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隔離空間

 二人しか存在しない空間で、クリスラが口を開く。

 私はそれを注視する。この人、目を閉じている? 盲人?


 だとしたら、音や床の振動で位置を探る感じか? 虫系の魔物に多い奴ですね。



「ここがあなたの墓場となるのです。白き蜥蜴にお祈り下さい」


 白き蜥蜴? ……聖竜様の事ですか!?

 貴様、その単語を使った事を後悔するが良い!!


「平穏な日々を破ら――」


 喋っている最中のクリスラに私は最短距離で突っ込み、相手の顔面に正拳突きをした。完全に撃ち抜いたと思ったのに手応えなし。


 クソ! 転移か!?

 エルバ部長と似ている!


 なら、背後か!?


 私は伸ばした腕をそのままに、体を回転させて裏拳を繰り出す。


 それも空を切りました。



 見渡してもクリスラはいません! ならば、上!

 しかし、そこにも居ないのです。


 念のために足下も確認。何の変哲もないタイルしか見えませんね……。



 考えられる可能性は、幾つか有ります!

 再転移で去り私だけをこの空間に閉じ込めた、認識障害系の魔法で私にはクリスラが見えない、不視可魔法で身を隠している、そもそも全てが幻覚魔法でこの空間自体が架空の物。



 うー、分からないなぁ。


 私はくるっと周囲をもう一度見渡します。

 ……何もないか……。地平線しか見えません。



 あっ! 何か紙みたいなのが落ちてる! 


″あなたは私に囚われました。ここは牢獄。私の目の中で朽ち、世を乱した罪を贖うのです″


 そんな事が書かれていました。


 私は床に正座して考えます。幻覚魔法だとしたら、惑わされている私を攻撃するのには、もう十分な時間が経ちました。

 だから、この光景は幻では無いでしょう。


 紙を信じるとしたら、ここはクリスラの閉じた目の中。確かにエルバ部長の水晶の中と似ていますから、そうなのかもしれません。


 さっきまでクリスラはこの中にいました。なのに、消えました。転移魔法で出入り出来ると言うことでしょうか。また来たときにぶち殺せば良いのかなぁ。


 ルッカさんの助けを待つというのも有りますが、悪手か。私がここにいる事を知る方法がないですもの。


 困ったなぁ。

 このままではお腹が空きます。そして、ひもじく死んでしまうのです。何より戦争を止めらなくて、聖竜様を幻滅させてしまうのです。


 しかし、諦めるにはまだまだ早いです。

 よし! 出来るだけの事はしてみましょう!

 まずは魔法が使えるかどうかです!


 私は立ち上がって、よく使う氷の槍を試してみる。


 ……発動しない。


 くそ! アンチマジック的な物があるのか!

 来るのかどうか分からないクリスラを待たないといけないの?



 何度か試しましたが、氷も炎も出てきませんでした。……万事休すです。泣きそうです。魔法無しで脱出なんて出来るのでしょうか。


 私は簡単に嵌められた自分への不甲斐なさの余り、床を思っきり殴りました。


 すると、ビシッと床のタイルが割れました。


 …………。


 おぉ!!

 これに賭けましょう!!



 回復魔法も使えないのに、後先考えずに床を叩いてしまいましたが、拳は無事です。無意識に体内の魔力で拳を固めたのでしょう。


 私はそう理解して、今度は意図的に体内の魔力を拳と指に集める。力の限り堅く、それから、鋭く。そんなイメージでもって、タイルの割れ目へ手刀。



 くくく、目論み通りにタイルは破壊されました。土が剥き出しです。


 精霊さんへの願いで発動する魔法は使えないけども、体内の魔力は残っている。ということは、外部との遮断系の魔法が働いている場なのでしょうね。


 この牢獄の広さが分かりませんが、クリスラの術の中です。聖竜様の従者だったマイアさんの力を借り受ける者とか言っている人間です。つまり、聖竜様には遠く及ばない者です!


 こんな空間、粉砕してくれるわ!



 私は掘り続ける。土や礫は別の場所に積み上げる。正直、魔法が使えれば楽だったのにとは思いますが、地道に掘るのです。


 穴が私の背丈よりも深くなったところで、スコップの様に土へ深く突き刺した手に違和感を感じました。

 ぶよんとした何かがあります。


 土を掻き分けて、それを視認する。半透明で、少し湿っています。透明なスライムの粘液みたい。いえ、もう少し固いですね。苔くらいの固さかな。


 ″目の中″と書いてありました。つまり、眼球の中っていう、そのままの意味ですよね。

 このぶよぶよの先に、外側があるのでしょうか。私はまたもやタイルの上で正座して考えます。


 丸いとしたら、この横に広がる地平線と同じ様な深さが有るかもしれません。

 しかし、魔法で構築された空間だとしたら、丸に作る必要性は有りませんし、むしろ無駄です。高さ、深さ方向は最低限で設定した方が効率が良いように思います。そして、節約した分を横方向に振り分けて、可能な限り広げることでしょう。


 囚われた人に絶望を味わわせるのなら、そうすべきです。歩いて歩いて歩き続けても風景が変わらない。大概の人は一日くらいで心を折られるのでは無いでしょうか。



 私はタイルの破片を手に取り、空へ投げる。放物線を描いて落ちてきました。コツンと床に当たった音が響きます。


 今度は腕に魔力を込めて、全力で同じ石を上に投げます。


 しばらく耳を澄ませても音はしませんでした。


 念のために四方八方にも石を投げて、音がすることを確認しました。


 確実です。この空間の上方向は低い! 同じ様に地下方向も期待できます!


 私は思わず笑みが溢れました。



 もう一つ調べないといけない事がありますね。

 私は穴の底へ行き、先程見付けた粘膜みたいな物を手で剥ぎ取ります。


 まずは鼻に持って行き、臭いを嗅ぎます。無臭。

 それから、更に細かく千切って肌に塗り、刺激がないことを確認。

 更に口へ入れます。飲み込みはしません。

 舌で固定して頬の裏にしばらく当ててから、唾ごと吐き出す。味もしませんでした。

 口の中に痺れや痛み、痒みもありません。恐らく毒ではない。


 食料を見付けました!


 遅効性の有毒物という恐れもあるので、直ぐには食べませんが、お腹が空いたら頂きましょう。



 掘って掘って掘りまくりです。

 かなりの時間を浪費させられましたが、最後に出て来た固いガラスの様な膜をぶん殴ると、パリンと割れまして、視野が暗転。


 私は再び天幕の中に立っているのでした。

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