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師匠と弟子

 今日も聖竜様はすぐに消えてしまいました。もう数えきれないくらいチャレンジしているのですが、成功致しません。


 喉が渇いたので、私は口の中に水を作って飲む。


「あっ! お嬢ちゃん、今、魔法を使ったよね!? 何かを飲み込んだよね」


 師匠はゴブリンらしい醜悪な顔なのに、更に必死に詰まらない事を指摘しようとするのだから、見れたものではありません。


「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれませんね。唾かもしれませんね」


「絶対、魔法だったよ! だって、僕も魔力の動きを掴めるんだよ。誤魔化しても無駄だから! さぁ、早く。次の願いを言ってご覧よ!」


 師匠……。

 そんなに焦らなくても宜しいですのに。



 私は魔法で水を空中に出し、砂埃で汚れた手を洗う。冷たくて気持ち良いです。師匠がいなければ、裸になって頭から被りたいですね。


「ほら! その水は何なのかな。……不思議そうな顔をしても無駄だよ。魔法でしょ! 魔法以外にそんな事が起きないじゃない!」


「……証明できますか? 今のが私の魔法だと。奥様の魔法かもしれませんよ」


「ねぇねえ、本当にどういうつもりなんだろう? 早く元の世界に帰りたいんじゃなかったのかな。…………前に言っていた『この世界を貰おうかな』って冗談だよね?」


 私は無言で師匠に微笑む。



「本当に帰って! ここは僕達家族の愛の巣なの! たまに来る悪い人を焼いて、平和に暮らしているの!」


 愛の巣か……。だから、欲しいんだよね、この世界が。聖竜様と住みたいんだよなぁ。


 でも、魔力の流れを読めるようになって分かった事があります。師匠も気付いているかもしれません。

 それをいつ伝えるかですね。




 下山の道を私が先に歩いていると、師匠が後ろから声を上げました。


「ねぇねぇ。空のあの辺りに星が見えるかな? あれ、出口の印なんだ。あそこまで飛んで行けば外に出られるんじゃないかな」


 師匠の指先を追うと、確かにキラリと光る明るい点が見えます。


「遠いですね。無理です。私、まだ魔法を使えませんから」


「絶対に魔法を使ってるって認めないよね。毎日、白い立派な竜を召喚してるのに」


 うむ、師匠も私の聖竜様が立派である事を感じ取っていたのですね。誉めてあげましょう、師匠!

 ならば、私も答えて差し上げます!


「居心地良いんですよ、ここ。ごちゃごちゃうるさい人がいないし。それにシャマル君が教えてくれたのですが、あっちの世界の時間ではお食事一回分しか経ってないらしいんですよ」


「シャマル! ダメだよ! ……お嬢ちゃん、僕の可愛い息子を籠絡していたんだね!」


 失礼な。私はルッカさんとは違います。


「あの幼さで博識ですね、シャマル君は。師匠の血が混ざっていないのが幸運でしたか」


 私の言葉に師匠は目を見開かして驚かれました。

 でも、誰でも分かりますよね。ゴブリンの父と、亡霊の様な母から人間が生まれるとは到底思えません。


「なっ! そうだけど、その事実をシャマルに伝えてないよね!? 絶対に秘密なの! 『僕の顔、お父さんと違うね』とか言われても、僕は心を痛めながら黙っていたんだよ。何て非道なお嬢ちゃんなんだろう」


 笑止ですよ、師匠。

 シャマル君は優しいのです。彼は知っていましたが、あなたに気を遣って直接伝えなかったに過ぎません。


「師匠…………。シャマル君は強いです。外の世界に行っても、家族でいたいと言っておられましたよ」


「……シャマル……」


 師匠、目の端を擦っています。前に殺したゴブリンもそうでしたが、人間みたいに涙を流されるのですね。


 ゴブリンやオークは亜人って言うのでしたか。獣人という呼び名もそうですが、人間サイドから見るが故に、そんな失礼な呼び方になるのですよね。余り好きな単語では無いです。



「改めて確認したいのだけど、お嬢ちゃん、もう完全に魔力の流れを見えるようになってるよね。それこそ、僕よりも上手になってないかな」


 ……師匠のレベルは、最初に魔力を見る事が出来た時から越えていたかもしれません。


 今はより完璧に近付きました。



 師匠やシャマル君を構成する魔力の質も完全に読めます。緑色が主体で、白が少し混ざっています。食事を取った際に少し乱れますが、基本的にはほぼ同じ魔力の質をされていますね。

 血縁になくても魔力は一緒なんですね。そういう意味では家族なんでしょうね。


 

 生物だけでなく、石なんかにも魔力を感じます。こちらは、一つ一つ微妙に異なりまして、赤色が主体ですが、黒や茶色も混ざっているのですね。柔らかさを出すには黄色い魔力です。

 魔力は万物に存在する。誰かに聞いたことがありますが、それをここまで実感するとは思いませんでした。



 私は石を一つ手で割る。ギリギリっていう音が石の悲鳴みたいです。


「その石を砕くの、何か怖いんだな。独りの時にやって貰えないかな?」


「そうですか? これ、中の魔力が出てきて楽しいんですよ」


 そう、粉砕する事で中に詰まっていた魔力が溢れるのです。それが私の中に吸い込まれるのも感じます。特に黒色の魔力は相性が良いのか、私の体全体に馴染でいきます。

 ふふふ。私が強くなっていく、そんな感じがしますよ。これがお母さんの言っていた周りの魔力を吸い取って利用するという方法なのかな。



「あぁ。そんな良い石を破壊するなんて勿体無い。磨けば、良い器になると思うんだな」


 師匠は時間があれば石を手で擦っています。気が遠くなる程繰り返す事で、石は丸みを帯び、やがて窪み、そして師匠の思う形とするのです。

 小屋で使っている皿もフォークもそんな風に作っていると仰っていました。

 無限と読んでも良いくらいの時間の中に住まれている師匠は暇なのでしょう。それを潰すには良い趣味だと思ってあげますね。


「削った方が早くないですか?」


「その感覚だとダメなんだな。丸みをこうね、付けるのが芸術なんだよ」


 まぁ、師匠は分かっていないのですね。


「シャマル君、気持ち悪いって言ってましたよ。師匠のお皿、手垢と怨念が籠ってそうって」


「シャマル!!」



 さて、そろそろ麓ですね。



「そう言えば、奥様は、どうして体をお持ちになられないのでしょうか?」


「霊体だからかな。どうしてなんだろうね。もう疑問に思う事も無かったんだな」


「知りたいですか?」


 師匠は少しの逡巡の後に、首を縦に動かされました。


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