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二つ目のお願い

 私は椅子から飛び跳ねて、ゴブリンの側面に入る。それから、横腹へ真っ直ぐ、拳で突く。そこを貫通させて中にまで手を入れ、臓物を引摺り出してやる予定です。


「お願いの二つ目です! 死んでくださいっ!」


「そんなの聞けるか!」


 意外に素早い動きでゴブリンは私の腕を避けました。

 ふむ、気合いを入れ直しましょう。


「我が儘はいけませんっ!」


 私は踏み込んで追撃。躱された腕を素早く振り上げ、手刀を下ろす。頭を骨ごと粉砕して差し上げます。


 ブォンと心地よい風切り音が走りました。が、それだけ。期待した感触は有りません。

 またもや、逃げやがったのです。


「お願いを聞いて貰えないなんて詐欺師みたいです」


「こっちも大人しそうな顔に詐欺られた感が物凄いんだよ。お嬢ちゃん、ほん――」


 うふふ、喋りにかまけてはいけませんよ。

 くたばれ!


 私は更に言葉を続けようとしたゴブリンに突進する。動きが素早いことは分かりました。普通のゴブリンでは無いのですね。

 なので、接近して捉えます。その後に転倒させて、馬乗りになって顔面や喉を潰す。プラン変更です。


 相手の腕を掴んだと思った瞬間に、ゴブリンはその虚像を残して後ろに下がりました。

 残像? ……魔法か……。転移系の一種かな?


 私はこの空間で魔法を使えないのに、下等な貴様は使えるのか!?

 許しません!!



 私は猛追。


 少しだけ唇を上げてゴブリンは笑いやがりました。……そんな余裕は今だけです!



 相手がそこに居ないかの様に、私は間合いを無視してもう一歩踏み込む。膝が当たりそうになったところで、ゴブリンの残像が見えた。予期していた私は足の動きを止めない。追いかけ続けます。


 ゴブリンは半透明の虚像を残しつつ、後ろ向きに後退します。やはりスピードは並大抵のものではありませんね。

 追い縋る私を降り切ろうと細かく方向を変えたりもします。私が追ってくるのを嫌がっていますね!


 お前の魔力が尽きたところで、仕留めてやりますからっ!


 たまに殴打や膝蹴りを出して変化をさせながら、相手を追い込んで行きます。



「汗が滲んでますね」


「くっ……」


 うふふ、もう少しで食らい付けそうです。

 


 それからも縦横無尽に荒れ地を駆け続け、遂に相手の動きが鈍ってきました。まだ捕まえられませんが、時間の問題ですね。

 相手の顔面中に噴き出している汗が気持ち悪いです。

 


「……降参していい?」


「もちろんです」


 ゴブリンは動きを一気に緩め、それと共にゆっくりと残像が追う様に消えていきます。


 素直に引っ掛かりましたね。私はそのままの速度で肩から体当たりしました。


「ぎゃっ」


 何回も地面を跳ねても、尚、動こうとするそいつに、私は馬乗りになって拳を上げる。


 くくく、驚いておられますね。

 いい子だから、このまま、この世を去りなさい。



 思わずニヤリと私が笑ったところで、火の玉が正面から顔に向かって飛んできました!


 あぶなっ! 無詠唱の攻撃魔法まで使えたのか!?


 思っきり背を反らすことで、何とか躱せましたが、毛が焼けた臭いがしました。前髪が数本焦げたのでしょう。


 体勢が崩れたせいでゴブリンを解放してしまいました。とても残念ですが、圧倒的に私が有利です。今の火球魔法で、もう魔力も限界でしょう。

 そもそも、最初から無詠唱魔法で応戦すればまだ勝ち目もあったと思います。私の実力を見謝ったのがあなたの敗因です!



「ずる賢い。人類の敵ですね。さぁ、あらためて、二つ目の願いです。私が魔法を使えるようにして、それから死になさい」


「……えっと、色々と疑問なんだな。とりあえず、魔法を使ってどうするの?」


「あなたを殲滅しますよ」


「……願いを叶えても殺されるの?」


「叶えなくても殺すので、死ぬ直前に善行をさせてあげようという格別に優しい心遣いです」


「…………絶句って、こういう時に使う言葉なんだな。したくなかったけど、実感したよ」


 今の返答で分かりました。

 こいつ、私の魔法を使いたいという願いを叶えられるのです。

 それは何としても実現させたいです。魔法が使えれば、この空間を出る手段に幅が出ますもの。



 その可能性を考えていると、後ろで物音がしました!

 小屋の扉!?


 しまった! まだ仲間がいたのか!

 やはり殺すまでいかなくても傷付けておけば良かったです!



「と、父ちゃんをイジメるな!」


 マジか。

 ……うーん、ゴブリンの声なんて聞こえなければいいのに。

 一気に殺すのが気まずくなりましたよ。


「……息子ですか?」


「だな」


「…………」


「シャマル! よく見るんだ! お父ちゃんの勇姿を!」


 えー、本当にどうしましょう。

 父親の矜恃から学ぶというより、一生のトラウマを息子さんに植え付けて良いのでしょうか。


 ……私は目を瞑って気持ちを落ち着けます。



「……お願いでなくて取引なのですが、あの子の命を取らない代わりに、私が魔法を使えるようにしてくれませんか?」


「それは許されないんだ。お嬢ちゃんが危険な人だとは分かったんだ」


 拒絶の返答は分かっていました。

 しかし、これでどうでしょうか?


「では、あなたの息子さんと奥さんに『私を拘束した上でエッチな事をしようとした』と伝えないという条件も付けましょう」


 ゴブリンの眼が動いた。動揺しましたね。


「そんな……。あれは水を飲まそうとしただけで……」


「言い訳は奥さんにしなさい」


 暫しの沈黙の後、ゴブリンは手を伸ばしてきた。

 それに敵意は無い。



「よし! 魔法の使い方を教えような! 宜しくな、お嬢ちゃん」


 教える? アンチマジック的なものがあって、その効果を無くす訳じゃないんだ……。

 分かりました。ご教授願いましょう。


「お願いします、エロチック師匠!」


「やめて、やめて。絶対やめて、その呼び方。勘違いするから。うちの嫁さん、そういうの敏感だから」


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