないと、また里に下りてきて悪さをするものです。駆除です。それも惨たらしく死体を放置しないといけません。仲間がいれば、それを見て避けることでしょう。


 あっ、腹以外にも攻撃出来ましたね。私はやっぱり天才かもしれません。



 私は拳大の石を拾い、大きく振りかぶって、それを狐に上手で投げ付ける。

 リリースの瞬間に指先を引っ掻けて、縦回転を入れる。レオン君との蛙投げで編み出した、私の得意技です。こうすることにより、蛙の飛距離が大幅に良くなります。速度が失速しにくくなるのです。



 今回の石も真っ直ぐ、いえ、少しホップする感じで鋭く進み、狐の胸に突き刺さりました。


 くくく、やはり魔獣。

 赤い血が出てきましたね。絶対に殺します。


 なぜなら、私の精霊になろうなどとふざけた事をぬかしやがったからです。私の精霊はガランガドーさんと聖竜様。そこにお前が入ってきたら、聖竜様成分が減るだろうが、このカス野郎めっ!!




『あ、あっ、あっ、血だ。僕が人間に、傷を付けられた? おかしい。僕は精霊なのに。人間ごとき――グァァ!!』


 狐は襲ってくる気配が無かったので、更に石を三発ほどぶちこむ。腹、首、頭と狙いも変えてやりました。


 狐の目が一つ潰れた。しかし、あれだけ多いと視覚を奪うのは困難ですね。まずは鼻狙いが良かったか。



『ああぁ、ラウラちゃんの目が潰された……。あんなに怯えながら、でも、聖女になりたくて、頑張って目をくれた人なのに』


 狐は妙な哀しみの声を上げている。

 反撃はして来なさそうで、ぶつぶつと呟くのみです。目が弱点なのでしょうか。



 ふむ。試してみましょう。


 私は数個の石を砕く。中から赤い魔力が出てきて、私の体内に入ろうと動く。それを制しながら、キュッと固めて球の形にする。木の実みたいに小さいですけどね。それが、ふわふわ宙に浮いています。


 私は念じて、その玉を狐の顔に飛ばす。目が何個あるのか数えるのも面倒なお顔ですので、顔に当たれば、まず間違いなく目に直撃します。だから、また眼球を破壊できました。


 更に、狐の頭を貫通した魔力の玉を引き戻し、後頭部からも攻撃して、下顎の先から出す。そこにあった目も破壊できました。



『あぁ、マーラにアンの目も無くなった……。どっちも可愛くて強くて素敵な人で、優しかったのに……。だから、聖女に選んであげたのに……』


 動かない的は射ちやすいですね。そのまま、ぐちぐち何かを独りで言っておきなさい。


 空中に弧を描くように魔力の玉を動かして、次の攻撃へ向ける。


 瞬間、狐が光った。


『許さない! 僕のコレクションを傷付けた、君を許さない! すぐ死ぬ生物のくせにぃ!!』


 狐が牙を剥きました。

 ふむむ、良いでしょう。来なさい。


 あと、あなたの足下のマイアを序でに踏みつけて、念押しの止めをお願いします。

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